日々是総合政策No.63

経済成長(続き)

 こんにちは、ふたたび池上です。前回は、絶対収束、条件付き収束のお話でした。今回は技術革新と経済成長のお話です。
 前回までの経済成長のお話は、技術革新がない場合のお話でした。その場合、すべての国の一人あたり生産量(所得)の成長率(経済成長率)は少しずつ鈍くなり、やがてゼロとなります。前々回お話した、生産関数の収穫低減の仮定により、投資すればするほど投資のリターンが小さくなり、経済成長率も鈍くなるのです。また、生産関数、貯蓄率、人口増加率が同じ国々は、同じ一人あたり資本量、生産量に収束します(条件付き収束)。最終的には途上国経済が先進国経済にキャッチアップすることが予測されます。
 しかし、現実には、先進国の経済成長率はいまだにゼロとなっていません。技術革新をこの理論(モデル)に加えると、各国の経済成長率はゼロではなく、技術進歩率に収束することになり、先進国でも経済成長を継続している現実を説明できるようになります。例えば、日本の技術進歩率が毎年2%ならば、日本の経済成長率は、経済成長につれてだんだん鈍くなりますが、ゼロではなく2%に収束します。
 この経済成長のモデルは最初に考え出したソローという人の名前から、ソロー・モデルと呼ばれ、大学の開発経済学やマクロ経済学の基礎として学ぶものです。この基本モデルの限界(不備)として、以下の2つが挙げられます。
 このモデルから、経済成長に伴い、一人あたり資本の増加、経済成長が鈍くなることが予測されます。しかし、現実のデータをチェックすると、成り立っていません。これが、このモデルの1つ目の限界です。
 また、現実のデータを分析すると、経済成長の主な源泉である、 一人あたり資本の増加と技術進歩の2つは、同じ位の値で経済成長に貢献している、つまり、経済成長にとって同じ位、重要であることがわかっています。このモデルの2つ目の限界は、それほど重要な技術進歩が、なぜ起きるのか説明できない、していないことです。
 これらの2つの限界を克服する、新たな経済成長のモデルがいくつも生み出されています。次回は、そのお話ではなく、経済成長にともなう農業の縮小など、産業構造の変化のお話の予定です。

(執筆:池上宗信)