日々是総合政策No.201

オンライン診療-カイザー・パーマネンテの事例を参考に(上)

 前回(No.186)は、アメリカにおけるCOVID-19の感染者数とオンライン診療の利用状況を概観しました。現在でも感染者が増加しており、12月26日までの累計数、死亡者数がそれぞれ約1,873万人、33万人になっています(注1)。
 ワクチンや治療薬の研究・開発が急務とされますが、オンライン診療は、①COVID-19の感染予防・早期検査につなげ、また、②基礎疾患患者の受診機会を確保する上で有用とされます。今回は、カイザー・パーマネンテの事例を取り上げます(注2)。
 上記の①について、ウェブサイト(Kp.org)において「COVID-19:Latest updates about the vaccine, testing, how to protect yourself and get care」等のコンテンツが設けられています。加入者は、この中の「Looking for care options? Start with an e-visit or COVID-19 assessment to share your symptoms and get guidance for care」をパーソナル・コンピュータや携帯端末により確認して、「I have a kp.org account」 ⇒ 「Start an e-visit」、「USER ID」、「PASSWORD」の入力後にオンライン診療となります(注3)。
 ②については、加入者は専用の「Member’s service」 ⇒ 「Start an e-visit」あるいは「Get care、USER ID」、「PASSWORD」を入力して、オンライン診療を受診します。①と②において、各加入者が最初に接する医師は、健診結果や診療・服薬歴を把握している担当医(主に家庭医等のプライマリケアに従事する医師)になります。
 これまでの実績の一例は、次のようになっています。

図 カイザー・パーマネンテのオンライン診療の実績(一例)
出所)Kaiser Permanente「COVID-19: The latest information」、「Kaiser Permanente’s Response」https://about.kaiserpermanente.org/our-story/news/announcements/coronavirus-the-latest-information(2020年12月26日最終確認)。
注)外来診療の約50%がオンラインによるものとされ、図の(1)には、上記①、②の利用者が含まれます(基礎疾患を抱えた加入者・患者がCOVID-19に感染したケースもあるとされます)。(2)のRxは処方箋の略称であり、薬剤の入手方法として、カイザー・パーマネンテの契約薬局での受け取り、あるいは自宅への郵送を選択することができます。Rxの中でCOVID-19関係の薬剤は、FDA(Food and Drug Administration)により承認されたもの、あるいは緊急使用の許可が得られたものになります(服薬指導もオンラインを通して行われます)。(3)は主にPCRの検査数ですが、検査外来に限らず、検査キット(郵送)の利用が増えています。この費用は(現段階では)無料とされ、原則的に連邦政府や州政府の補助金により賄われることになっています。検査方法については、Kaiser Permanente「Facts about COVID-19 testing」https://healthy.kaiserpermanente.org/health-
wellness/coronavirus-information/testing
を参照。

 PCR検査等の結果と症状、基礎疾患の症状により、在宅診療の継続、あるいは精密検査や入院等の判断がなされます。これらの早期対応と対面診療の補完として、オンライン診療が広く活用されています(注4)。
 次回は、これに関するカイザー・パーマネンテの運用・管理システムを整理します。具体的には、2005年以降に導入されたオンライン診療の方法を取り上げ、これが上記の①、②に応用されていることを見ていきます。

注1)Centers for Disease Control and Prevention「CDC COVID Data Tracker」https://covid.cdc.
gov/covid-data-tracker/#cases_casesper100klast7days(2020年12月26日最終確認)より。アメリカでは、10月末以降、感染者数、死亡者数が急増しており、前回(No.186)の10月21日時点ではそれぞれが約810万人、22万人でしたが、およそ3か月後の12月26日までに前者が1,873万人(1,063万人増)、後者が33万人(11万人増)となっています。
注2)カイザー・パーマネンテは、全米の9地域において医療保険事業を展開する非営利の民間保険団体であり、カリフォルニア州が中心拠点になっています(約1,200万人の加入者の中で、70%が同州の居住者です)。今回は基本的な方法を整理することにして、成果や課題については、詳しい情報が確認できた段階で、別稿において取り上げます。なお、カリフォルニア州は、感染率(人口10万人あたりの陽性者の割合)が高く、感染者数が全米で最多の約200万人となっています。
注3)加入者以外は、I don’t have a kp.org account ⇒ Start a COVID-19 assessmentにアクセスしてオンライン診療の受診となります。この場合には、医師は初診の患者として症状や既往症、治療・服薬歴を聴取・把握する必要があります(これに要する費用の一部は、州政府の負担とされます)。
注4)加入者がオンライン診療を受診する際には、原則的に追加負担は発生しません。主な理由は、カイザー・パーマネンテの医療保険事業の基本目的が「重症化・長期入院の抑制」(広くは予防医療の重視)にあり、オンライン診療はこのための方法の一つと考えられていることにあります。

(執筆:安部雅仁)

日々是総合政策No.200

日々是総合政策200回を記念して

 「日々是総合政策」が今回で200回を迎えます。今後も300回、500回、1000回と続くことを期待しております。
 私自身は今回を含めて20回書かせていただきましたが、毎回、どのテーマで書こうかとワクワクしながら取り組んでいます。この間、読んでいただくことを意識して、やや大胆な表現を用いたり、あまり注目されていない論点を提起してみたりと、何とか知恵を絞りだしています。時には言いたいことが十分適切に表現できないことに焦りを感じたり、主張を裏付ける資料・証拠をいかに簡潔に示すかに苦心したりしています。
 皆さんは、800字前後で文章を書いてみなさいと言われたら、どう感じますか。テーマをどのようにして探すのか、誰を念頭に何を訴えたらよいかなど、苦労されるかもしれません。
 私は、年少の頃から文章を書くのが大の苦手でした。ところが、今では書きたい、取り組みたいテーマが常に10個以上あり、毎回、どれを選ぶかに苦労しています。言いたいことも常に5つ6つあるせいか、毎回、分量オーバーとなり、いったん書き上げたあとには一部を削る作業が待っています。
 どうして自分は変わったのかを振り返ると、その答えが大学生時代にあることに思い至ります。富山から東京に出てきたばかりの私は当初、高層ビルを眺めては、この広い東京で自分の居場所はあるのか、自分は間違って東京に出てきたのではないかと不安だらけでした。
 そうしたときに、「君は大学で何を、何のために勉強するのか」「勉強してそれをどう活かしたいのか」など、簡単そうで実は非常に難しい問題を毎日のように投げかけてくる先輩がいたのでした。そのあたりから自分だけの狭い世界に限界を感じ、疑問を持ち、文字通りゼロからの勉強が始まったように思います。
 大学生時代にそういう人たちと出会ったことで、自分とは異なる人の存在、異なる意見を持つ人の存在を知り、自分の答えを他人にはっきりと伝えることの重要性を悟ったように思います。そのとき以来、私にとって、多様性(diversity)と包摂(inclusion)、そして自分の意思を積極的に伝えることは、最も重要な価値になったと思います。このような私を受け入れてくださる総合政策フォーラムの存在は、私にとって「永久に不滅」です。

(執筆:谷口洋志)

日々是総合政策No.199

焼き鳥串刺しの話

 中小企業の生産性が低いために日本の労働生産性が先進国の中で低い。ならば最低賃金を引上げて生産性が著しく低い中小企業に廃業を迫ってはどうか。そんな議論が政府の審議会であったと聞く。最低賃金制度は最低賃金法に基づき国が賃金の最低限度を定め、使用者が守らなければ罰金が課せられる。乱暴な議論のように思えるが、生産性を高めること自体に異論はないだろう。
 もう20年以上の前の話だが、あるJA(農業協同組合)の理事長に、首都圏の企業から焼き鳥屋に卸すため、鶏肉を串に刺した形で買いたいとの話が舞い込んだという。鶏肉の調達は良いが、串に刺す手間がコスト上問題となった。当時、焼き鳥串刺しマシーンがあって、購入すれば1000万円を超えるという。いくら生産性を高めるといっても、田舎のJAには高価な上に、依頼が無くなれば無用の長物になり兼ねない。
 そこで、年金だけに頼る無職の高齢者を集めて、手作業での串刺し作業を僅かな労賃で依頼した。早朝定刻に作業場に集まり、皆が世間話に花を咲かせながら単純作業をする。午後の2時頃には作業を終了し、帰り道に農協直営の温泉場に行き汗を流し、湯上りに一杯となる。もちろん労働生産性は著しく低いし、ひと月目一杯働いても数万円というが、これで温泉に入り若干の飲食をし、孫たちに玩具やお菓子などを買い小遣い銭を渡す。皆嬉しそうだと言う。
 どう計算しても時給は最低賃金以下になる。どのように対応したか知らないが、集まった高齢者が楽しく幸福ならよいのではないか。高齢者の健康には規則正しい生活と人々とのコミュニケーションが何よりも大切という。低賃金の焼き鳥串刺し作業の参加も良いではないか。本コラムNo.118で述べたように、日本人は欧米人と違って、エデンの園の「禁断の果実」を食べた罰として働いているわけではない。労働作業そのものに喜びもある。低賃金は最低賃金からその喜びを差し引いた額かも知れない。
 高齢者の医療・福祉対策が求められるといっても、若い世代から得る税金が使わるのは心苦しい。焼き鳥串刺しの話は何か重要なことを教えてくれている。そう思いながら、高齢者である私はこのコラムを書いている。

(執筆:元杉昭男)

日々是総合政策No.198

2021年元旦

 本年は、元旦に「新年明けまして、おめでとうございます」とは言い難い、お正月を迎えました。
 年頭にあたりまして、新型コロナウイルス感染症の猛威のもと、いまも大変なお仕事に従事なさっている医療関係者各位はじめ多くの皆さまに、心より感謝申し上げます。さらに、厳しい日常をお過ごしの皆さまのお心が少しでも休まるような日々が一刻も早く参りますよう、お祈り申し上げます。
 いまこそ、次世代の若い皆さんに考えていただきたいことがあります。皆さんは、これまでとはまったく異なる環境のもとで、一年近く生活をしてきました。コロナ感染症の不安と不確かな環境の中で、皆さんは何に一番時間を傾注したのでしょうか。もし手帳や日記やカレンダーにご自身のスケジュールを書き込んでいたならば、2020年の或る月や或る週の過ごし方を時間数で測ってみてください。例えば、2020年4月・8月・12月の生活時間の1日平均はどうだったでしょうか。1年前の同じ月の生活時間の1日平均とも比べてみてください。
 睡眠・食事・入浴など生理的に必要な活動(1次活動)の平均時間、通勤通学・仕事・学業・家事・育児・介護など社会生活を営む上で義務的な性格の強い活動(2次活動)の平均時間、テレビ・休養・学業以外の学習自己啓発・趣味娯楽・スポーツ・交際など一般に余暇活動といわれる自由な時間における活動(3次活動)の平均時間を概数でもよいので計算してみてください(注)。
 特に、3次活動の内訳に着目して、一番時間を傾注していた活動は何だったのでしょうか。その時間こそ、皆さんの未来の扉を開く鍵になります。その最大限に時間を傾注した活動を否定せず大切にして、その活動をご自身の個性や魅力や強みに結び付ける糸口を考えてみてください。その活動を、コロナ禍で大変な時間を過ごされている方々の一助となるように変換する活かし方を、是非とも考えていただきたいのです。その変換には、3年から5年あるいは、それ以上の時間がかかるかもしれません。
 しかし、若い皆さんには、そうした中長期の時間軸の中でご自身の個性や魅力や強みを活かした自己実現をして欲しいと願っています。本年が皆さんにとりまして、素晴らしい1年になりますようお祈りいたします。

(注)ここでいう1次活動・2次活動・3次活動の平均時間の定義については、「社会生活基本調査」の生活時間(https://www.e-stat.go.jp/koumoku/koumoku_teigi/M 最終閲覧2020.12.30)を参照ください。

(執筆:横山彰)

日々是総合政策No.197

変化対応と闘争

 2020年は、これまで「当たり前」であったことを続けることが難しくなり、私たちの世界を大きく変えることになった1年であったと言えます。その変化は、言うまでも無く、新型コロナウイルスによってもたらされたものでした。
 多くの職場で「在宅勤務」の導入が進んだように思います。在宅勤務や営業活動のリモート化が促進されることは、オフィスを置く地域や住環境の選択にも影響を及ぼします。会議や営業活動がリモートでできるのであれば、都心にオフィスを置く必要はないかもしれません。また、大きなオフィスを置く必要もないかもしれません。これは経営の観点から言えば、コスト効率化に大きく寄与する可能性があります。
 もし、毎日、通勤をしなくて良いのであれば、郊外の広い家に住むという選択もしやすくなります。自然に囲まれた環境や自分の趣味に取り組みやすい環境に住みながら、ワークライフバランスを実現しながら働くことの方が、もしかすると生産性は高まるかもしれません。
 人々の生活や行動の変容は、すなわち消費者のニーズも変化します。企業にとって大切なことは、こうした消費者のニーズの変化を適切に捉え、自らのサービスモデルを変革させていく、すなわち、変化に対応することです。これが経営の本質です。
 変化に対応すると言っても、全く新しいことを始める、ということではありません。企業には、これまで積み重ねてきた顧客からの信頼、すなわち「ブランド」があるはずです。そのブランドの提供方法を柔軟に変化させていくことで、新たなサービスを創造していくことが重要です。
 環境の変化に対応できる者は生き残り、対応できない者は生き残れない。世界は無常であり、自然淘汰と進化が常に繰り返されてきました。2021年は、企業やサービスモデルの生存競争がより一層激しくなると思います。
 こうした移行過程にあって、制度や組織は、人工的な変化が必要とされます。その時に生じるのは、「古き者」と「新しき者」との間の価値と利害対立です。社会変容の移行にあって、「既得権」との闘争のプロセスが必然とされることは歴史的に見ても明らかです。変化対応とそれに伴う闘争、これが2021年の大きなテーマとなることでしょう。

(執筆:矢尾板俊平)

日々是総合政策No.196

自然災害とその復興課題について(2)

 日本の水道インフラは老朽化しており、とても脆弱です。厚生労働省による「新水道ビジョン推進のための地域懇談会(第10回)」でも全ての管路を更新するのに約130年かかると言う見解を示しています(注1)。人口減少化社会と節水器の普及で料金収入に基づくハードな更新事業が難しくなってきました。発災時には、多くの水道事業体が他の水道事業体や外郭団体・OBと協定を結ぶことでマンパワーを確保しながら、広域的な災害復旧を行っています。平常時の防災訓練や危機管理も含めて、大規模地震や台風の被害が最小限に抑えるような政策を試みています。
 もっとも、早期の災害復旧には様々な課題を抱えているのも事実です。派遣される応援部隊や資機材の搬入に時間を要するだけでなく、水道管路の布設状況が共有できていないこと、あるいは様々な連携不足から早期の災害復旧が滞るケースもあります。「災害時における受援体制に関するガイドライン(仮称)の素案について」では担当者の移動、連絡先の変更に対応できない等を理由に相互応援協定の締結だけでなく、共同訓練を通じた実効性の高い応援体制を確保するよう呼びかけています(注2)。
 また、災害後の早期復旧については具体的な応急復旧目標も設定しなければなりません。発災から何日後までに応急給水を達成させ、何週間後までに応急復旧が可能であるのかを想定しておくことも必要となります。水源の確保状況や給水手段により異なるものの、水道が唯一の給水手段である場合、水道事業の応急復旧目標は2週間から4週間が望ましいと言う見解を熊谷[2016]は示しています(注3)。ただ現実的には、日本水道協会編『水道統計(平成29年度)』に基づくと、多くの水道事業体が応急復旧目標を設定していません。人手不足を考慮しながら、水道事業体はいかに応急復旧目標を設定するのかも重要となるでしょう。

(注1)厚生労働省「新水道ビジョン推進のための地域懇談会(第10回)」、下記のURL(最終アクセス2020年9月23日)を参照。
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/topics/bukyoku/kenkou/suido/newvision/chiikikondan/10/suishin_kondan_10-1.pdf
(注2)「災害時における受援体制に関するガイドライン(仮称)の素案について」53頁、下記のURL(最終アクセス2020年9月23日)を参照。
http://www.bousai.go.jp/kaigirep/tiho_juen/dai4kai/pdf/shiryo02.pdf
(注3)熊谷和哉[2016]『水道事業の現在位置と将来』水道産業新聞社、221-223頁。

(執筆:田代昌孝)

日々是総合政策No.195

COVID-19と財政出動

 COVID-19対策として政府は積極的な財政出動を行っているが、その規模はどれくらいになるのだろう。日本政府の対応の規模感をつかむために、歳出増の対GDP比をG20及びその他の先進25カ国を加えた合計45カ国の中で比べてみよう。図1の縦軸にはIMFが2020年10月に発表した2020年9月11日時点での、COVID-19に対応するために行われた追加支出等の金額の対GDP比が示されている(注1)。横軸には2020年12月3日時点の人口100万人当たり死亡死者数をとっている(注2)。IMFの注意書きにあるように、各国の財政制度は異なるので、あくまで大まかな推定かつ暫定的な数字である。それでも、世界の中での日本の立ち位置が少し見えてくる。日本は、ニュージーランド、シンガポール、オーストラリア、香港とともに、死亡者数が少ない中では大きな追加支出を行なっているグループを形成していることがわかるだろう。

図1 追加政府支出の対GDP比(%)

 COVID-19への対応は直接的な政府支出だけでなく、中小企業の資金繰り支援などの流動性確保を目的にした融資や返済猶予・免除などの形でも行われる。図2には、流動性支援のための融資等金額の対GDP比が示されている。これを見ると、先ほどあげた5カ国のグループの中では、日本が特異な位置にいることがわかる。どうやら、日本政府は直接的な支出での対応以上に、流動性支援で対応している割合が大きいようだ。
 次年度は景気後退に伴い十数%の税収低下が見込まれているが、COVO-19感染症の問題は未だに収束する様子を見せておらず、政府支出の追加を求める声も強くなるだろう。その際には、他の国との比較でみていくことで政策に対する新しい視点を提供してくれるかもしれない。

図2 追加政府支出と流動性支援等の対GDP比(%)

注1)IMF, Fiscal Monitor Database of Country Fiscal Measures in Response to the COVID-19 Pandemic (2020年10月)https://www.imf.org/en/Topics/imf-and-covid19/Fiscal-Policies-Database-in-Response-to-COVID-19
注2)Worldometer, (2020年12月3日)https://www.worldometers.info/coronavirus/
URLの最終アクセスいずれも 2020年12月3日。

(執筆:小川光)

日々是総合政策No.194

結婚と離婚、そして緊急事態宣言(下)

 結婚をするカップルもいれば離婚するカップルもいる。2020年4月に出された緊急事態宣言は、離婚の決定にも影響している。婚姻届出の状況と同じように、図には緊急事態宣言が出された2020年4月以降の6か月間の離婚届出件数が、前年の同期間(2019年4月~9月)に比べてどのくらい変化したかが示されている。あわせて、緊急事態宣言の影響を相対的に見るために、緊急事態宣言が出されていない2019年10月から2020年3月までの離婚の届出件数の変化率を前年同期(2018年10月~2019年3月)と比べて示している。
 これをみると、緊急事態宣言が出される前の離婚の届出件数は、前年同期に比べて、特定警戒都道府県で1.7%減、それ以外の地域で2.7%減と微減だったことがわかる。特定警戒都道府県の方が1%ポイント程度であるが減少幅は小さい。この数字は、緊急事態宣言が出されたのち、特定警戒都道府県で16%減、それ以外の地域で11.8%減となった。今度は、特定警戒都道府県において減少幅が4.2%ポイント大きくなっている。

図2.離婚届出件数の変化率(%)
出所:厚生労働省『人口動態統計(人口動態調査(速報・月次))』

 ここでみた結婚と離婚の届出件数の変化については、差の差分析を用いるなどの考察を経たわけではない。しかし、緊急事態宣言は人生の大事な決定、あるいは、そのタイミングに影響を与えたように見えるし、政府によって特定警戒都道府県に指定された地域に住むカップルの方が、それ以外の地域のカップルに比べてより影響を受けたように思える。離婚に比べて結婚に関する決定の方が政策の影響を受けやすいともいえそうだ。感染症を防ぐ目的をもった国の政策が、結婚や離婚といった、人生の大事な選択にまで影響を及ぼしているわけだ。思わぬルートで政策は人々の人生に影響を与える。それだけ政策の立案は難しい。
 緊急事態宣言が出された4月以降の6か月間で届出のあった婚姻数はおよそ25万。離婚の届出件数は約10万。未曽有の状況下のカップルが一生懸命に考えて下したそれぞれの選択が、二人にとって最良の選択となることを願う。

(執筆:小川光)

日々是総合政策No.193

Stay-at-home考(2)

 人々はなぜ自粛して、家にとどまろうとするのか。政府が呼びかけるからか。恐らくそういう人も一部にはいるだろう。しかし、圧倒的多数の人にとってはそれは、感染症に関する様々な不安、つまり自分や周りの者が感染して隔離され、死亡したり、後遺症を患ったり、あるいは感染した事実が周りに知れて差別されたり、職や収入を失ったりすることを避けたいからであろう。
 では不安の払しょくは可能だろうか。不安が完全に払しょくされるには感染症が完全に消え去ること、つまり終息する以外にはない。また、不安がある程度軽減されるには感染症の拡大が収まり、低い水準にとどまること、つまり収束することである。
 人々ができる限りの自粛やstay-at-homeを続けた結果、感染症が収束に向かったとしよう。そうすると恐らく、政府は自分たちの呼びかけ、つまり自粛要請、時短(営業時間短縮)要請が成功したからであると考えるに違いない。しかし、実際には人々の強い不安が自粛やstay-at-homeを招いたのであり、政府が呼びかけたからではない。
 菅首相は、11月26日の会見で、マスクを着用せずに、「是非ともマスクの着用、手洗い、そして3密の回避という、感染拡大防止の基本的な対策に是非御協力いただきたいと思います」(https://www.kantei.go.jp/jp/99_suga/statement/2020/1126kaiken.html)と語った。
 街を歩けば、すでにほとんどの人がマスクを着用し、入室・入館時に消毒液で手を洗い、3密を避けるように行動している。中には二重マスク着用の人もいる。こうした状況で、首相の呼びかけは、すでに個人がやっていることを続けてくださいと言っているだけで不安の払しょくとは無縁のメッセージである。
 それどころか、感染症の第3波が到来し、4日間で1万人の感染者が発生しているにもかかわらず、移動や会食を増加させようというGoToキャンペーンを続けている。一方では自粛やstay-at-homeを求めながら、他方では自粛やstay-at-homeを否定するような策を講じている。
 そもそもGoToキャンペーンは、感染症が収束し、人々の不安が大幅に軽減された状況ではじめて検討の余地があるものであり、感染症拡大の不安が増大している状況で実施すべきものでは断じてない。
 GoToキャンペーンは、人々の不安を増大させるばかりで、人々をますます自粛やstay-at-homeに追いやり、宿泊・飲食業の支援にはほとんど貢献しない。現在のGoToキャンペーンは、矛盾した政策で効果は乏しく、危険で恥ずべき愚策であるとしか言いようがない。

(執筆:谷口洋志)

日々是総合政策No.192

いま、何を語るか

“And so, my fellow Americans: ask not what your country can do for you–ask what you can do for your country.” (注1)

 これは、アメリカ合衆国第35代大統領ジョン・F・ケネディが大統領就任演説(1961年1月20日)で語った一節です。アメリカンセンターJAPANの仮翻訳では、「だからこそ、米国民の同胞の皆さん、あなたの国があなたのために何ができるかを問わないでほしい。あなたがあなたの国のために何ができるかを問うてほしい。」となっています。(注2)
 この一節については、色々な含意が議論できます。「あなたの国」の部分の「country」を「community」や「friend」や「family」に代えてみると、「あなた」と「あなたの国」との関係から、「あなた」と「あなたの共同社会」・「あなたの友人」・「あなたの家族」との関係になります。「あなた」と「あなたの国・共同社会・友人・家族」との関係は、どのような関係なのでしょうか。広くは互恵関係と考えられますが、「あなた」の方が「あなたの国・共同社会・友人・家族」からより多くの恵みを得ているのでしょうか、あるいは逆に「あなたの国・共同社会・友人・家族」の方が「あなた」からより多くの恵みを得ているのでしょうか。
 また、上記の就任演説で「何ができるか」と問われたとき、「何について」かを考えた人もいたでしょう。いまなら、まさに「コロナ感染症対策について」、「あなた」が「あなたの国・共同社会・友人・家族」のために「何ができるか」を問うてほしい、となるでしょう。その一方で、「あなたの国・共同社会・友人・家族」が「あなた」のために「何ができるか」を問うことも必要になるかもしれません。
 加えて、「何ができるか」の部分の「can」を「should」に代えてみましょう。すると、「何ができるか」ではなく「何をなすべきか」になり、「コロナ感染症対策について」、「あなた」が「あなたの国・共同社会・友人・家族」のために「何をなすべきか」を問うてほしい、となるでしょう。他方、「あなたの国・共同社会・友人・家族」が「あなた」のために「何をなすべきか」を問うことはできるのでしょうか。

(注1)出所: https://www.jfklibrary.org/archives/other-resources/john-f-kennedy-speeches/inaugural-address-19610120 <最終閲覧:2020.11.9>
(注2)出所: https://americancenterjapan.com/aboutusa/translations/2372/<最終閲覧:2020.11.28>

(執筆:横山彰)