スウェーデンの地方税(16)-応益課税の変化
地方税原則のうち応益課税を取りあげます。応益課税は、公共支出からの便益に応じた課税を公平とします。たとえば、ゴミ袋の料金負担がその理想型です。国税では税の負担能力に応じた応能課税が求められます。応能課税は所得再分配機能を含むので、住民の移動が容易な地方政府には不向きです(本コラムNo.296を参照)。ただ、佐藤(2009)が指摘するように(注1)、応益性・応能性は相対的です。たとえば、比例所得税は累進所得税に比べ応益的とされます。
図は、スウェーデンの地方税総額の査定所得階層別負担率(地方税÷査定所得)を示します。以下、個人単位です。
図 地方税の査定所得階層別負担率1999年・2020年

*負担率は%,査定所得は万クローナ。
(出所)注2,71頁の図3より。
横軸は7つの査定所得階層です。査定所得は基礎控除前の勤労所得から少額の通勤費等を控除したものです。
青は1999年の値で、10万クローナ(約140万円)超の6つの階層がほぼ同じ負担率です。
橙と緑は2020年の値で、2007年以降に展開された勤労控除(労働所得税税額控除)と保険控除(公的年金保険料本人拠出分の税額控除)を考慮し、両控除前(橙)と両控除後(緑)の負担率を示します。両控除とも地方税に適用されます(本コラムNo.295を参照)。
控除前では、30万クローナ超の4階層でほぼ同じ負担率です。40万クローナ以下までの4階層における累進的負担の制度的要因は、65歳以上向けの基礎控除(2009年に導入)と考えられます(詳細は注2を参照)。
控除後では、最低所得階層の負担率と100万クローナ超の負担率の格差が目立つ累進的負担です。その原因は両控除の控除率(控除額÷査定所得)が高所得層ほど低いからです。保険控除は中所得層までは所得に対して定率ですが、高所得層に至ると定額になり控除率は低下します。勤労控除は、低所得層と中所得層前半では所得とともに増加し、その後、中所得層後半で定額になり、高所得層に至るとフェイズアウトにより逓減し、やがてゼロとなります(本コラムNo.295を参照)。
両控除を地方税の減税と捉えると(本コラムNo.307を参照)、スウェーデンの地方税は応益型から応能型に変化したようです。
注
- 佐藤 主光(2009)『地方財政論入門』新世社、194-196頁。
- 馬場 義久(2022)「スウェーデンにおける地方税の変容」日本財政学会編『財政研究』第18巻、有斐閣。
(執筆:馬場 義久)