日々是総合政策No.308

スウェーデンの地方税(16)-応益課税の変化

 地方税原則のうち応益課税を取りあげます。応益課税は、公共支出からの便益に応じた課税を公平とします。たとえば、ゴミ袋の料金負担がその理想型です。国税では税の負担能力に応じた応能課税が求められます。応能課税は所得再分配機能を含むので、住民の移動が容易な地方政府には不向きです(本コラムNo.296を参照)。ただ、佐藤(2009)が指摘するように(注1)、応益性・応能性は相対的です。たとえば、比例所得税は累進所得税に比べ応益的とされます。
 図は、スウェーデンの地方税総額の査定所得階層別負担率(地方税÷査定所得)を示します。以下、個人単位です。

図 地方税の査定所得階層別負担率1999年・2020年

*負担率は%,査定所得は万クローナ。
(出所)注2,71頁の図3より。

 横軸は7つの査定所得階層です。査定所得は基礎控除前の勤労所得から少額の通勤費等を控除したものです。
 青は1999年の値で、10万クローナ(約140万円)超の6つの階層がほぼ同じ負担率です。
 橙と緑は2020年の値で、2007年以降に展開された勤労控除(労働所得税税額控除)と保険控除(公的年金保険料本人拠出分の税額控除)を考慮し、両控除前(橙)と両控除後(緑)の負担率を示します。両控除とも地方税に適用されます(本コラムNo.295を参照)。
 控除前では、30万クローナ超の4階層でほぼ同じ負担率です。40万クローナ以下までの4階層における累進的負担の制度的要因は、65歳以上向けの基礎控除(2009年に導入)と考えられます(詳細は注2を参照)。
 控除後では、最低所得階層の負担率と100万クローナ超の負担率の格差が目立つ累進的負担です。その原因は両控除の控除率(控除額÷査定所得)が高所得層ほど低いからです。保険控除は中所得層までは所得に対して定率ですが、高所得層に至ると定額になり控除率は低下します。勤労控除は、低所得層と中所得層前半では所得とともに増加し、その後、中所得層後半で定額になり、高所得層に至るとフェイズアウトにより逓減し、やがてゼロとなります(本コラムNo.295を参照)。
 両控除を地方税の減税と捉えると(本コラムNo.307を参照)、スウェーデンの地方税は応益型から応能型に変化したようです。

  1. 佐藤 主光(2009)『地方財政論入門』新世社、194-196頁。
  2. 馬場 義久(2022)「スウェーデンにおける地方税の変容」日本財政学会編『財政研究』第18巻、有斐閣。 

(執筆:馬場 義久)

日々是総合政策No.307

スウェーデンの地方税(16)-補論:税額控除の扱い

 2008年から本格化した税額控除について述べます。全税額控除の85%を占める保険控除と勤労控除(本コラムNo.295を参照)を取りあげます。
 両控除は国の政策ですが地方税を減税します。低中所得層の地方税の高負担(本コラムNo.305を参照)を軽減し、労働供給を増やすためです。なお、国の勤労所得税は低中所得層に課税しません。
 保険控除は年金保険料の本人支払分を減税し、勤労控除は労働所得税の一部を、殆どの勤労者について減税します。
 両控除による地方政府の減収分は、地方支出を保つため国税により補填されます。
 この政策に対し二つの考え方があり得ます。
 第一は、国の税額控除と考える。OECD(注1)は政府の扱いに従い、国の所得税の税額控除とし、地方税は控除前の値のみを記しています。住民は控除前の地方税を負担し続け、「地方税制を基に算出された減税額」だけ、国税から「給付」を得るということでしょう。当然、税/支出(支出に占める地方税の割合)は不変です。
 第二は、両控除を国による地方税の税額控除と考える。政策手段が地方税の負担軽減だからです。この場合、税/支出が低下します。国は地方政府の税収減少を補填するだけです。
 表は、第二に基づき、両控除の前後別に税/支出の市間分布を示します。たとえば、控除後の税/支出が20%以上30%未満には12市が属します(全市数は290)。

表 税/支出の市間分布 2021年

(出所)注2に基づき算出。

 控除前の税/支出の平均値は60.4%、中央値は58.9%、変動係数は0.1729で、控除後の値は、40.1%、38.5%、0.2041です。
 平均値と中央値が低下し、変動係数は増大し市間格差が拡大しました。分布の中心が50%以上70%未満(214)から30%以上50%未満(255)に変化し、さらに、50%未満の市が39から267に激増しました。
 筆者は第二の考え方を支持します。これまで、控除前の値のみを示してきたのは、地方税への国の大幅な関与がない場合の「地方税の多収性」を捉えるためです。


1.OECD URL
 https://data-explorer.oecd.org/
 Annual government taxes and social contributions receipts
2.SCB URL
 www.statistikdatabasen.scb.se/pxweb/sv/ssd/
 2024年12月17日参照。

(執筆:馬場 義久)

日々是総合政策No.306

子孫の声を反映した民主主義

 トランプ次期米大統領は、石油と天然ガスの増産を通して物価上昇を抑制するため、「掘って掘って掘りまくれ」を選挙スローガンとした。ふと私の専門であるかんがい技術のことを思い出した。米国のロッキー山脈東側の「グレートプレーンズ」は肥沃な分厚い黒ボク土に覆われ「世界の穀倉地帯」と呼ばれるが、広大な土地の割に河川の数が少なく、農業用水は地下水に頼る。特にオガララ帯水層と呼ばれる浅層地下水層は重要な水源だが、気象条件や地層構造から帯水層への流入水が少なく「化石水」と言われる。掘りまくって過剰な揚水を続ければ地下水位は低下し、将来は地下水が枯渇する。
 大学で資源管理制度論という魅力的な名前の講義を担当することになり、講義内容の一つにオガララ帯水層の話を加えた。現在は良くても将来の子孫に不利益を与える「異時点間の外部性」を資源管理の失敗例とした(注1)。トランプ氏の「掘って掘って掘りまくれ」も、近視眼的な利益を求めて将来の子孫に地球温暖化という不利益を与える。では誰が子孫の声を代弁するか。政府と言いたいが、政策の責任者であるトランプ氏が代弁しているとは思えない。ポピュリズムの怖さだ。
 作家塩野七生氏は東日本大震災の復興計画の決定に際し、「45歳以上はこれまで通り1人1票、45歳未満は1人2票とする」ことを主張していた(注2)。そこで、子孫が投票する代わりに、投票権のない未成年の子供の親権を持つ親に子供分の1票を追加してはどうか。親1人に1.5票とし両親で子供分1票として投票数を集計する。一人親なら子供分1票も含め2票とする。
 問題もある。本当に親が子供のことを考え投票するか。将来生まれてくる子供のことは反映されない。子供の数も反映されない。でも、子供のことを心配しない親などごく少数だし、親権を持つ者に自覚を促す意味も大きい。先ず一歩を踏み出してみてはどうか。「民主主義を守るためには、時には民主主義に反することもあえてする勇気が必要である」と、塩野七生氏は言う。

(注1)元杉昭男「土地改良切り語り9 資源管理制度論」、土地改良建設
  協会誌293号、(一社)土地改良建設協会、2016年4月
(注2)塩野七生、朝日新聞朝刊、2014年3月13日 

(執筆:元杉 昭男)

日々是総合政策No.305

スウェーデンの地方税(14)-歳入の十分性⑦まとめ 

 「歳入の十分性」を基準として、勤労所得税のみを地方税とする単税方式の意義と問題点をまとめます。
 意義の第一は、同国の地方勤労所得税(以下、地方税)が同国の法人税・資産所得税・国の勤労所得税より多くの税収を持続的に生む点です。国民経済レベルの課税ベースが一番巨額だからです(本コラムNo.299を参照)。また、地域間の偏在度も同税が一番低い。低い偏在度と多収性により、多くの市で税÷支出が高くなりました(本コラムNo.301を参照)。ただ、以上の点につき、消費税の位置づけについて検討が必要です(本コラムNo.299を参照)。
 第二に、単税方式の地方税の税負担額は住民にとって明瞭なので、支出に対する費用意識を鮮明にします。この点は、分権下の地方財政の効率化に貢献するでしょう。逆に、日本のようなタックス・ミックス型-所得税・固定資産税・法人関連税等の複数の税目からなる地方税-は、各住民にとり税負担額が不明瞭です。特に、多くの住民は法人関連税の負担を意識しないでしょう。
 次に、単税方式の地方税の問題点は、低所得層から高負担を招くことです。この原因は、巨額で持続的に増大する対人サービス(医療・介護・教育・子供ケア)を、地方税のみで調達するからです。

図 地方税の査定所得階層別負担率(% 万クローナ)1990年

 図は地方税の査定所得階層別の負担率を示します。査定所得は、基礎控除前の勤労所得から少額の通勤費等を控除した所得です。1999年を示したのは、2000年から、地方税に適用される年金保険料の税額控除(本コラムNo.295を参照)が開始されたからです。
 10万クローナ(約140万円)未満の最低所得階層でも約16%の負担率であり、10万クローナ超の6階層は27.1%から29.5%のほぼ比例的な負担です。この比例的な高負担は被用者の社会保険料と似ていますね。
 勤労所得税の大半は労働所得税なので、その高負担率は「働くコスト」を高め、労働参加(生活保護受給を止め労働を始める等)を抑制します。さらに、低所得層の高負担率は所得再分配の観点からも問題です。なお、国の勤労所得税には低所得層への給付(負の税)制度はありません。
 地方税を補完すべき税目等の検討が求められます。


馬場 義久(2022)「スウェーデンにおける地方税の変容」日本財政学会
  編『財政研究』第18巻、有斐閣、62-75頁。 

(執筆:馬場 義久)

日々是総合政策No.304

スウェーデンの地方税(13)-歳入の十分性⑥補助金の役割(ⅱ)

 今回は、歳入均等化補助金(本コラムNo.302を参照。以下、補助金)と税の合計を収入とし、収入/支出(市の支出に占める収入の割合)と税/支出(市の支出に占める税の割合)の市間分布を比較します。本コラムNo.301にならい、2009年と2021年とを取りあげます。

図1  収入/支出と税/支出の市間分布(%) 2009年

  図1の横軸は税/支出と収入/支出を、縦軸はそれに属する市の数を示します(全市数は290)。たとえば、税/支出が50%以上60%未満には73市が属します。
 税/支出の平均値は65%、中央値は63.9%、変動係数は0.1491で、収入/支出の値は、それぞれ76.4%、77.6%、0.08812です。
 補助金が278市に交付され、収入/支出の平均値と中央値が税/支出のそれより増加しました。変動係数も低下し、市間格差がかなり是正されました。
 以下の点が印象的です。
 第一に、税/支出の分布の中心が、50%以上70%未満(212=73+139)であるのに対し、収入/支出の中心は70%以上90%未満(241=157+84)です。補助金が約20%、右方へ移動させたわけです。
 第二に、収入/支出では、50%未満と100%以上の市はゼロです。前者は補助金、後者は負担金の効果です。

図2  収入/支出と税/支出比(%)の市間分布 2021年

   (出所)注に基づき筆者算出。

 図2の2021年の税/支出の平均値は60.4%、中央値は58.9%、変動係数は0.1729で、収入/支出の値は、それぞれ72.4%、72.8%、0.08991です。
 2009年との共通点は、第一に、変動係数が税/支出のそれより大幅に低下したことです。第二に、収入/支出では50%未満と100%以上の市はゼロです。第三に、70%以上80%未満に最も多くの市(157,161)が属します。
 2009年と異なるのは、分布の中心が50%以上70%未満(214=121+93)から、70%以上80%未満(250=89+161)へ、10%だけシフトした点です。
 シフト幅は異なりますが、補助金は、両年とも格差是正と財源保障機能をかなり果たしています。ただ、多額の補助金は、支出に対する住民の費用意識を希薄にしかねません。    

SCB URL www.statistikdatabasen.scb.se/pxweb/sv/ssd/ 
      2024年11月4日参照。

(執筆:馬場 義久)

日々是総合政策No.303

米・こめ・コメ

 今年の夏は一部のスーパーの棚からコメが消え価格高騰に見舞われた。このコメ騒動は備蓄米を放出するか否かの議論はあるにしろ、基本的には需要と供給がギリギリのところ均衡するよう、減少する需要に併せて供給量を減反などによって政策的に誘導したことによる。昨夏の天候による供給減やインバウンド客の需要増などのちょっとした要因で価格上昇に繋がる。他の農作物と同様に価格変動は不可避である。米麦だけは大幅な変動を回避する政策的対応をしてきたが限界はある。
 戦後の食料政策は圧倒的な供給不足から始まった。最終的には米国の占領政策の変更で小麦などの食料援助で食糧難は一息ついたが、同時に、日本人がパン食に慣れた。政府はコメの輸入を試みるが、昔も今も世界のコメ市場は流通量が少なく、今でもコメ主食の国はコメの安定確保に苦労している。私は農水省から出向してミャンマー(ビルマ)の大使館に書記官として勤務したが、戦後の初代出向者は後に事務次官となった人でエース中のエースだった。コメの買い付けでコメ輸出可能な重要な国だったのである。
 コメには思い出がある。物心ついた頃(昭和30年前後)は東京の下町でも戦禍の跡はなかったが、親から「ご飯は一粒も食べ残すな」と厳しく言われた。家から着物を持ち出しては近隣県の農家でヤミ米と交換してきたらしい。配給では足りなかったのだ。ところで、当時、下町にはポン煎餅屋がリヤカーを引っ張って時々来る。友人と米粒を持って集まる。鯛焼きのように鉄製の直径10cm位の円形の型に米粒を数粒入れて蓋を閉め薪で熱すると、ポンと言う音でコメが弾けてポン煎餅ができる。順番を待って母から貰った米粒を渡すと、「坊や、このコメではパラパラでくっつかないので煎餅にならない。」と断られ、泣く泣く家に帰った。
 東南アジア産の外米だった。米穀配給通帳を持って米屋に行けば配給米を買えるが、自給していないので外米が混じる。米屋に苦情を言うとその時だけ国産米が多くなる。闇市はなかったが、夕方になると近隣県から農家の方が頭の高さを超える竹籠に野菜などを売りに来るのだが、ヤミ米も運んでいて高価だが美味しいコメが入手できる。厳しい国際情勢の折、もう一度考えよう。米・こめ・コメ。

(執筆:元杉 昭男)

日々是総合政策No.302

スウェーデンの地方税(12)-歳入の十分性⑤補助金の役割(ⅰ)

 前回、地方支出に占める税の割合の市間分布を示しました(本コラムNo.301を参照)。政府はその市間格差対策として歳入均等化補助金(以下、補助金)を採用しています。その仕組みを紹介します(詳しくは注1を参照)。
 補助金は一人当り税収ではなく、一人当り課税勤労所得(以下、A)をもとに算出されます。この点が重要です。
(1)市や県が補助金を得る場合
 ある市(県)のA<市(県)のAの全国平均×1.15 ① であると補助金を得、
 補助金額=(①の右辺-左辺)×2003年の市(県)の税率の全国平均×0.95(県は0.9)。
(2)市や県が負担金を払う場合(負の補助金)
 ある市(県)のA>市(県)のAの全国平均×1.15 ② であると負担金を払い
 負担金額=(②の左辺-右辺)×2003年の市(県)の税率の全国平均×0.85(県も0.85)。

 国は(2)からの負担金収入に国税を加え(1)の補助金を交付します。2021年には、290市(21県)のうち277市(20県)が補助金を得、13市(1県)が負担金を払いました(注2より)。

表:補助金の歳入均等化効果 2021年

   (注記)税率以外の単位はクローナ。
   (出所)注2に基づき筆者算出。 

 表は、一人当り税収が全市で最小のEda市と最大のDanderyd市を例に、補助金の効果を示します。分析単位が市なので、県の補助金も県に属する各市への補助金と考え、
 ある市の一人当り県補助金=(県補助金総額×市人口/県人口)÷市人口
と想定します。
 Edaの税収はDanderydの42.2%(55200÷130800)ですが、全収入(税+補助金)では77.3%(78911÷102088)に増加します。
 仮にこの全収入を税のみで調達する場合、Edaの税率は48.1%(=78911÷163900)、Danderydの税率は24%(=102088÷424700)となります。前者は税率を14.4%だけ引上げなければならず、後者は6.8%引下げることができます。Edaの税率48.1%は重い負担で、実施不可能です。補助金が二市間の税率格差を緩和していると言えましょう。    


1.Regeringens skrivelse(2019),Skr.2019/20:77,Bilaga,p.15.
2.SCB URL
 www.statistikdatabasen.scb.se/pxweb/sv/ssd/
 2024年10月23日参照。

(執筆:馬場 義久)

日々是総合政策No.301

スウェーデンの地方税(11)-歳入の十分性④

 今回は、2008年-2021年における「歳入の十分性」の 市間分布の推移を示す。
 図は、290市の一人当り地方支出(以下、支出)、一人当り税(以下、税)、支出に占める税の割合(以下、税の支出比)の変動係数(大きいほど市間格差が大きい)の推移を示す。なお、県の支出も県に属する各市の支出と捉え、それを県人口一人当り県支出(=県支出総額×市人口÷県人口÷市人口)と想定します。21県ではなく290市を分析単位としているからです。

図 支出・税・税の支出比の変動係数(2008-2021年)

(出所)注1に基き筆者作成。

 支出の変動係数が一番小さい。これは、医療・介護・教育等の「福祉サービス」へのアクセスは、居住地に関わらず等しく保障すべきという政策の反映でしょう(注2より)。
 税の変動係数は支出を上回る。Eda市の税(2021年の最小値)は、55234クローナ(税率0.337×課税勤労所得163900)で、最大値のDanderyd市の税130807(0.308×424700)の42.2%です。しかし、Edaの課税勤労所得はDanderydの38.6%であり、税格差の原因は課税勤労所得の格差にある。
 税の支出比の変動係数が一番大きい。税にかなりの格差があるもとで、支出が均等に提供されるからでしょう。

表 税の支出比の市間分布 

(出所)注1に基づき筆者作成。

 表は税の支出比別に見た市の数を示す。その変動係数が最小の2009年と最大の2021年との比較です。
 第一に、100%以上は1(Danderyd)から2(同市とLidingö)に増加しました。後者の100%以上は2020-21年のみですが、Danderydは2008-21年の毎年100%以上です(注1より)。Birdの要請(本コラムNo.300を参照)を持続的に充足しています。
 第二に、50%以上70%未満の市が212と214で、ともに全市290の約73%です。
 第三に、40%以上50%未満が14から39へ激増しました。
 地方分権国家としては第二点が意義深いと思います。皆さんの印象は如何ですか?

  1. SCB URL
    www.statistikdatabasen.scb.se/pxweb/sv/ssd/
    2024年9月13日参照。
  2. Tingvall,L(2007), Local government financial equalisation in Sweden,pp.2-3, Finance ministry.                     

(執筆:馬場 義久)

日々是総合政策No.300

スウェーデンの地方税(10)-歳入の十分性③

 今回は、スウェーデンの地方税(地方勤労所得税)による「歳入の十分性」の程度を、同国の各市(290のコミューン)間で比較します。各市の地方税がその地方支出に占める割合を比べるわけです。

   図 十分性(一人当り税÷一人当り支出)の市間比較 2019年

    (出所)注1に基き筆者作成。

 図の横軸は、市の一人当り税が一人当り地方支出に占める割合(以下、支出比と略記)を示し、縦軸は各支出比に該当する市の数です。たとえば、40%以上50%未満に属する市の数は41です。2019年を選んだのは、執筆時点のデータの最新が2021年であり、新型コロナ禍にあたる同年と2020年を除いたためです。市の一人当り支出は市の支出だけでなく、当該市民が受益する県支出分をも含みます。市の税も県税分込みです。
 全290市の支出比の平均値は60.5%、中央値は59.4%、最大値は106%、最小値は40%です。以下の点が注目されます。
 第一に、100%以上、つまり106%の市が1つで、Danderyd市です。同市は富裕な市として著名で、一人当り地方税とその課税ベースである課税勤労所得も最大です。2019年の人口は34849人です(以上、注1に基づく)。
 Bird,R.の研究(注2)は、歳入の十分性について「最も富裕な地方だけでも税のみで支出を賄えるのが良い」と述べていますが、この点を充足しているわけです。
 第二に、50%以上60%未満が110市、60%以上70%未満が100市で、その合計が210市(全市290の約72%)です。約7割の市が、50%以上70%未満の「十分性」を確保しています。
 第三に、40%以上50%未満の市が41あります。すなわち、税が支出の半分に満たない市が全市の約14%(41÷290)を占めます。なお、最小値40%はVilhelmina市です。
 同市の一人当り税は、上記のDanderyd市の税の53%です。税の格差が大きいですね。なお、同市の人口は6921人です(注1に基づく)。

  1. SCB URL
    www.statistikdatabasen.scb.se/pxweb/sv/ssd/
    2024年7月23日参照。
  2. Bird,R.M.(1999)“Rethinking Subnational Taxes: A New Look at Tax Assignment” IMF Working Paper,WP/99/165,p.11.

(執筆:馬場 義久)

日々是総合政策No.299

スウェーデンの地方税(9)-歳入の十分性②

 スウェーデンの地方支出は医療・介護・教育が殆どで、支出額はGDPの21.2%(1999-2021年の平均)を占めます(本コラムNo.297を参照)。「歳入の十分性」を目指すには、膨大な支出を持続的に賄える税を選ぶべきでしょう。
 表は、同国の地方の比例的勤労所得税(以下、「地方税」と略記)と、国の所得税・法人税・消費税の各税収総額が地方支出に占める割合(対地方支出比)を、1999年から2021年について示します。この3税と比較するのは、ともに、基幹税(一国の税収調達を主要に担う税)の候補と考えられるからです。なお、国の所得税は累進的勤労所得税(高所得層のみを対象)と資産所得税の合計です。
 表の平均とは、1999年から2021年の23年間の平均で、変動係数は23年間におけるバラツキの程度を示します。

       表 各税の対地方支出比(%) 1999-2021年     

(注記)* 標準偏差÷平均
 (出所)地方支出と地方税は注1、他の3税は注2に基づき算出。

 「地方税」は平均がトップで、変動係数も一番低く安定している。これは、同国の政府が「地方税」のみを地方に配分して、各地方に税率決定権を与えた政策の「当然の結果」と思われるかもしれません。
 しかし、筆者は、「歳入の十分性」を果たすため、法人税を含む各所得税のうち、「地方税」のみを地方に配分し、累進的勤労所得税と資産所得税・法人税を国税とした政策は、租税論から見ても優れていると思います。
 法人税は企業の利潤(売上-費用)に課税するので、赤字法人(売上<費用)の税はゼロです。資産所得税は、正の資産収益から負の収益(住宅ローン等の借入利子や株式等の売却損)を引いた純収益に課税します。両税とも国民経済レベルでの課税ベースが、「地方税」の勤労所得より小さく、税収も景気等により敏感に変化します。高税率の採用は、企業や金融資産の他国への移動を招くでしょう。
 さらに、高所得層のみの累進的勤労所得税は納税義務者が少なく、税収が少額になります。また、累進税は比例税より税収変化が著しい。
 しかし、消費税の全額国税化は再検討が必要でしょう。その平均・変動係数が、「地方税」の値に似ているからです。

  1. SCB URL
    www.statistikdatabasen.scb.se/pxweb/sv/ssd/
  2. OECD URL
    https://data-explorer.oecd.org/
    いずれも2024年7月24日参照。                       

(執筆:馬場 義久)