日々是総合政策No.261

家事労働を考える(6)-家事労賃控除について(続)

 今回は、スウェーデンの家事労賃控除(以下、RUTと略称)の実態を紹介し、日本への適用方法を考えます。RUTは、家事サービスを業者から購入すれば、その価格の労賃部分の50%を、税額控除というかたちで補助するものです(本コラムNo.259参照)。
 まず、全家計(100%)を可処分所得(税引き所得+社会保障給付)により、10のグループに区分します。第10分位は、全家計を可処分所得の多い順に並べたとき、上位10%に属する家計です。これに次ぐ10%の家計を第9分位と呼びます。
 注1(p.25)によると2017年には、第9分位と第10分位の家計が、RUTの税額控除総額の55%を得ています。税額控除を得るとはいえ、価格の50%以上は自己負担です。家事サービスは正常財(所得の増加にともない需要が増加する財)なので、可処分所得の多い家計ほどRUTを多く利用するのでしょう。
 次に、税額控除総額の57%が、子供(17歳以下)のいない家計に支給されています(注1,p.27)。この点につき、筆者は、家事時間の長い、子供のいる家計を中心に税額控除を配分する方が良いと考えます。
 以上の結果が生じるのは、家計単位でなく個人単位で税額控除を与え、かつ、18歳以上のすべての人にRUT利用を認めるからです。「全個人型」政策です。これは、高負担国家なればこそ実施できる政策でしょう。
 日本の財政事情や所得税負担の現状を考慮すると、家事サービス支援については、「全個人型」より適用者限定型が望ましい。たとえば、子育て期の家計に限定して、家事代行サービスのクーポン券を与える方式が考えられます。なお、注2(68頁)は「会社による、子育て期の家事サービス利用支援」の発展に期待を寄せています。ともかく、適用者限定型の具体的なデザインの検討が求められます。

(注1) Regeringens skrivelse (2019) Riksrevisionens rapport om
Rutavdraget, SKr. 2019/20:177,Bilaga 1.
(注2) 武田 佳奈(2017)「家事支援サービスの現状」日本労働研究雑誌,No.689,
62-68頁。

(執筆:馬場義久)

日々是総合政策No.260

自然災害とその復興課題について(5)

 災害復興の人手不足を解消するという意味では、技術職員を様々な委託で補充することも考えられます。水道事業は広域連携を通じて危機管理や防災を行ったとしても、技術者が足りないケースもあります。特に、過疎地域では熟練技術者が不足していることから、破損した管路の復旧が遅れるケースも目立ちます。今後は熟練の技術をいかに継承するかが、水道事業の災害対策における課題とも言えます。
 令和元年度の『水道統計』に基づくと、全国1421の水道事業体全体で第三者委託、あるいはそれ以外の委託等を通じて、技術者の増員を図っている水道事業体は207団体、14.57%程度です。第三者委託が充分に普及していないのが現状であり、被災時における早期復旧のためにも公的部門から民間部門への熟練技術の継承を行うことが必要です。
 水道事業の民営化、あるいは業務の民間委託は企業が採算を重視する以上、過疎地域の切り捨てに繋がることが懸念されてきました。人口減少社会に直面する経営は公的部門、民間部門に関係なく、同じ課題を抱えています。したがって、民間委託は単なる経営の効率化や競争原理に基づく成長促進戦略だけでなく、災害復興のための人手不足を解消するための手段として見直されるべきです。
 広域化や民間委託を伴う災害のリスクプールも重要ですが、最終的には被災団体への補償やそれに伴う財源確保も政府は考える必要があります。偶発的、あるいは人為的に関係なく、災害に伴う公的支援としての補助金給付は公共施設の原形復旧が原則であるものの、形状、寸法、材質を変えて従前機能の復旧を図ることや効用の増大も図ることも可能となっています(注1)。再度の災害に耐え得るインフラ整備の実現が可能となりますが、どの程度まで機能の復旧や効用増大を認めるかは難しい判断と言えるでしょう。
 コロナ禍で財政が厳しい状況を踏まえても、国家の補助金給付は慎重にならざるを得ません。過疎地の道路建設を中心としたバブル期の過剰投資が問題となる一方で、各自治体は様々な公共施設を建設改良するための基金も積み立てなければならないのです。

(注1)国土交通省「災害査定の基本原則─災害復旧制度・注意点と最近の話題─」3頁、
https://www.zenkokubousai.or.jp/download/reiwa_nittei07.pdf(最終アクセス2022年3月30日)を参照した。

(執筆:田代昌孝)

日々是総合政策No.259

家事労働を考える(5)-家事労賃控除について

 今回は、スウェーデンの家事労賃控除(以下、RUTと略称)を紹介します。RUTは、政府が指定した家事サービス、たとえば、清掃サービスを市場から購入すれば、その価格の労賃部分の50%を、購入者に税額控除(所得税の還付)というかたちで補助するものです。
 家事サービスの価格が5千円で、そのうち労賃が4千円の場合、税額控除額は2千円となります。家での清掃を業者に依頼すれば、所得税を2千円減らせるわけです。つまり、家事サービスのアウトソーシング(外部者への発注)促進策です。
 RUTの特徴は、市場からの家事サービス購入を促進し、家事労働を直接減らす点にあります。スウェーデンをはじめ多くの国で、女性の方が家事を長く行っていますから、RUTは女性による家事の削減を通じて、その市場労働の増大を期待できます。
 本コラムNo.254で述べた家事労働の男女分担策では、家計の家事労働時間を一定にして、男性の市場労働の減少-男性の家事の増加-女性の家事の減少-女性の市場労働の増加-を狙った方策でした。RUTの方が直接的ですね。
 政府が指定している家事サービスは、清掃・雪下ろし・洗濯・庭木の手入れ・子供のケア(宿題・学校への送り迎え補助)・子供以外のケア(銀行や病院等への付き添い)などです(注,45-46頁より)。
 RUTを利用できるのは、18歳以上で稼得所得のある個人です。稼得所得は労働所得(自営業者の所得も含む)だけでなく、年金など課税される社会保障給付を含みます(注,46頁より)。
 2017年には、RUTの利用者数は20歳以上人口の11%、女性の購入者が全体の61%、サービスのなかでは、清掃が、サービス全体の総利用時間数の79%を占めています(注,62頁,66頁,72頁より)。

(注)Statens Offentliga Utredningar,SOU [2020:5] Fler ruttjänster och höjt tak för rutavdraget.

(執筆:馬場義久)

日々是総合政策No.258

自然災害とその復興課題について(4)

 日本の災害復旧で重要な役割を担うのは地方自治体です。各地方自治体は独自の「地域防災計画」を作成しながら、自助・共助・公助に基づく防災や危機管理を試みています。新型コロナの感染拡大に伴い、国も様々な支援を施した結果、財政は非常に厳しい状況です。各地方自治体は独自の防災や危機管理による自助、さらには、発災時における機動力確保のための連携協定の締結による共助を中心に災害対策を行います。そのうえで、被災時には公的支援による公助により早期の災害復旧を試みることになります。
 水道事業でも日本水道協会の指導に基づき、様々な地域で幾つかの水道事業体が合同で防災訓練の実施を行うケースがあります。これまでの広域化と言えば、規模の経済や範囲の経済が具体的な例として挙げられるように、歳出の効率化を目指すための手段として考えられてきました。
 しかし、より最近では偶発的な災害に備えたリスクプールとして、広域化が注目されるようになっています。今後は各事業体、あるいは自治体間でのインフラの整備状況に関する情報共有が重要です。さらに、老朽化した施設の更新投資は減価償却費を増加させ、水道財政を圧迫します。老朽化した施設の把握、たとえば水道管路等の布設状況を各水道事業体は正確に把握しなければなりません。インフラの更新投資が滞る過疎地域を中心に、全国レベルでの様々な公共施設の管理や運営が喫緊の課題と言えるでしょう。
 都市部ではテロ対策等も含めて、新たな危機管理が求められるようになってきています。住宅密集地では大規模災害が予測されるだけに、各事業体や自治体は協調を通じて危機管理を行うと同時に、防災に必要な住民への注意喚起や呼びかけが重要となっております。
 水サービス供給の危機管理や防災を広域的に実施するために、各事業体は様々な協定を締結します。各事業体は県内や県外の他事業体だけでなく、応急復旧業者や外郭団体・OBとも協定を締結しているものもあります。しかし、日本水道協会編『水道統計(令和元年度)』に基づけば、全国1412水道事業体のうち293団体、約20.75%は協定を締結出来ていないままとなっています。発災時における人手不足を解消するためにも、円滑な協定の締結が今後の課題となるでしょう。

(執筆:田代昌孝)