日々是総合政策No.252

地方創生の決め手か? 子育て優遇政策

 人口減少が経済停滞の一因になっています。国勢調査によれば、2005年から2020年にかけて、全国の人口は1,541,426人減っています(注1)。都道府県別では、東京都、沖縄県、神奈川県、埼玉県、千葉県、愛知県、滋賀県、福岡県、大阪府だけが増加していますが、その他、秋田県、青森県、岩手県、高知県などすべての地域で減少しています(注2)。この中で、千葉県・流山市の人口は、152,673人から199,849人へと30.9%増加、東京都の増加率11.8%を上回っています(注3)。 
 都心から近い緑のまち流山市の活性化が、2005年のつくばエクスプレス(TX)の開通に促進されたことは否定できません。しかし、それにもまして、共働き子育て夫婦に焦点を当てた優遇政策をはじめとして、市民の安心感を誘う健全で効率的な行財政、市民の参加とコミュニティを重視するさまざまな政策(注4)が実っています。     
 たとえば、子育てに関して、子ども家庭総合支援拠点や子育て世代包括支援センターの
 設置など子どもを生みやすい環境づくり、次いで保育園の増設、病児・病後児保育、駅前送迎保育ステーションの設置、そして学童クラブや相談体制の拡充のように子どもの成長に沿った政策が実施されています。行財政は、少ないスタッフ数やマーケット課の設立など強い経営意識の下で遂行されています。この効率的な自治体経営を可能にしているのが、自治会を奨励、市民活動推進センターを設立しながら市民・民間団体との協業を実践する地域社会づくりです。        
 これらの政策が人の流れを変えつつあるように思われます。東京都の県外移動状況を見てみますと、2005年の転入者数が438,087人、転出者数351,525人であったのが、2020年に転入者数が401,168人に減少する一方、転出者数は362,794人に増加しています(注5)。内閣府のアンケート調査によれば、東京在住者の4割が地方への移住を望む中で、10~30代の女性は結婚・子育てを主なきっかけにしています(注6)。共働き子育て夫婦を主対象とした構想と実施計画をオープンにした上で、市民の参加を促す流山市の政策スタンスが参考にされる機会が増えそうです。

(注1)2005年と2020年の人数は各年の10月1日を基準にしています。総務省統計局「令和2年国勢調査」(https://www.stat.go.jp/data/ kokusei/2020/kekka/pdf/outline.pdf
(注2)総務省統計局「令和2年国勢調査」及び「平成17年国勢調査」(https://www.
e-stat. go.jp/stat-search/files?page=1&toukei=00200521&tstat=000001007251

より計算。
(注3)千葉県「千葉県統計年鑑(平成17年)」(https://www.pref.chiba.Ig.jp/toukei/ toukeidata/nenkan/nenkan-h17/index.htmI) 及び流山市「流山市の常住人口」
 (https://www.city.nagareyama.chiba.jp/information/1008422/1008423/1008457.html
(注4)流山市総合政策部企画政策課「流山市総合計画 基本構想・基本計画」
 (https://www.city.nagareyama.chiba.jp/res/projects/default_project/_page/001/0 07/327/sougoukeikaku.pdf)及び「流山市総合計画 実施計画(令和2年度版)」  (https://www.city.nagareyama.chiba.jp/res/projects/default_project/_page/001/007/327/r2jissikeikaku.pdf
(注5)東京都「東京都住民基本台帳人口移動報告令和2年」(https://www.toukei. 
metro.tokyo.Ig.jp/jidou/2020/ji-data2.htm

(注6)内閣府「「東京在住者の今後の移住に関する意向調査」の結果概要について」
https://www.chisou.go.jp/sousei/meeting/souseikaigi/h26-09-19-siryou2.pdf
注のURLの最終アクセスはいずれも2022年1月23日。

(執筆:岸真清)

 

日々是総合政策No.251

家事労働を考える(3)-国際比較

 今回は、日本の家事労働時間・市場労働時間の国際的に見た特徴を紹介します。下の表は、15歳から64歳の男女について、有償労働時間と無償労働時間を比較したものです。有償労働は市場労働(仕事)を中心として通勤・通学などを含み、無償労働は日常の家事・買い物・世帯員及び非世帯員のケア・ボランティアなどからなります。ケアを含む家事労働と考えてよいでしょう。
 時間は、本コラムNo.248 と同じく一週間の曜日ごとの平均の和(月曜の平均+・・・+日曜の平均)を7で割った、週全体平均の一日あたり時間です。

表  生活時間の国際比較2020年 週全体平均 一日当り(分)
(出所)注1より。原資料はOECD[2020] Balancing paid work, unpaid work and leisure.

 以下の点が注目されます。
 第一に、男女とも日本の総労働時間(有償労働+無償労働)が一番長いことです。日本の男女は、きわめて忙しい日々を過ごしています。
 第二に、日本の女性の有償労働時間がスウェーデンの女性並みとなっています。スウェーデンは女性の労働参加率の高い国として有名です。同国は1960年代から1980年代末まで、女性の地方公務員を増やす政策を採り続けました(以下、注2より)。その間、民間の雇用数は男女とも増加していません。このような思いきった政策をとったスウェーデンと日本が、有償労働時間の点で並んだわけです。ただ、同国が女性公務員に対して、60年代からの主にパートタイマーを雇う方式から、80年代にはパートタイマーを一定数確保しつつ、フルタイマーを増やす政策に転じたことにも留意すべきです。
 第三に、日本の男性の有償労働時間が突出して長く、逆に、無償労働の短さが目につきます。他国に比べ、男性の労働時間の配分が有償労働に片寄っているわけです。
 第四に、無償労働の男女分担比を求めると、日本女性は男性の5.5倍、米国は1.7倍、英国は1.8倍、ドイツは1.6倍、フランスは1.7倍、スウェーデンは1.3倍となり、この点でも日本は最高です。
 以上、日本の男女の有償労働時間が長いことをふまえると、労働生産性の上昇が家事労働の男女間配分の改善にとっても重要な課題でしょう。


1.内閣府男女共同参画局URL  
https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r02/zentai/html/column/clm_01.html 図表1[CSV形式:2KB]より。
2.Rosen,Sherwin[1997] ”Public Employment,Taxes and the Welfare State in Sweden”in The Welfare State in Transition,by(eds.) R.B.Freeman,R.Topel and B.Swendenborg, The University of Chicago Press,pp.84-85.

(執筆:馬場義久)

日々是総合政策No.250

2022年元旦

 新年明けまして、おめでとうございます。

 新型コロナウイルス感染症の心配が地球規模で続く中、2度目の新年を迎えました。日本では、昨年に実施されたワクチン接種の進展とともに、昨夏に比べ昨年末には新規感染者数が激減し、重症化リスクも低下しています。また、従来型よりも感染力の強いオミクロン株の感染拡大が、現時点では欧米諸国に比べ相当に抑制されています。さらには、3回目のワクチン接種も始まっています。
 この日本の現状について、皆さんは、どう思いますか。読売新聞が2021年12月3~5日に実施した電話全国世論調査では、岸田内閣について「支持する」62%、「支持しない」22%で、年末年始の旅行や帰省については「感染防止策を徹底していれば問題ない」48%、「感染が拡大する恐れがあるので自粛すべきだ」49%でした(注1)。皆さんは、今年のお正月をどのように過ごされていますか。
 日本のコロナ感染対応についてどう評価するかは、評価の対象と評価する主体と評価する基準で異なります。評価対象が、感染状況(新規感染者数・重症者数・死者数及び人口1千人あたりの各人数など)や経済状況(国内総生産・売上高・失業者数・倒産数・消費支出など)といったコロナの感染やその影響の結果を表す諸変数のいずれの数値なのか(注2)、コロナ感染に対して政府(国・地方政府[都道府県・市町村])が実施する諸対策(封鎖対策・経済対策・医療対策など)のいずれの対策なのかで、評価主体・評価基準が同じでもコロナ感染対応の評価は異なります。他方、評価主体が政府なのか民間主体なのか、研究機関なのか非研究機関なのか、利害関係者なのか中立な第三者なのかなどで、つまり評価主体が誰かで、評価対象・評価基準が同じでもコロナ感染対応の評価は異なるでしょう。
 政府関係者は、またテレビ・新聞などで発言している民間言論人は、いかなる評価対象に関して、どのような評価基準に基づいて、自らの意見を述べているのでしょうか。あるいは、その意見は、特定の評価主体の意見を基に、述べられているのでしょうか。
 皆さんには、評価対象・評価主体・評価基準の3つの窓から、コロナ感染対応の評価を考えていただきたいと思います。

(注1)この詳しい調査方法などは、読売新聞オンライン(2021年12月6日、https://www.yomiuri.co.jp/election/yoron-chosa/20211205-OYT1T50116/ )を参照のこと。ただし、別メディアの世論調査では、岸田内閣を「支持する」66.4%、「支持しない」26.2%で、「年末年始に『帰省も旅行もしない』と答えた人は79.5%」でした(FNNプライムオンライン2021年12月20日、https://www.fnn.jp/articles/-/287920)。
(注2)NHK「特設サイト新型コロナウイルス」の「データで見る」を参照のこと(https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/data-widget/#mokuji0)。
上記のURLの最終閲覧は、2021年12月30日。

(執筆:横山彰)