日々是総合政策No.197

変化対応と闘争

 2020年は、これまで「当たり前」であったことを続けることが難しくなり、私たちの世界を大きく変えることになった1年であったと言えます。その変化は、言うまでも無く、新型コロナウイルスによってもたらされたものでした。
 多くの職場で「在宅勤務」の導入が進んだように思います。在宅勤務や営業活動のリモート化が促進されることは、オフィスを置く地域や住環境の選択にも影響を及ぼします。会議や営業活動がリモートでできるのであれば、都心にオフィスを置く必要はないかもしれません。また、大きなオフィスを置く必要もないかもしれません。これは経営の観点から言えば、コスト効率化に大きく寄与する可能性があります。
 もし、毎日、通勤をしなくて良いのであれば、郊外の広い家に住むという選択もしやすくなります。自然に囲まれた環境や自分の趣味に取り組みやすい環境に住みながら、ワークライフバランスを実現しながら働くことの方が、もしかすると生産性は高まるかもしれません。
 人々の生活や行動の変容は、すなわち消費者のニーズも変化します。企業にとって大切なことは、こうした消費者のニーズの変化を適切に捉え、自らのサービスモデルを変革させていく、すなわち、変化に対応することです。これが経営の本質です。
 変化に対応すると言っても、全く新しいことを始める、ということではありません。企業には、これまで積み重ねてきた顧客からの信頼、すなわち「ブランド」があるはずです。そのブランドの提供方法を柔軟に変化させていくことで、新たなサービスを創造していくことが重要です。
 環境の変化に対応できる者は生き残り、対応できない者は生き残れない。世界は無常であり、自然淘汰と進化が常に繰り返されてきました。2021年は、企業やサービスモデルの生存競争がより一層激しくなると思います。
 こうした移行過程にあって、制度や組織は、人工的な変化が必要とされます。その時に生じるのは、「古き者」と「新しき者」との間の価値と利害対立です。社会変容の移行にあって、「既得権」との闘争のプロセスが必然とされることは歴史的に見ても明らかです。変化対応とそれに伴う闘争、これが2021年の大きなテーマとなることでしょう。

(執筆:矢尾板俊平)

日々是総合政策No.196

自然災害とその復興課題について(2)

 日本の水道インフラは老朽化しており、とても脆弱です。厚生労働省による「新水道ビジョン推進のための地域懇談会(第10回)」でも全ての管路を更新するのに約130年かかると言う見解を示しています(注1)。人口減少化社会と節水器の普及で料金収入に基づくハードな更新事業が難しくなってきました。発災時には、多くの水道事業体が他の水道事業体や外郭団体・OBと協定を結ぶことでマンパワーを確保しながら、広域的な災害復旧を行っています。平常時の防災訓練や危機管理も含めて、大規模地震や台風の被害が最小限に抑えるような政策を試みています。
 もっとも、早期の災害復旧には様々な課題を抱えているのも事実です。派遣される応援部隊や資機材の搬入に時間を要するだけでなく、水道管路の布設状況が共有できていないこと、あるいは様々な連携不足から早期の災害復旧が滞るケースもあります。「災害時における受援体制に関するガイドライン(仮称)の素案について」では担当者の移動、連絡先の変更に対応できない等を理由に相互応援協定の締結だけでなく、共同訓練を通じた実効性の高い応援体制を確保するよう呼びかけています(注2)。
 また、災害後の早期復旧については具体的な応急復旧目標も設定しなければなりません。発災から何日後までに応急給水を達成させ、何週間後までに応急復旧が可能であるのかを想定しておくことも必要となります。水源の確保状況や給水手段により異なるものの、水道が唯一の給水手段である場合、水道事業の応急復旧目標は2週間から4週間が望ましいと言う見解を熊谷[2016]は示しています(注3)。ただ現実的には、日本水道協会編『水道統計(平成29年度)』に基づくと、多くの水道事業体が応急復旧目標を設定していません。人手不足を考慮しながら、水道事業体はいかに応急復旧目標を設定するのかも重要となるでしょう。

(注1)厚生労働省「新水道ビジョン推進のための地域懇談会(第10回)」、下記のURL(最終アクセス2020年9月23日)を参照。
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/topics/bukyoku/kenkou/suido/newvision/chiikikondan/10/suishin_kondan_10-1.pdf
(注2)「災害時における受援体制に関するガイドライン(仮称)の素案について」53頁、下記のURL(最終アクセス2020年9月23日)を参照。
http://www.bousai.go.jp/kaigirep/tiho_juen/dai4kai/pdf/shiryo02.pdf
(注3)熊谷和哉[2016]『水道事業の現在位置と将来』水道産業新聞社、221-223頁。

(執筆:田代昌孝)

日々是総合政策No.195

COVID-19と財政出動

 COVID-19対策として政府は積極的な財政出動を行っているが、その規模はどれくらいになるのだろう。日本政府の対応の規模感をつかむために、歳出増の対GDP比をG20及びその他の先進25カ国を加えた合計45カ国の中で比べてみよう。図1の縦軸にはIMFが2020年10月に発表した2020年9月11日時点での、COVID-19に対応するために行われた追加支出等の金額の対GDP比が示されている(注1)。横軸には2020年12月3日時点の人口100万人当たり死亡死者数をとっている(注2)。IMFの注意書きにあるように、各国の財政制度は異なるので、あくまで大まかな推定かつ暫定的な数字である。それでも、世界の中での日本の立ち位置が少し見えてくる。日本は、ニュージーランド、シンガポール、オーストラリア、香港とともに、死亡者数が少ない中では大きな追加支出を行なっているグループを形成していることがわかるだろう。

図1 追加政府支出の対GDP比(%)

 COVID-19への対応は直接的な政府支出だけでなく、中小企業の資金繰り支援などの流動性確保を目的にした融資や返済猶予・免除などの形でも行われる。図2には、流動性支援のための融資等金額の対GDP比が示されている。これを見ると、先ほどあげた5カ国のグループの中では、日本が特異な位置にいることがわかる。どうやら、日本政府は直接的な支出での対応以上に、流動性支援で対応している割合が大きいようだ。
 次年度は景気後退に伴い十数%の税収低下が見込まれているが、COVO-19感染症の問題は未だに収束する様子を見せておらず、政府支出の追加を求める声も強くなるだろう。その際には、他の国との比較でみていくことで政策に対する新しい視点を提供してくれるかもしれない。

図2 追加政府支出と流動性支援等の対GDP比(%)

注1)IMF, Fiscal Monitor Database of Country Fiscal Measures in Response to the COVID-19 Pandemic (2020年10月)https://www.imf.org/en/Topics/imf-and-covid19/Fiscal-Policies-Database-in-Response-to-COVID-19
注2)Worldometer, (2020年12月3日)https://www.worldometers.info/coronavirus/
URLの最終アクセスいずれも 2020年12月3日。

(執筆:小川光)

日々是総合政策No.194

結婚と離婚、そして緊急事態宣言(下)

 結婚をするカップルもいれば離婚するカップルもいる。2020年4月に出された緊急事態宣言は、離婚の決定にも影響している。婚姻届出の状況と同じように、図には緊急事態宣言が出された2020年4月以降の6か月間の離婚届出件数が、前年の同期間(2019年4月~9月)に比べてどのくらい変化したかが示されている。あわせて、緊急事態宣言の影響を相対的に見るために、緊急事態宣言が出されていない2019年10月から2020年3月までの離婚の届出件数の変化率を前年同期(2018年10月~2019年3月)と比べて示している。
 これをみると、緊急事態宣言が出される前の離婚の届出件数は、前年同期に比べて、特定警戒都道府県で1.7%減、それ以外の地域で2.7%減と微減だったことがわかる。特定警戒都道府県の方が1%ポイント程度であるが減少幅は小さい。この数字は、緊急事態宣言が出されたのち、特定警戒都道府県で16%減、それ以外の地域で11.8%減となった。今度は、特定警戒都道府県において減少幅が4.2%ポイント大きくなっている。

図2.離婚届出件数の変化率(%)
出所:厚生労働省『人口動態統計(人口動態調査(速報・月次))』

 ここでみた結婚と離婚の届出件数の変化については、差の差分析を用いるなどの考察を経たわけではない。しかし、緊急事態宣言は人生の大事な決定、あるいは、そのタイミングに影響を与えたように見えるし、政府によって特定警戒都道府県に指定された地域に住むカップルの方が、それ以外の地域のカップルに比べてより影響を受けたように思える。離婚に比べて結婚に関する決定の方が政策の影響を受けやすいともいえそうだ。感染症を防ぐ目的をもった国の政策が、結婚や離婚といった、人生の大事な選択にまで影響を及ぼしているわけだ。思わぬルートで政策は人々の人生に影響を与える。それだけ政策の立案は難しい。
 緊急事態宣言が出された4月以降の6か月間で届出のあった婚姻数はおよそ25万。離婚の届出件数は約10万。未曽有の状況下のカップルが一生懸命に考えて下したそれぞれの選択が、二人にとって最良の選択となることを願う。

(執筆:小川光)

日々是総合政策No.193

Stay-at-home考(2)

 人々はなぜ自粛して、家にとどまろうとするのか。政府が呼びかけるからか。恐らくそういう人も一部にはいるだろう。しかし、圧倒的多数の人にとってはそれは、感染症に関する様々な不安、つまり自分や周りの者が感染して隔離され、死亡したり、後遺症を患ったり、あるいは感染した事実が周りに知れて差別されたり、職や収入を失ったりすることを避けたいからであろう。
 では不安の払しょくは可能だろうか。不安が完全に払しょくされるには感染症が完全に消え去ること、つまり終息する以外にはない。また、不安がある程度軽減されるには感染症の拡大が収まり、低い水準にとどまること、つまり収束することである。
 人々ができる限りの自粛やstay-at-homeを続けた結果、感染症が収束に向かったとしよう。そうすると恐らく、政府は自分たちの呼びかけ、つまり自粛要請、時短(営業時間短縮)要請が成功したからであると考えるに違いない。しかし、実際には人々の強い不安が自粛やstay-at-homeを招いたのであり、政府が呼びかけたからではない。
 菅首相は、11月26日の会見で、マスクを着用せずに、「是非ともマスクの着用、手洗い、そして3密の回避という、感染拡大防止の基本的な対策に是非御協力いただきたいと思います」(https://www.kantei.go.jp/jp/99_suga/statement/2020/1126kaiken.html)と語った。
 街を歩けば、すでにほとんどの人がマスクを着用し、入室・入館時に消毒液で手を洗い、3密を避けるように行動している。中には二重マスク着用の人もいる。こうした状況で、首相の呼びかけは、すでに個人がやっていることを続けてくださいと言っているだけで不安の払しょくとは無縁のメッセージである。
 それどころか、感染症の第3波が到来し、4日間で1万人の感染者が発生しているにもかかわらず、移動や会食を増加させようというGoToキャンペーンを続けている。一方では自粛やstay-at-homeを求めながら、他方では自粛やstay-at-homeを否定するような策を講じている。
 そもそもGoToキャンペーンは、感染症が収束し、人々の不安が大幅に軽減された状況ではじめて検討の余地があるものであり、感染症拡大の不安が増大している状況で実施すべきものでは断じてない。
 GoToキャンペーンは、人々の不安を増大させるばかりで、人々をますます自粛やstay-at-homeに追いやり、宿泊・飲食業の支援にはほとんど貢献しない。現在のGoToキャンペーンは、矛盾した政策で効果は乏しく、危険で恥ずべき愚策であるとしか言いようがない。

(執筆:谷口洋志)

日々是総合政策No.192

いま、何を語るか

“And so, my fellow Americans: ask not what your country can do for you–ask what you can do for your country.” (注1)

 これは、アメリカ合衆国第35代大統領ジョン・F・ケネディが大統領就任演説(1961年1月20日)で語った一節です。アメリカンセンターJAPANの仮翻訳では、「だからこそ、米国民の同胞の皆さん、あなたの国があなたのために何ができるかを問わないでほしい。あなたがあなたの国のために何ができるかを問うてほしい。」となっています。(注2)
 この一節については、色々な含意が議論できます。「あなたの国」の部分の「country」を「community」や「friend」や「family」に代えてみると、「あなた」と「あなたの国」との関係から、「あなた」と「あなたの共同社会」・「あなたの友人」・「あなたの家族」との関係になります。「あなた」と「あなたの国・共同社会・友人・家族」との関係は、どのような関係なのでしょうか。広くは互恵関係と考えられますが、「あなた」の方が「あなたの国・共同社会・友人・家族」からより多くの恵みを得ているのでしょうか、あるいは逆に「あなたの国・共同社会・友人・家族」の方が「あなた」からより多くの恵みを得ているのでしょうか。
 また、上記の就任演説で「何ができるか」と問われたとき、「何について」かを考えた人もいたでしょう。いまなら、まさに「コロナ感染症対策について」、「あなた」が「あなたの国・共同社会・友人・家族」のために「何ができるか」を問うてほしい、となるでしょう。その一方で、「あなたの国・共同社会・友人・家族」が「あなた」のために「何ができるか」を問うことも必要になるかもしれません。
 加えて、「何ができるか」の部分の「can」を「should」に代えてみましょう。すると、「何ができるか」ではなく「何をなすべきか」になり、「コロナ感染症対策について」、「あなた」が「あなたの国・共同社会・友人・家族」のために「何をなすべきか」を問うてほしい、となるでしょう。他方、「あなたの国・共同社会・友人・家族」が「あなた」のために「何をなすべきか」を問うことはできるのでしょうか。

(注1)出所: https://www.jfklibrary.org/archives/other-resources/john-f-kennedy-speeches/inaugural-address-19610120 <最終閲覧:2020.11.9>
(注2)出所: https://americancenterjapan.com/aboutusa/translations/2372/<最終閲覧:2020.11.28>

(執筆:横山彰)