日々是総合政策No.153

スウェーデンのコロナ禍対策(3)

 No.142で紹介したように、スウェーデンはコロナ感染抑制策として、ロックダウンなどの厳しい規制措置はとっていません。国内の移動についても、基本的に国民の自律性に期待しています。今回は、このスウェーデンの「緩い規制」について検討したIMF(国際通貨基金)の記事の一部を紹介します。これはIMFの4人のスウェーデンチームが執筆したものです。

1.下の表は、規制策による職場への移動の減少率(%)を4国で比較したものです。2020年3月13日から4月12日までの変化率の平均です。表のスウェーデン2は「緩い規制」が導入された場合の予測値で、スウェーデン1が実際の値です。

(出所)注より作成。

 スウェーデンでの職場への移動は「緩い規制」により、予測値以上に減少しました。自律性が発揮されたのかも知れません。しかし、減少率は強い規制を採用した隣国3国には及びません。

2.次に経済面を取り上げます。注によると、2020年の第1四半期(1月から3月)の実質GDPの成長率を世界30カ国でみると、スウェーデンだけが約0.1%のプラスで、他の29カ国はすべてマイナスです。フィンランドが-1%、デンマークとノルウェーがともに-0.2%で、最も低下したのは中国で-10%です。注の筆者によれば、一般に国内の感染抑制政策は、国内需要とくにサービス部門への需要を削減するが、スウェーデンはサービス需要の落込みが他国より低く、輸出は逆に増加したということです。「緩い規制」が経済の落込みを抑えたかも知れません。
 他方、年間ベースでみるとスウェーデンも不況の到来を覚悟しなければなりません。とくに3月以降に始まった製造業―その多くは輸出企業―の落込みが問題です。これは外需の減少とサプライチェーンの崩壊によるもので、「緩い規制」の影響を受けないからです。注によると、2020年の実質GDPのスウェーデンの予想成長率について、IMFが-6.8%,スウェーデン財務省が基準ケースで-4%、悪いケースだと-10%、スウェーデン中央銀行が基準ケースで-7%、悪いケースで-9.8%と予想しています。
 注の筆者は、現在時点では、「緩い規制」がこの不況を長引かせるのか逆に回復に寄与するのか、言えないとしています。つまり、「緩い規制」の長所と言われる「経済への打撃抑制効果」も、より長期的な視点での検討が必要ということでしょう。

(注) IMF URL
https://www.imf.org/en/News/Articles/2020/06/01/na060120-sweden-will-covid-19-economics-be-different?utm_medium=email&utm_source=govdelivery
最終アクセス 2020年6月22日。

(執筆:馬場 義久)

日々是総合政策No.152

コロナ後の世界 (3) 「リモートワーク」が変えること

 私たちは、新型コロナウイルス感染症のワクチンや治療薬が開発され、そのワクチンや治療薬が十分な供給体制が構築されるまでは、新型コロナウイルスを意識し、感染のリスクを常に想定しながら、社会経済活動の在り方を組み立てていくしかありません。
 政府による緊急事態宣言の発出後、在宅での「リモートワーク」を導入した職場が増えました。「リモートワーク」は、新型コロナウイルスのリスクを想定する生活においては、益々、普及を目指していくべき取り組みでしょう。そのためには、零細・中小企業でのICT投資の拡大が必要となります。また、個々の家庭のICT環境の整備も欠かせません。この点は、政府の経済対策としても重点的に取り組むべき項目と言えます。
 これまでの日本社会では「ハンコ」が重要な役割を果たしてきました。契約時、社内での決裁時など、印鑑を必要とする書類が多くあります。ICT技術を活用した「リモートワーク」になると、回覧される書類も契約書類も紙ではなく、電子ファイルになることも多くなるため、「ハンコ」を押すということも少なくなるかもしれません。これは日本文化の大きな変容と言えるかもしれません。
 「リモートワーク」の普及は、「就業規則」を見直す機会になるかもしれません。今後、新型コロナウイルス感染症の再流行等により学校の休校、幼稚園や保育園が休園となったとします。核家族で共働きの世帯では、やはり子どもたちの対応をすることは難しくなります。そこで、曜日ごとに、「今日は父親が子どもの対応をする日なので、昼間に仕事をするのではなく、母親の仕事が終わる夕方以降に、仕事をすることができる」、「今日は母親が子どもの対応をする日なので、父親の仕事が終わる夕方以降に、仕事をすることができる」というような家庭内分担を可能にすることが必要です。
 このような裁量的労働時間設定を、「就業規則」や「雇用契約」で認めことで、柔軟に就業時間を設定することができるようになれば、「ワークライフバランス」の推進も大きく前進することでしょう。そして、このことは、「移動」という概念からの解放に加え、「固定的な就業時間」という概念からも解放されることを意味し、実は、地方創生を大きく推進することにも貢献します。

(執筆:矢尾板俊平)

日々是総合政策No.151

コロナ後の農業・農村

 経済発展は相互依存の深化による。世界中からあらゆる物が集められ、人々や情報は世界中を飛び回る中、コロナ危機はグローバル化され豊かさを手に入れた人類に、その相互依存を断ち切るよう迫り、人流・物流に大きなダメージを与えている。その反面、情報流の価値を高めた。
 人流面では非接触社会の実現が強調されるが、過密化した都市がコロナ危機のような疫病に脆弱であることは歴史上明らかである。巣ごもり消費は自宅が多用途空間として担うことを意味する。情報通信技術(ICT )を活用して、都市内の施設で分担されてきた職場・学校・保育園・病院・娯楽・スポーツジム・レストランなどの機能を自宅が担う。地価が安く広々とした居住空間を実現できる地方・農村居住は再評価されるだろう。「密なオンライン空間と疎な居住空間の組合せ」の農村居住が注目される。
 物流面では、冷戦終結以来のグローバル化で物資のサプライチェーンが全世界に広がった。しかし、コロナ危機で医療用品・機器などの生産国は輸出禁止を行い、各国が国民の安全に関わる戦略物資を確保する動きが見られた。自国の都合で輸出規制をするならWTO体制の意義が問われる。安全保障の視点から各国は戦略物資の自給と緊急時の同盟国・友好国間の物資融通に向かう。食料も過去の世界的な食料危機で輸出規制が行われ、その安定供給体制に関心は高まる。
 情報流は人流・物流の補完的な役割から、出張も本の購入も不要となるICTの進歩により代替的意味も持つに至った。その中で、最近、ICT やロボット技術を活用し省力化・精密化・高品質化する「スマート農業」が注目を集めている。しかし、情報通信インフラの整備には多大な投資が必要になる上、疎な空間である農村では投資効率が悪い。そこで、日常生活にも防災にも在宅勤務などにも多目的に利用される結合供給的発想が重要になる。
 パンディミックに強い社会の創造が世界的な課題である。そうしないと、安全と監視の兼合いに悩む民主主義体制よりも強権政治体制の方が優れているという恐ろしい結論になってしまう。人類がICTなどの英知で相互依存の低下による経済発展の鈍化を防ぐことができるか試されている。

(執筆:元杉昭男)

日々是総合政策No.150

新型コロナウイルス感染症対策

 6月1日現在における日本政府の新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)対策の全容は、内閣官房のWebサイト(https://corona.go.jp/action/)で知ることができます。
 そして、さらなるコロナ対策として、政府は令和2年度第2次補正予算案を5月27日に閣議決定し、国会での成立を目指しています。その追加歳出は、コロナ対策関係経費31兆8,171億円、国債利払費等963億円、議員歳費▲20億円で、合計で31兆9,114億(概数で31.9兆円)になっています。コロナ対策関係経費の主要なものを概数でみると、中小・小規模事業者向け融資を中心とした「資金繰り対応の強化」11.6兆円、「家賃支援給付金の創設」2.0兆円、コロナ緊急包括支援交付金を中心とする「医療提供体制等の強化」3.0兆円、「コロナ対応地方創生臨時交付金の拡充」2.0兆円、「持続化給付金の対応強化」1.9兆円、「コロナ対策予備費」10.0兆円です(注1)。
 この第2次補正予算で意見が分かれるのは、「医療提供体制等の強化」と「コロナ対策予備費」の評価です。前者については、第2次補正予算の9.40%(概数での算定、以下同じ)に過ぎず、さらにはPCR(polymerase chain reaction:ポリメラーゼ連鎖反応)・抗原検査などの検査体制強化622億円、コロナに係る情報システム整備42億円、ワクチン・治療薬の開発と早期実用化等2,055億円と、「検査体制の充実、感染予防防止とワクチン・治療薬の開発」には合計でも2,719億円(第2次補正予算の0.85%)しか充てられていません(注2)。後者については、10兆円という規模の予備費(第2次補正予算の31.35%)は、「財政民主主義の観点から、使途を明確にする必要がある」といった意見が野党各党から出されています(注3)。この点は、議会(立法府)が政府(行政府)の行動を統制する手段としての役割を予算がもつこと、すなわち予算の統制機能に関わります。こうした予算の役割と、今後のコロナ情勢に応じて政府が柔軟な政策対策をとれることとのバランスが問題になります(注4)。
皆さんも、予算という窓を通して政府のコロナ対策を眺めてみてはいかがですか。

(注1)財務省「令和2年度補正予算(第2号)の概要」
https://www.mof.go.jp/budget/budger_workflow/budget/fy2020/sy020407/hosei020527b.pdf
(注2)厚生労働省「令和2年度厚生労働省第二次補正予算案の概要」
https://www.mhlw.go.jp/wp/yosan/yosan/20hosei/dl/20hosei03.pdf
(注3)NHK「第2次補正予算案 “10兆円の予備費 使途説明を” 野党各党」
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200528/k10012449301000.html
(注4)この点については、次の考察も参考になります。大石夏樹(2009)「予備費制度の在り方に関する論点整理」『経済のプリズム』 第72号、13-25頁、参議院事務局企画調整室
https://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/keizai_prism/backnumber/h21pdf/20097202.pdf
以上のURL、すべて最終アクセス 2020年6月1日。

(執筆:横山彰)