日々是総合政策No.219

選挙戦の様相の変化①-保守分裂選挙-

 昨年から、地方選の様相がやや変わりつつあります。昨年10月25日に投開票された富山県知事選挙では、5選目を狙った現職の石井隆一氏を、新人の新田八朗氏が破り、初当選しました。富山県は「保守王国」とも言われるお国柄ですが、自民党県連・公明党県本部が推薦する石井氏と前富山市長や自民党の地方議員らが推した新田氏との間の「保守分裂選挙」となりました。
 今年に入ると、1月24日に投開票された岐阜県知事選挙では、自民党県連に所属する議員の支持が現職の古田肇氏と新人の江崎禎英氏に分かれ、現職の古田氏が5回目の当選を果たしました。この保守分裂の背景には、岐阜県選出の国会議員と県議会での重鎮議員との対立があったと言われています。
 菅義偉首相の出身地であり、4月4日に投開票された秋田県知事選挙でも、自民党秋田県連が支持した現職の佐竹敬久氏と自民党を離党した県議が支援した元衆議院議員の村岡敏英氏との間で保守分裂となり、現職の佐竹氏が4回目の当選を果たしました。
 小川洋知事が病気により辞任した福岡県では、県知事選挙が4月11日に投開票され、前副知事の服部誠太郎氏が初当選しましたが、この知事選を巡っても、当初は、元国土交通省局長の擁立の動きもあり、2年前の選挙と同様に保守分裂選挙と見立てられました。
 3月21日に投開票された千葉県知事選挙は、県選出の自民党国会議員が元千葉市長の熊谷俊人氏への支持を表明するなど、自民党が推薦する関政幸氏との間での保守分裂の様相となりました。同日に投開票された千葉市長選挙では、千葉市議会自民党市議団が支持する神谷俊一氏と自民党市議団の一部議員が支援した小川智之氏との間での保守分裂となりました。
 保守分裂選挙が相次いでいる事実は、地域ごとに事情は多少なりとも異なりますが、これまで地方組織を取りまとめてきた重鎮議員やグループの権力なり存在感が低下しているような状況とも言えます。「権力」とは、いかに「利益」を分配できるかということであると考えれば、人口減少、少子化、高齢化などが進むことで、地域の成長度が鈍化し、それに伴い、地域内で分配する利益そのものが減少しているとも考えられます。このことは候補者を一本化することだけではなく、地域組織の力の低下は、国政選挙・地方選挙ともに大きな影響をもたらします。

(執筆:矢尾板俊平)

日々是総合政策No.218

社会保険料の負担(終)

 今回は介護保険における現役の保険料と給付の関係を解説します(以下,注1より)。介護保険の被保険者は65歳以上の第1号と、40歳から64歳の第2号からなります。現役階層は殆ど第2号に属します。
 被保険者が要介護等と認定されると、原則として介護費用の1割の利用者負担(自己負担)で介護サービスを享受できます。そこで、介護費用マイナス利用者負担を給付費とよびます。その財源構成は、
 給付費100%=介護保険料50%+公費50%
 です。公費は税投入部分であり国税と地方税が使用されます。そして、保険料による50%分の財源は,2018年度から2020年度については
 保険料による50%分=第1号の保険料で23%分+第2号の保険料で27%分、つまり、23:27という比率で負担を配分します。この比率は65歳以上と40歳から64歳までの人口比です。よって、被保険者一人あたりの平均保険料は第1号と第2号とでほぼ等しくなります。
 重要なのは、第1号は要介護等の原因を問わず介護保険から給付が与えられるが、第2号は、末期がんなど加齢による特定の病気を原因とする介護等のみに給付がなされる点です。

図 介護保険受給者数(千人)2019年
*2019年3月審査分より。
(出所)注2に基づき筆者作成。

 図は介護保険によるサービスの受給者数を年齢階層別に示します。第2号の受給者は約12万人ですが、その総人口4200万人(注1より)に対する比率は0.3%に過ぎません。さらに図における受給者全体の517万人の2.3%に過ぎません。逆に言えば、全受給者の97.7%が第1号被保険者です。
 結局、第2号の保険料はその殆どが第1号の介護サービスに使用されます。この意味では、第2号の保険料は保険というより、第1号の被保険者への支援(=所得移転)を行う目的税にかなり近いものになっています。
 本コラムNo.216で見たように、健康保険も一部高齢者への支援金として使われています。しかし、介護保険の第2号保険料の方が支援金としての性格がより濃厚です。現役の要介護確率が疾病確率より著しく低いからです。
 第2号の保険料のあり方についても議論を深める必要があるでしょう。

(注)
注1.厚生労働省 URL
https://www.mhlw.go.jp/content/0000213177.pdf
注2.内閣府URL
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00450049&tstat=000001123535&cycle=1&year=20200&month=11010303&tclass1=000001123536&tclass2=000001128816&stat_infid=000031958948&tclass3val=0
最終アクセス 2021年4月17日。

(執筆:馬場 義久)

日々是総合政策No.217

祝いの言葉

 新入生に、次のような祝いの言葉を贈ったのは、四半世紀以上昔のことです(注)。

 「おめでとう」。何度聞いてもいい言葉ですね。ところで何がめでたいのでしょうか。いろいろあると思います。素晴らしい魅力ある人々の中にいる幸せ。皆さんの夢をかなえる舞台の大きさ。
 一級の舞台に一流の役者が揃いました。さてそこで、どんな劇が誰のために演じられるのでしょうか。皆さん一人一人が、脚本を書き演出をし主役を演じるのです。個性溢れる役者達を使いこなす努力も必要になります。恋敵や悪役も登場してきます。ある時ある状況のもとで人々を動かすには、何が必要なのでしょうか。
 人は一人で生きられないとすれば、 他者とどのような「つきあい方 」をしたら、 自らの夢を実現できるのでしょうか。当然、ある人々とは「つきあわない」という選択もありえます。しばらく静観する手もあります。
 さあ、舞台の幕を開ける時がきました。皆で楽しみましょう。

 いま、この祝いの言葉を読み返すと、定年退職した大学の新設学部1期生との出会いや、その後に四半世紀以上に亘り学生諸君と共同で築き上げてきたゼミナールや研究室の濃密な時間を思い出します。こうした出会いや時間は、それ以前に前任の大学で出会った学生諸君や同僚や研究者仲間と共に過ごした日々の連鎖、さらに遡れば大学院・大学時代に出会った多くの恩師や先輩や友人・後輩たちと共に過ごした日々の連鎖における、偶然と必然の綯い交ぜの中で、私自身が「選択」した帰結とも考えられます。
 その後も、これまでの人との出会いの連鎖の中で、新たな出会いや再会が生まれ、私自身の新たな時間が生み出されています。この時間の流れの中、縁あって、一人でも多くの人びとが「よりよく生きる」ための力添えをする人材を養成することを使命とする大学で、新年度から新たな時間を私なりに刻みはじめています。
 次世代を担う皆さんも、新たな出会いの中で、新たな時間を、ご自分なりに刻みはじめていただきたいと思います。新たな出会いを生み出すことこそ、新年度の素晴らしさであり、入学の「めでたさ」なのかもしれません。

(注)横山彰「大学は夢工房」(古田精司編著『カレッジライフのすすめ』57-68頁、慶應通信、1994年8月)58-59頁。

(執筆:横山彰)

日々是総合政策No.216

社会保険料の負担(4)

 今回は健康保険を取りあげ、現役の保険料と給付の関係を解説します。日本の健康保険制度は、現役用と高齢者用に分かれます。現役用として、大企業の被用者が加入する健康保険組合や、中小企業の被用者が加入する「協会けんぽ」などがあります。自営業者などは国民健康保険に加入しますが、74歳までの前期高齢者の多くを含みます。
 高齢者用の代表例は、75歳以上の個人が加入する後期高齢者医療制度です。その財源構成を説明します。
 医療費マイナス本人の自己負担を給付費とよび、それを100とします。後期高齢者医療制度では、給付費の10%を本人の保険料、約50%を公費(税)、残り約40%を現役世代からの支援金で調達します。つまり、加入者は保険料の10倍の保険給付を得る一方、その給付財源の40%を現役が負担します。
 実際、2018年度では、
 給付費15.1兆円=保険料1.2兆円+公費7.9兆円+支援金6兆円
 となっています(注1より算出)。 .
 次に現役の健康保険組合を例に、その保険料の使い道を見てみましょう。2018年度における日本全体の健康保険組合の合計値で、
 保険料総額8.2兆円=現役の給付費4兆円+後期高齢者支援金1.9兆円
          +前期高齢者納付金1.5兆円+その他
 となります(注2)。なお、前期高齢者納付金は、65歳から74歳の前期高齢者比率が、全保険制度の平均値より高い国民健康保険への「支援金」です。
 結局、健康保険組合の保険料のうち、3.4兆円(=1.9+1.5)は高齢世代の給付に使われます。つまり現役からの所得移転です。
 確かに、今の現役が高齢期になれば、その時点での現役から所得移転を受取りますが、高齢化や生産年齢人口の減少がまだ続きますので、今の現役が払った高齢世代への所得移転額>今の現役が高齢期に受取る所得移転額、となります。
 つまり、今の現役の生涯期間全体を視野に入れても、一期前の世代への所得移転が残存します。この点、本コラムNo.212で紹介した、人口高齢化に直面する賦課方式の老齢年金制度と同じです。

(注)
1.国立社会保障・人口問題研究所URL
http://www.ipss.go.jp/ss-cost/j/fsss-h30/fsss_h30.asp
集計表2
2.健康保険組合連合URL
https://www.kenporen.com/include/press/2019/201909091.pdf
最終アクセス 2021年3月18日。

(執筆:馬場義久)