日々是総合政策No.217

祝いの言葉

 新入生に、次のような祝いの言葉を贈ったのは、四半世紀以上昔のことです(注)。

 「おめでとう」。何度聞いてもいい言葉ですね。ところで何がめでたいのでしょうか。いろいろあると思います。素晴らしい魅力ある人々の中にいる幸せ。皆さんの夢をかなえる舞台の大きさ。
 一級の舞台に一流の役者が揃いました。さてそこで、どんな劇が誰のために演じられるのでしょうか。皆さん一人一人が、脚本を書き演出をし主役を演じるのです。個性溢れる役者達を使いこなす努力も必要になります。恋敵や悪役も登場してきます。ある時ある状況のもとで人々を動かすには、何が必要なのでしょうか。
 人は一人で生きられないとすれば、 他者とどのような「つきあい方 」をしたら、 自らの夢を実現できるのでしょうか。当然、ある人々とは「つきあわない」という選択もありえます。しばらく静観する手もあります。
 さあ、舞台の幕を開ける時がきました。皆で楽しみましょう。

 いま、この祝いの言葉を読み返すと、定年退職した大学の新設学部1期生との出会いや、その後に四半世紀以上に亘り学生諸君と共同で築き上げてきたゼミナールや研究室の濃密な時間を思い出します。こうした出会いや時間は、それ以前に前任の大学で出会った学生諸君や同僚や研究者仲間と共に過ごした日々の連鎖、さらに遡れば大学院・大学時代に出会った多くの恩師や先輩や友人・後輩たちと共に過ごした日々の連鎖における、偶然と必然の綯い交ぜの中で、私自身が「選択」した帰結とも考えられます。
 その後も、これまでの人との出会いの連鎖の中で、新たな出会いや再会が生まれ、私自身の新たな時間が生み出されています。この時間の流れの中、縁あって、一人でも多くの人びとが「よりよく生きる」ための力添えをする人材を養成することを使命とする大学で、新年度から新たな時間を私なりに刻みはじめています。
 次世代を担う皆さんも、新たな出会いの中で、新たな時間を、ご自分なりに刻みはじめていただきたいと思います。新たな出会いを生み出すことこそ、新年度の素晴らしさであり、入学の「めでたさ」なのかもしれません。

(注)横山彰「大学は夢工房」(古田精司編著『カレッジライフのすすめ』57-68頁、慶應通信、1994年8月)58-59頁。

(執筆:横山彰)