日々是総合政策No.186

オンライン診療(アメリカの動向整理)

 前回(No.163)は、COVID-19の感染者、基礎疾患等の患者それぞれの受診方法として、オンライン診療(遠隔診療)の基本的内容を整理しました。今回は、アメリカの事例を取り上げる予定でしたが、この前にオンライン診療の動向と主な課題を見ておくことにします。
 各メディアにおいて報じられているように、アメリカではCOVID-19の感染者が急増しており、CDC(Centers for Disease Control and Prevention)の調査によれば、2020年10月21日時点での感染者、死亡者がそれぞれ約810万人、22万人となっています(注1)。これらの対応の一つとして、COVID-19の感染予防と在宅診療、基礎疾患患者の受診機会の確保、それぞれを基本目的にオンライン診療が導入され、利用者が増加しています。図1は、こうした動向を示す一例です。

図1 オンライン診療の利用状況
*)調査の対象者は225,742名(18歳以上、無作為抽出)。
出所)CivicScience「Telemedicine Adoption Stagnant for First Time During Pandemic in August」より作成。https://civicscience.com/telemedicine-adoption-stagnant-for-first-time-during-
pandemic-in-august/(2020年10月20日最終確認)。

 COVID-19の感染者が拡大する前の2020年1~2月には、オンライン診療の利用者割合は11%程度でしたが、感染者が大きく増加した3月以降これが上昇して、8月には36%になっています(注2)。
 オンライン診療の増加に伴って(あるいはその促進策として)、いくつかの対応が検討・導入されています。一例として連邦政府は、医師-患者間でのアクセスを容易にする上で、HIPAA(Health Insurance Portability and Accountability Act)の罰則規定を一時的に緩和しました。これにより、無料・低負担の通話ツール(Google、Zoom、Skype等)でのオンライン診療の利用機会が拡大されることになりました(注3)。
 多くの保険団体では、COVID-19の検査に要する自己負担の引き下げや無料化を進めており、オンライン診療の報酬を設定・加算するケースも見られます(注4)。また、アメリカ医師会は、オンライン診療の利用者増加に対応する上で、医師用のマニュアルを作成・開示しています(注5)。
 アメリカでは、COVID-19の感染者拡大がオンライン診療の導入・拡充の大きな起点になっていますが、そのシステムは検討・構想の過程にあると考えられます。次回は、いくつかの保険団体の事例(システム)を取り上げる予定です。

(注1)Centers for Disease Control and Prevention「CDC COVID Data Tracker」より。https://
covid.cdc.gov/covid-data-tracker/#cases_casesper100klast7days
(2020年10月21日最終確認)。
(注2)オンライン診療は、慢性疾患やメンタルヘルスの健康相談、服薬指導と緊急時の対応、在宅診療の促進それぞれにおいても有用とされます(図1の「利用した/利用している」には、こうした患者も含まれます)。なお、患者の一定割合は、オンライン診療の有効性・安全性について懐疑的とされ、図1の「関心がない/考えたことがない」とする理由の一つは、これにあるとされます。
(注3)U.S. Department of Health & Human Services「HIPAA and COVID-19」https://www.
translatetheweb.com/?from=en&to=ja&ref=SERP&refd=www.bing.com&dl=ja&rr=UC&a=http
s%3a%2f%2fwww.hhs.gov%2fcoronavirus
(2020年10月20日最終確認)。これについては、プライバシー保護に関係する課題が指摘されています。
(注4)各保険団体の対応として、BlueCross BlueShield、Kaiser Permanente、UnitedHealth Group、Humana、Aetna等のウェブサイトが参考になると思います。それぞれの「保険団体名、COVID-19」を入力・検索すれば、概要を見ることができます。なお、医療機関においてもオンライン診療が導入されていますが、対応方法は異なっているようです。
(注5)American Medical Association「AMA COVID-19 Guides」https://www.ama-assn.
org/topics/ama-covid-19-guides
(2020年10月19日最終確認)。

(執筆:安部雅仁)

日々是総合政策No.185

菅政権のアベノミクスが目指すもの

 「瑞穂の国の資本主義」。この言葉は、安倍晋三前首相が、政権奪還後に出版した『新しい国へ‐美しい国へ 完全版』(文春新書)で触れられる一節です。「自立自助を基本とし、不幸にして誰かが病で倒れれば、村の人たちみんなでこれを助ける。これが日本古来の社会保障であり、日本人のDNAに組み込まれている」と述べ、瑞穂の国にふさわしい資本主義、市場主義の形、経済のあり方を考えていきたいと読者に語りかけています。
 第2次安倍政権発足後、ただちにデフレ脱却を目指し、アベノミクスと呼ばれる経済再生の政策を実行していきます。しかし、そのアベノミクスも2015年には、「一億総活躍社会」という新しい看板を掲げて、変容をしていきます。また、安倍政権では、「政労使」という枠組みを通じて、賃上げに政府が「慎みを持った関与」を行ったこともありました。本来、賃金は労使交渉を通じて、民間で決めることです。ここに政府が関与することは、異例であると言えるでしょう。これは「成長と分配の好循環」を創り出すためのアプローチと、単に片付けられない安倍前首相の「政策観」や「国家観」があったのではないかと推測します。
 安倍前首相が、祖父である岸信介元首相をつなぐもの。これは「憲法改正」だけではなく、実は、社会保障や労働・雇用の政策でも、2つの政権はつながります。
 岸政権では、国民年金法を制定するとともに、国民健康法を改正することで、国民皆保険制度を創設しました。また「最低賃金法」を制定したのも岸政権でした。安倍政権では、全世代型社会保障改革に取り組み、最低賃金の引き上げに取り組んできました。安倍政権のアベノミクスは、成長と分配の2つの側面を併せ持ち、政府が市場経済に積極的に関与していくことを「是」とする「瑞穂の国の経済政策」であったと言えるかもしれません。
 菅義偉首相は、所信表明演説において、自身の社会像を「自助、共助、公助、そして絆」であると述べました。規制改革と社会のデジタル化を政権の一丁目一番地とする政権の姿は、新自由主義的なアプローチの側面が色濃く描かれるようにも思います。
菅政権のアベノミクスは、引き続き、「瑞穂の国」を目指すものなのか、小泉政権時代の「新自由主義」的な政府像を目指していくのか、目が離せません。

引用文献
安倍晋三(2013)『新しい国へ‐美しい国へ 完全版』、文春新書

(執筆:矢尾板俊平)

日々是総合政策No.184

大阪都構想住民投票と憲法の首長直接公選制保障

 大阪都構想は、11月1日に大都市域特別区設置法に基づき、2度目となる住民投票に付される。大阪都構想は、「大阪市」を廃止し、大都市地域特別区設置法に基づき四特別区に再編することを主な内容とするが、新設四特別区は、憲法の「地方自治の制度的保障」の対象となる地方公共団体なのかは不明だ。大日本帝国憲法になく、日本国憲法で新たな章立てとして加わったのは、第2章の「戦争の放棄」と第8章の「地方自治」だ。その意義は、地方自治関係者が胸に刻むべきことだろう。
 地方自治の章がなかった大日本帝国憲法下においては、1943年に最も大きな自治体であった東京市が市会の反対にも関わらず、国の立法によって一夜にして消滅した。 それでは、憲法で地方自治について保障していることは何か。ここで議論するのは、その中の首長直接公選制保障だ。憲法93条2項は「地方公共団体の長・・・は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する」と規定する。1963年に最高裁は、東京都の特別区は憲法93条2項の地方公共団体と認めることはできず、特別区長公選制を廃止したことは、立法政策の問題で憲法93条2項の地方公共団体の首長の直接公選制保障規定に反しないと判断した。 
 この63年最高裁判決は、憲法上の「地方公共団体といい得るためには、単に法律で地方公共団体として取り扱われているということだけでは足らず」、「事実上住民が経済的文化的に密接な共同生活を営み、共同体意識をもつているという社会的基盤が存在」することや、その沿革も検討し、東京都の特別区に首長直接公選制保障は及ばないと判断した。新設される大阪府の四特別区それぞれが、憲法上の「地方公共団体」と判断されるのかは難しいのではないか。 
 63年の最高裁判決上、現在の大阪市は多分憲法93条2項の地方公共団体だろうから、憲法上市長公選は保障されている。しかし、今回の住民投票で大阪市が四特別区に再編されれば、63年の最高裁判決に照らせば、大阪市民にとって、今回の住民投票は、自らが属する最も身近な基礎的な地方公共団体の首長公選制の憲法保障を、自らの投票で放棄し、離脱するかを選択する投票なのだろう。

(注)1963年の最高裁判決については、https://www.cc.kyoto-su.ac.jp/~suga/hanrei/93-3.html (最終アクセス:2020.10.1) を参照されたい。

(執筆:平嶋彰英)

日々是総合政策No.183

スウェーデンのコロナ禍対策(6)

 スウェーデンのコロナ禍による死亡者について新しいデータ(注1)が公表されましたので、今回はそれを紹介します。このデータは9月28日までの死亡者5826名についてのものです。なお、10月6日現在の死亡者は5892名(注2)です。同データは死亡者について年齢、コロナ以外の疾患、居住地、居住住宅、死亡場所などを明らかにしています。下の表1はその一部を筆者が抽出したものです。
 まず総数全体を男女別に見ると男性が女性を上回っています。次に年齢別では、5211名(総数の89.4%)が70歳以上で、2899名(49.4%)が85歳以上です。死亡者の大部分は高齢者です。
しかし、年齢別を男女別に見ると85歳以上では女性の方が多くなっています。表1では示していませんが、5歳刻みの年齢で男女間を比較すると84歳以下までは男性が多く、85歳以上から女性が多くなっています。ちなみに2019年のスウェーデンの男性の平均寿命は80.75歳、女性のそれは84.24歳です(注3)
 次の疾患の欄は感染時におけるコロナ以外の疾患数を示します。死亡者の58%が二つ以上の疾患を抱えていました。主な疾患は心臓病・高血圧・糖尿病・肺疾患です。一番多いのは高血圧です。

表1 死亡者の構成(人、%)
(出所)注1より筆者抽出。

 さらに死亡者の住居構成を見たのが居住の欄です。ホームヘルプ欄は自分自身の住宅で、ホームヘルプ(訪問介護・看護)を利用している高齢者を指します。
 特別住宅は、ホームヘルプ以上の介護サービスを必要とする高齢者の為の施設で、その入居対象は身体疾患等を抱え24時間ケアが必要な高齢者です(注4)。なお、注5によれば、2019年の特別住宅の入居高齢者は87000人です。
 つまり、全死亡者の46.2%が特別住宅という介護施設の入居者でした。表2がその死亡者の内訳を示します。「ストックフォルム」とはストックフォルム県にある特別住宅の死亡者を表します。同県は全スウェーデンの21県のうちの最大人口県で、日本での東京都に該当します。

表2  特別住宅居住の死亡者(人)
(出所)注1より。

 注5によれば2019年の特別住宅の20%は民営であり、2007年の15%より民営が増加しています。このような民営化傾向も踏まえて、高福祉国家の高齢者介護サービスの中心的施設で、なぜ多くの犠牲者が出たのか、その原因解明が求められます。


1.スウェーデン社会庁URL
https://www.socialstyrelsen.se/statistik-och-data/statistik/statistik-om-covid-19/statistik-over-antal-avlidna-i-covid-19/
2.スウェーデン公衆衛生庁URL
https://fohm.maps.arcgis.com/apps/opsdashboard/index.html#/68d4537bf2714e63b646c37f152f1392
3.スウェーデン国家中央統計局URL
https://www.scb.se/en/finding-statistics/statistics-by-subject-area/population/population-composition/population-statistics/pong/tables-and-graphs/yearly-statistics–the-whole-country/life-expectancy/
4.石橋未来[2016]「スウェーデンの介護政策と高齢者住宅」『大和総研調査季報』
Vol.21,154-169頁。
5.Socialstyrelsen[2020] Statistics on Elderly and Persons with Impairments – Management Form 2019.

URL いずれも最終アクセス 2020年10月9日。

(執筆:馬場 義久)

日々是総合政策No.182

パンデミックと会計

 「パンデミック(世界的大流行(注1)」)という言葉が、耳に新しいものではなくなりました。日本で最初にウイルスのパンデミックに関するSFを書いたのは小松左京氏『復活の日』(1964年)だと言われています。1980年には映画化もされています。この小説や映画の中では確かに「パンデミック」が扱われていますが、その現象が「パンデミック」という言葉で大々的に説明されているわけではありません 。(注2)
 前回、「企業のリスクマネジメント」で書かせていただいたように、上場企業は、有価証券報告書のなかで、「事業等のリスク」について記述することになっており、2004年3月末に終了する事業年度から義務付けられています。ここに「パンデミック」という言葉が出てきたのは、2006年3月期の有価証券報告書が最初です。
 当初の「事業等のリスク」では、投資者の判断に影響を与える可能性がある項目として感染症の「パンデミック」が挙げられている程度でした。しかし、2020年3月期の多くの企業の有価証券報告書では、パンデミックが発生した場合に起こりうることが事細かに想定されています。たとえば、消費市場が停滞して売上が減少する可能性、インバウンド需要が減少する可能性、物流停滞の可能性、国内小売店舗の閉鎖の可能性、従業員や顧客がり患した場合の販売活動の停滞の可能性、などなど。私たちはパンデミックを経験することで、どのような直接的・間接的ダメージがあるのかを身近なこととして具体的に想定できるスペックを手に入れました。それをどう生かしていけるのか、解決していけるのかが今後の課題です。
 アカウンタビリティ(Accountability)という言葉は、説明責任という意味で用いられますが、もとは会計(Accounting)から派生した用語です。企業会計は、利害関係者に対し、今回の新型コロナ感染症によって受けたダメージ、今後備えていく対策と方針について説明していく責任があります。

(注1)最近は、「感染爆発」という訳が多見されます。
(注2)『復活の日』(1964年)の中では、「世界的大流行」(ルビでパンデミー)という言葉が2回出て来るのみです。

(執筆:渡部美紀子)

日々是総合政策No.181

IMFの分析は日米の感染症対策の失敗を示唆する

 IMF(国際通貨基金)は、2020年10月13日公表予定の世界経済見通し(World Economic Outlook)のうち、新型コロナウイルス感染症対策を分析した第2章「大封鎖の経済的影響の解剖」を10月8日に公開した。
 第2章では、人の移動に関するGoogleのデータと、求人情報サイトIndeedの求人データを用いて、感染症流行の当初7か月間における経済・社会状況が分析される。取り上げる感染症データは89か国、移動データは128か国、求人データは22か国、地方レベルの感染症データは15か国373箇所、移動データは15か国422箇所に及ぶ。
 暫定的分析であるとはいえ、その本格的な分析は注目に値する。そこでは、以下のような重要な分析結果が示される。
 (1)強制的なロックダウン(封鎖)措置だけでなく、自発的なソーシャル・ディスタンシングも、経済と求人の縮小に大きく貢献した(2つはほぼ同等な負の経済的影響を及ぼす)。
 (2)ロックダウン措置の緩和によって経済が部分的に回復するものの、感染症リスクが終息するまでは完全な回復には至らない可能性が高い(自発的な自粛が残るので)。
 (3)移動に関するデータの分析から、ロックダウンは、女性と若年層の移動に対して、より強い影響を及ぼした。
 (4)女性の移動が強く落ち込んだのは、例えば学校閉鎖期における児童の世話や育児の負担が女性に集中したことを反映したものと考えられる。
 (5)外出自粛(stay-at-home)によって若年層の移動が他の年齢層より大きく落ち込んだ。若年層が労働所得に依存し、非正規労働に就くことが多いことを考慮すると、これは若年層と高年層の世代間格差を拡大させる可能性がある。
 (6)ロックダウンは、コロナ流行の初期に、十分に厳格に実施された場合には、感染症拡大をかなり抑制することができる。
 (7)ロックダウンは、短期的には経済を縮小させるものの、長期的にはウイルス拡大を封じ込め、ソーシャル・ディスタンシングの必要性を低下させることによって、より急速な回復を実現させることにより、経済全体にはプラスの影響を及ぼすであろう。
 上記のうち、(6)と(7)は、日米の感染症対策の失敗を示唆するものとして注目される。

(執筆:谷口洋志)

日々是総合政策No.180

欧州グリーンディールと欧州復興計画

 新型コロナウイルス感染症は、前回(No.171)にも述べましたように、全世界の社会と経済に甚大な影響を及ぼし、人々に「新たな日常」への転換を求めています。欧州もコロナ危機の対応を余儀なくされています。このコロナ感染が大きな社会問題となった2020年の前年末、すなわち2019年12月に、欧州委員会は新たな成長戦略として、次に定義されるような「欧州グリーンディール」(The European Green Deal)を策定しました(注1)。


 欧州グリーンディールは、・・・EUを、2050年に温室効果ガスの純排出がなく経済成長が資源の使用から切り離された、近代的で資源効率の高い競争的な経済をもった公正で繁栄した社会に変革することを目的とした新たな成長戦略である。


 この新たな成長戦略策定後に生じたコロナ危機に対処するため、欧州委員会は2020年5月に、EU(European Union:欧州連合)の予算総額1.85兆ユーロの欧州復興計画(the recovery plan for Europe)を提案しています。欧州復興計画では、EUが立ち直り、コロナ危機による被害を修復し、次世代のためにより良い未来を準備するためにグリーンとデジタルの対になった移行を加速させることの重要性が示されました。そして、欧州グリーンディールを最大限に活用するには、次世代EUが競争力のある持続可能性を推進することが不可欠であり、復興への公共投資は、環境と気候変動に「害を及ぼさない」というグリーン宣誓を尊重する必要があるとされています。とりわけ欧州委員会は、気候変動対策をさらに強化するため、2021-27年のEU長期予算について総支出の少なくとも25%が同期間の気候変動対策に充てられることを提案していますので、復興への公共投資もこの点が配慮されることになります(注2)。
 さらに、コロナ危機によって、欧州でもデジタル化の重要性が一層高まり、社会生活や経済生活の永続的かつ構造的な変化(更なるテレワーク、eラーニング、eコマース、電子政府)がもたらされ、国境を越えたデジタル公共サービスへの簡単で信頼できる安全なアクセスを可能にする広く受容されるe-ID(公共電子ID)が開発されるようになる点も、指摘されています(注3)。

(注1)European Commission, “The European Green Deal,” (Brussels, 11.12.2019 [COM(2019) 640 final]) p. 2
https://eur-lex.europa.eu/resource.html?uri=cellar:b828d165-1c22-11ea-8c1f-01aa75ed71a1.0002.02/DOC_1&format=PDF なお、経済成長と資源利用との切り離しは、環境分野では「デカップリング」といわれています。この点についての簡単な説明は、
https://www-cycle.nies.go.jp/magazine/mame/201608.htmlを参照ください。
(注2)European Commission, “The EU Budget Powering the Recovery Plan for Europe,” (Brussels, 27.5.2020 [COM(2020) 442 final])
https://eur-lex.europa.eu/resource.html?uri=cellar:4524c01c-a0e6-11ea-9d2d-01aa75ed71a1.0003.02/DOC_1&format=PDF,
European Commission, “Europe’s Moment: Repair and Prepare for the Next Generation,” (
Brussels, 27.5.2020 [COM(2020) 456 final])
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/PDF/?uri=CELEX:52020DC0456&from=EN,
European Commission, “Supporting Climate Action through the EU Budget,”
https://ec.europa.eu/clima/policies/budget/mainstreaming_en を参照。
(注3)European Commission, “Europe’s Moment: Repair and Prepare for the Next Generation,” (Brussels, 27.5.2020 [COM(2020) 456 final]) p.8
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/PDF/?uri=CELEX:52020DC0456&from=EN を参照。

上記のリンク先URLすべて、最終アクセス2020年10月5日。

(執筆:横山彰)

日々是総合政策No.179

企業のリスクマネジメント

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって、全世界は大変なダメージを受けています。このような現況を昨年度中に想像できた人はどのくらいいるでしょうか?
上場企業は、有価証券報告書のなかで、「事業等のリスク」について記述する義務があります。市場のリスクや信用上のリスク、経営管理上のリスクやその他企業を取り巻くリスクなど、想定しうるあらゆるリスクについて記載しなければなりません。
 2018年4月から2019年3月の間に決算を迎えた日本の上場企業の有価証券報告書の中で、「パンデミック」、「感染症」、「伝染病」、「新型インフルエンザ」をリスクとして記載した企業は、727社(eolにより筆者検索)であり、20%程度にとどまります。21世紀に入ってからだけでも、SARS(2003年)、新型インフルエンザA型(H1N1、2009年)、MERS(2012年)、エボラ出血熱(2014年)など、パンデミックと呼ばれる伝染病の感染爆発が世界的に発生しました。しかし、自社のリスクとしてこれを認識していた日本の上場企業は、2019年3月までの1年間では5分の1しかなかったことになります。この数値が2019年4月1日から2020年3月までの1年間では、80%以上に跳ね上がります。さらにリスク項目としては記載していないまでも、有価証券報告書のどこかにこれらの用語の記載のない企業はありませんでした。どの企業も何らかの影響を受けていることになります。各企業がどのようにこの危機に対処したかは、今後の有価証券報告書の記載から明らかになるでしょう。
 近年のリスクは、「事業戦略およびビジネス目標の達成に影響を与える不確実性(注1)」と定義されています。リスクマネジメントとは、想定されるリスクを事前に管理し、リスクの発生による損失をできるだけ回避することです。そのためには、まず、リスクを発見し、認識しなければなりません。今回のコロナ禍の経験を、何らかの発展に繋げ、社会をよりよくしていく経験値としていくために、企業、そして私たち個々人がしていくべきリスクマネジメントについて考え続けていく必要があります。

(執筆:渡部美紀子)

注1 米国COSO(The Committee of Sponsoring Organization of the Treadway Commission: トレッドウェイ委員会支援組織委員会)からERM(Enterprise Risk Management)フレームワークの改訂版が公表(2017.9.6)されており、その中で明示されている。