日々是総合政策No.149

新型コロナと国の政策(4)

 日本も新型コロナの影響により、多くの倒産と失業が発生しています。新型コロナ騒動に対する経済政策として、安倍政権では一律10万円の現金給付を打ち立てました。短期のケインズ型消費関数に基づけば、現実の消費は限界消費性向に依存しています。新型コロナ騒動で外出を控えた結果、観光やレジャー等で新たな消費を誘発する効果があまり期待できない場合、一律現金給付の経済効果は弱いと考えられます。所得税制度における基礎・配偶者・扶養控除等の人的控除には最低限の生活保障と言う根拠がありますが、10万円金額の具体的な根拠は示されていません。
 その一方で、平均消費性向が高い低所得者のみの限定給付は経済効果が期待できるものの、制度が複雑で迅速でないと言う問題があります。現行の消費税は住民税非課税世帯に対して、授業料・入学金を免除または減額と言った様々な優遇措置が設けられています(注1)。令和2年4月7日に閣議決定された「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策について」に於いても、個人住民税均等割非課税水準に基づく支援策が出されました(注2)。今後は高所得者に支払われた給付分の財源徴収が必要となるでしょう。
 日本の税や社会保障制度は普遍主義に基づく制度設計が多く、生活困窮者のみを対象にした選別給付が少ないと言う特徴があります。社会保障制度も生活保護のみが救貧の機能を果たしており、租税制度も低所得者のみの税額還付がありません。税と社会保障制度の更なる見直しが必要となるでしょう(注3)。
 また、人口移動制限の状況下で大規模な公共事業は効果が期待できないかもしれません。従来のインフラ整備から感染症対策のための病院建設への移行等を中心に、政府は公共事業にも工夫が求められるようになってきました。

(注1)現行消費税制度は、「知ってほしい!消費税のこと。暮らしのこと。」、下記のURL(最終アクセス2020年5月21日)を参照した。
https://www.gov-online.go.jp/cam/shouhizei/koutoukyouikumushouka/
(注2)「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」については下記のURL(最終アクセス2020年5月21日)を参照した。
https://www5.cao.go.jp/keizai1/keizaitaisaku/2020/20200407_taisaku.pdf
(注3)この点については、佐藤主光「<新型コロナ問題と税・社会保障>その3:コロナ禍の「出口戦略」をどうするか?」、下記のURL(最終アクセス2020年5月21日)を参照した。
https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=3419

(執筆:田代昌孝)

日々是総合政策No.148

コロナ後の世界(2) 「移動」からの解放

 新型コロナウイルス感染症の拡大の影響は、私たちの「働き方」にも大きな影響を与えました。そのひとつが「リモートワーク」や「テレワーク」です。ICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)を活用することで、特定の「場所」に行かなくても、物理的な制約を受けずに、協働作業ができる可能性を認識することができました。もちろん、これまでと違った不便さもあったと思いますし、「課題」が無いかといえば、もちろん多くの課題はあります。
 「会議」は、そのひとつでしょう。何かを話し合うとき、何かを決めるとき、皆が同じ場に集い、顔を見合わせながら、議論を尽くす。しかし、ICTを活用すれば、同じ場所に集まらなくても、顔を合わせて、議論することができることを体験し、この2か月の間で、少しずつ慣れ、それも日常生活のひとつの「当たり前」になっていく感触があります。会議のときに、資料を印刷しなければ、お弁当を用意しなければ、お茶を用意しなければ、と気になりますが、オンライン会議であれば、全て自前で準備ですので、気が楽です。
 今年の流行語になるかどうかはわかりませんが、「Zoom飲み会」という言葉も耳にしました。家にいながらにして、食べ物や飲み物を自分で用意して、オンラインで友人や知人と楽しく交流することができる。あたかも、目の前に、友人や知人がいるような感覚で楽しめる。問題は、お店なら「ラストオーダー」があったり、「終電」があったりして、終了時刻を気にしますが、「オンライン飲み会」は、「ラストオーダー」も無ければ、家にいるので「終電」を気にする必要は無く、ついつい、長時間になってしまう、ということのようです。
 ICTは、私たちを「移動」の概念からの解放に導いてくれるかもしれません。「移動」は「時間」を伴います。私たちは、そうした「機会費用」を少なからず支払ってきました。ICTにより、その「時間」を節約することができれば、その時間を別のことのために使うことができるようになります。ある人は家族との時間のために、ある人は自分の趣味や勉強のために使うかもしれません。今回の経験は、人々のライフスタイルを大きく変容させる「希望」を感じさせてくれたとも言えます。

(執筆:矢尾板俊平)

日々是総合政策No.147

特別定額給付金(下)

 新型コロナウイルス感染症緊急経済対策として実施されている特別定額給付金(一律に一人当たり10万円の給付)の給付事業費は、12兆7,344億14百万円(約12.73兆円)です(注1)。
 軽減税率制度のもとでの消費税率(国・地方)1%分の税収を2.1兆円程度と仮定すれば(注2)、この特別定額給付金は消費税率6(12.73÷2.1)%分の消費税減税を行える予算規模になります。12.73兆円の特別定額給付金も12.73兆円(税率6%分)の消費税減税も、特定の個人や世帯を限定しない普遍主義的な政策という点では同じです。しかし、消費税減税なしでの12.73兆円の特別定額給付金と12.73兆円(税率6%分)の消費税減税とでは、立法措置が異なり、政策実施の迅速性や行政費用も異なり、人によって受益も異なり、さらに消費税体系としての違いが出てくるとも考えられます。
 一律に一人当たり10万円の給付を行うことは、単純に消費税率を均一の10%だとしますと、一人当たり年間100万円分の消費を基礎消費として、この基礎消費に係る消費税額分10(10%×100)万円を一律に還付することとも考えられます。つまり、支払税額=税率×(年間消費−基礎消費)=税率×年間消費−税率×基礎消費=支払消費税額−定額給付金ですので、比例消費税と定額給付金をセットで考えれば、累進消費税(付加価値税)体系になります。このときの「累進」とは、年間消費が高い者ほど平均消費税率(支払税額÷年間消費)が高くなることを意味しています(注3)。この点に関しては、定額給付金は負の人頭税ですので、「付加価値税に負の人頭税を併用した累進付加価値税」を新しい支出税として、提示することもできます(注4)。他方、税率6%分の消費税減税は4%の比例消費税(付加価値税)になります。そこで、両者には消費税体系としての違いがあるとも考えられるのです。
 今回の特別定額給付金は一時的措置なので、これを来年度以降に継続しなければ累進消費税体系とは考えられません。そこで、来年度以降も何らかの形で定額給付金を継続させるのか否か、コロナ禍の収束後に東日本大震災に係る復興税のような形で当該緊急経済対策に係る公債の償還財源を考えるのか否かは、検討してみても良いでしょう。

(注1)総務省「特別定額給付金(新型コロナウイルス感染症緊急経済対策関連) 」
https://www.soumu.go.jp/menu_seisaku/gyoumukanri_sonota/covid-19/kyufukin.html <2020年5月18日最終アクセス>
(注2)馬場義久・横山彰・堀場勇夫・牛丸聡(2017)『日本の財政を考える』有斐閣、51頁で示されているように「軽減税率制度のもとでの消費税率1%の増収額は、2.04(もしくは2.23)兆円程度と見込め」ますので、ここでは消費税率1%の税収を2.1兆円程度と仮定しています。ただし、この税収見込みは、国民経済計算の最終消費支出に左右されますので、コロナ禍の影響でかなり低下するでしょう。
(注3)累進所得税の「累進」は、年間所得が高い者ほど平均所得税率が高くなることを意味します。累進所得税と累進消費税の違いは、個人の支払い能力(経済力)を所得で考えるか消費で考えるかの違いです。一般に、「消費税は逆進的である」といわれるのは、高所得者ほど所得に占める消費税額の割合が低くなるからで、所得分配への効果としての逆進性があるからです。詳しくは、加藤寛・横山彰(1995)『税制と税政:改革かくあるべし』読売新聞社、217-218頁を参照ください。
(注4)この新しい支出税の考え方については、横山彰(1994)「新しい支出税体系の検討」『租税研究』(日本租税研究協会)第535号、4-12頁、加藤・横山前掲書(注3)、214-221頁、横山彰・馬場義久・堀場勇夫(2009)『現代財政学』有斐閣、271頁を参照ください。

(執筆:横山彰)

日々是総合政策No.146

スウェーデンのコロナ禍対策(2)

 今回は大学生への支援策について紹介します。スウェーデンは今のところ、すべての学校で休校措置をとっていません。ただ大学は遠隔教育で対応しています。

1.大学等教育費の分担
 下の表は、大学や大学院などの教育費を100として、公共部門と家計がどれだけの割合で支出しているかを示します。スウェーデンは政府が84.7%支出し、家計の支出、つまり、学生やその保護者による支出は0.8%です。この0.8%はOECD35カ国中34位という低い値です。日本のそれは3位です。

表 大学等の教育費の分担割合% 2015年

 *公共や家計の他にNPOや寄付組織等の支出がある。
 **家計順位はOECD35カ国中の順位。
(出所)注1より抽出。

2.大学生支援策:奨学金のシーリング中止 
 以下、1スウェーデンクローナ=11円(注2より)として円単位で述べます。
 同国では、大学生や保護者の所得水準に関わりなく学費が無料です。国民の税負担により大学教育を支えています。いかなる時も学費未納による退学は生じません。危機に強いシステムです。
 では奨学金政策はどうでしょうか?全日制の大学生の場合、授業1週間あたり給付型奨学金が9058円、返済型が20812円、計29870円給付されます。
 奨学金制度には学生の所得シーリングがあります。保護者の所得は無関係です。半年間の所得が193万円を超えると奨学金は全く給付されません。このシーリングは、奨学金を得る週数-1週から半年で最大の20週-ごとに設定され、週数が多くなるほど低くなります。たとえば10週分だと162万円で、20週分では99万円です。つまり、学生の所得が99万円から162万円に増加すると、奨学金は20週分から10週分に半減します(以上の数値は注3より)。
 今回の支援策はこのシーリングを2020年に限り中止するものです。アルバイトをふやしても奨学金を減額しない措置です。背景に医療等での人手不足があるかもしれません。また、注3によれば今年失業し初めて大学で学ぼうとする人も、従前の所得水準にかかわらず奨学金を得られます。労働能力向上の後押しでしょう。政府はこの支援策を3月20日に発表しました(注4より)。その支出額は110億円です(注5より)。 

1.OECD URL
https://data.oecd.org/eduresource/spending-on-tertiary-education.htm
2.オンライン通貨コンバータURL
https://ja.valutafx.com/SEK-JPY.htm
3.スウェーデン中央奨学金機構URL
https://www.csn.se/bidrag-och-lan/studiestod/studiemedel.html#h-Hurmycketpengarkanjagfaochlana
4.スウェーデン政府URL
https://www.government.se/articles/2020/03/the-governments-work-in-the-area-of-education-in-response-to-the-coronavirus/
5.スウェーデン政府URL
https://www.government.se/information-material/2020/04/from-the-spring-fiscal-policy-bill-2020-guidelines-for-economic-and-budget-policy/

以上、すべて最終アクセス 2020年5月10日。

(執筆:馬場 義久)

日々是総合政策No.145

新型コロナと国の政策(3)

 米中貿易摩擦とも言うように、中国もアメリカと並んだ大国です。以前は中国も途上国と言われましたが、沿岸部における外資系の企業誘致が盛んとなり、最近ではアメリカを凌ぐような経済大国となりました。これは中国共産党における人事評価が経済成長率に基づいているためであると言えます(注1)。
 一党独裁のような国家は中央政府が全ての政治に関与し、全ての国民を守るような体制です。中国が共産主義を唱っている以上、本来ならば国民はあらゆる面で平等でなければなりません。都市と農村の様々な格差を是正するような政策が、中国では最も重要であります。
 ただ実際には、中国は国土面積が非常に広く、格差を是正すると言っても、その効果は限られています。分税制という財政調整制度を中心に、いわゆる貧しい地域への補助金政策が完全に機能せず、多くの農民工が充分な社会保障制度を受けられない状況となっています。
 その原因として、中国の農民工が都市労働者に比べて、質の低い社会保障制度に加入するしかない状況が挙げられます。中国における社会保障制度の特徴と言えば、戸籍管理制度に基づく運営です。一部のビジネスに成功した農民起業家を除けば、ほとんどの農民は都市戸籍への転換は実質的に不可能なものとなっています(注2)。戸籍管理制度に基づく社会保障制度を通じて、様々な格差が発生した結果、中国では新型コロナが蔓延したとも言えるでしょう。
 公的医療の充実を疎かにして経済成長を重視した結果、医療サービスを中心に格差が生じたという背景は、中国もアメリカと非常に良く似ています。質の低い医療サービスを受け続ける低所得者と、高い医療技術のサービスを受ける高所得者が共存する体制は、中国もアメリカも同じです。新型コロナの世界的な流行を通じて、今後は多くの国々で公的医療の重要性を認識することになるでしょう。

(注1)中国の人事評価と経済成長との関係は、田中直毅「世界を揺るがす中国資源多消費型経済の屈曲点」『ニッポンドットコム』経済・ビジネス2016.02.17、
https://www.nippon.com/ja/column/g00349/(最終アクセス2020年5月4日)を参照した。
(注2)中国の戸籍管理制度による社会保障の運営は柯 隆[2014]「中国の社会保障制度と格差に関する考察」『フィナンシャル・レビュー』第119号、172-175頁を参照した。

(執筆:田代昌孝)

日々是総合政策No.144

感染症データをどのように読むべきか

 4月26日、元衆議院議員のタレントがテレビ番組で、日本での感染症死亡者数が欧米よりかなり少ないので、「日本は圧倒的に勝っている」と発言したそうだ。ここでは事実に基づいてこの主張を批判的に検討する。以下では、世界で最も信頼できる情報源である米国ジョンズ・ホプキンス大学のコロナウイルス・リソースセンターのデータを用いる(https://coronavirus.jhu.edu/map.html、以下の表の数値は、2020年5月6日午前11時30分現在)。
 タレントの発言は、死亡者数Cや死亡率F(=死亡者数÷累計感染者数)において日本は低いので症状は軽いと言いたいらしい。これに対して、いくつかの疑問点を出そう。
 第1に、累計感染者数のうちまだ感染したままの人の割合Eにおいて、日本はロシア・英国・米国に次いで高い。第2に、累計感染者数のうち回復者の割合Gにおいて、日本は世界平均を下回り、英国、ロシア、米国に次いで低い。これらが示唆するのは、日本は今もロシア・英国・米国と並んでコロナ収束の状況にはないということだ。
 第3に、中国と比較する。中国の湖北省以外の30地区の人口は13.4億人(2018年末、中国国家統計局「統計数据」)で、日本の10倍以上だが、累計感染者数はほぼ同数で、死亡率は0.8%だ。つまり、日本の状況は、湖北省以外の中国全体と比べて10倍以上の感染率、死亡率は4.5倍なのだ。中国各地で2か月以上の外出禁止を実施した結果が、収束(収まること)を経ての終息(終わること)だ。韓国と比べても、日本の数値はほとんど悪い。
 第4に、米国の累計感染者数は120万人近いが、検査件数は728万人強である。日本の検査件数は18.5万人(5月5日厚生労働省報道発表の累計PCR検査実施人数)で米国の40分の1。要するに、検査件数が少ないために感染者数が少なく、死亡者数も少ないのだ。実際に、感染症で死亡しても検査しなければ、感染症死亡者とみなされない。
 最後に、中国ではほぼ終息し、欧州でも(英国を除いて)収束の兆しが見える中で日本では明るい見通しがなく、さらに1か月自粛して我慢・苦痛と倒産・失職と生活困難を強いられている。それでも日本は諸外国よりマシと言えるのだろうか。

(執筆:谷口洋志)

日々是総合政策No.143

特別定額給付金(上)

 新型コロナウイルス感染症緊急経済対策として、特別定額給付金などを含む令和2年度補正予算が2020年4月30日に成立しました。特別定額給付金は、4月20日の閣議決定で、「医療現場をはじめとして全国各地のあらゆる現場で取り組んでおられる方々への敬意と感謝の気持ちを持ち、人々が連帯して、一致団結し、見えざる敵との闘いという国難を克服しなければならない。このため、感染拡大防止に留意しつつ、簡素な仕組みで迅速かつ的確に家計への支援を行うこととし、一律に、一人当たり10万円の給付を行う」(注1)と示されたもので、その給付対象者は基準日(2020年4月27日)において住民基本台帳に記載されている者(日本国籍を有しない者も含む)、受給権者はその者の属する世帯の世帯主となっています(注2)。
 この特別定額給付金は、4月7日閣議決定の新型コロナウイルス感染症緊急経済対策における減収世帯への30万円給付(注3)を変更したものです。減収世帯への30万円給付は給付対象を困窮している世帯に限定した家計への支援対策であるのに対し、そうした限定をしない家計への支援対策が特別定額給付金です。この違いは、選別主義的な政策か普遍主義的な政策かの違いになります。
 現行の児童手当制度では、原則的に扶養親族等の数に応じた所得制限がありますが、所得制限限度額以上の場合にも特例給付として児童1人につき月額5千円が支給されます(注4)。これは、選別主義を基にしながらも普遍主義も併せ持った政策になっています。新型コロナウイルス感染症緊急経済対策としての家計への支援対策は、特別定額給付金の普遍主義的な政策を基にしながらも、感染症発生の影響で真に困窮している世帯に給付対象を限定した追加的給付の選別主義的な政策を抱き合わせることが求められるかもしれません。ただし、減収世帯への30万円給付において減収世帯の線引き基準が大きな問題となったように、選別主義的な政策では明確で合理的な線引き基準を設けることが肝要になります。

(注1)内閣府「「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」の変更について(令和2年4月20日閣議決定)」 23頁より引用。
(注2)総務省「特別定額給付金(新型コロナウイルス感染症緊急経済対策関連) 」 を参照。
(注3)内閣府「「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」について(令和2年4月7日閣議決定)」 23頁を参照。
(注4)内閣府「児童手当制度のご案内」 を参照。この現行制度に加え、新型コロナウイルス感染症緊急経済対策として、児童手当(本則給付)を受給する世帯への臨時特別給付金(児童手当1万円上乗せ)もなされています(注1を参照)。

なお、注記でリンクを貼ったURLの最終アクセスは、すべて2020年5月4日です。

(執筆:横山彰)

日々是総合政策No.142

スウェーデンのコロナ禍対策(1)

 今回はコロナ感染の現状と、政府の感染抑制策を紹介します。なお、同国の人口は約1000万人、その国土面積は日本の1.2倍です(注1より)。

1.感染の現状
 下の表は感染者数の多い30カ国から一部を抽出したものです。スウェーデンの感染者数総計は世界で21番目、感染者に占める死者の割合は12.1%と世界6番目です。スウェーデン公衆衛生局によると4月28日現在、総死者数の87%が70歳以上の方です。

(出所)日本経済新聞2020年4月28日付より算出。数字は、米ジョンズ・ホプキンス大学による。4月27日現在。

 ちなみにノルウェー公衆衛生研究所によれば、4月27日現在ノルウェーは感染者数7605人、うち死亡者数は195人です。この点もあってか、スウェーデンの代表的な新聞であるDAGENS NYHETER(=今日のニュース) で「なぜわが国の死者が隣の国々より多いのか、その原因を明らかにすべき」(注4より)との意見が出されています。

2.感染拡大抑制策
 スウェーデン政府による抑制策は、他の欧米諸国と異なり規制のきわめて少ないものです。法的に規制されるのは、50人を超えるイベント(コンサートなど)の禁止だけです。Stefan Löfvent首相は「政府と我々の医療システムはできることすべてを行っている。しかし、国民全員が責任を果たすことが重要」(注5より)と訴えています。そして、具体的には以下の行動をとれば責任を果たせるとしています(注6より)。
①軽い風邪であっても自宅で過ごし、職場に行かない。
②高齢の親族への訪問を避ける。
③何度もお湯と石鹸で手を20秒間洗う。
④屋内・屋外とも人との距離を保つ
⑤グランド・プール・ジムで人との距離を保つ。
⑥ラッシュアワーを避けて移動する。
⑦旅行は絶対必要な場合に限る。

3.「お願い」ではなく国民の責任を強調する点、いかにも自律の国らしい。なお、スウェーデンには「ノーマルな状態のもとで、ある特定の活動について責任を負う人々は、危機の状況下でも当該活動について責任を負うべし」(注5より)というThe responsibility principleがある。

注 
以下、すべて最終アクセス 2020年4月29日。
1.日本外務省URL
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/sweden/data.html
2.スウェーデン公衆衛生局URL
https://fohm.maps.arcgis.com/apps/opsdashboard/index.html#/68d4537bf2714e63b646c37f152f1392
3.ノルウェー公衆衛生研究所
https://www.fhi.no/en/id/infectious-diseases/coronavirus/daily-reports/daily-reports-COVID19/ 
4.DAGENS NYHETER URL
https://www.dn.se/debatt/fortsatt-fler-doda-i-sverige-an-i-vara-nordiska-grannlander/
5.スウェーデン政府URL
https://www.government.se/articles/2020/04/strategy-in-response-to-the-covid-19-pandemic/
6.スウェーデン政府緊急情報URL
https://www.krisinformation.se/en

 (執筆:馬場 義久)