日々是総合政策 No.19

民主主義のソーシャルデザイン:亥年の選挙イヤー

 年号が平成から令和に変わった2019年は、「亥年の選挙イヤー」とも呼ばれます。統一地方選挙は4年に1度、参議院選挙は3年に1度、行われます。その4年に1度と3年に1度のタイミングが、ちょうど同じ年に重なるのが「亥年」で、12年に1度、同じ年に統一地方選挙と参議院選挙が行われます。
 今回の統一地方選挙は、4月7日と21日が投票日となりました。統一地方選挙前半戦(4月7日投票日)では、道府県知事、道府県議会議員、そして政令市の市長・議会議員選挙が行われました。統一地方選挙後半戦(4月21日投票日)では、その他の市町村の首長や議会議員選挙が行われました。もちろん、選挙が行われなかった地域もあります。その理由は、首長や地方議員の任期は4年ですので、統一地方選挙とは異なる時期に選挙が行われた地域の場合は、選挙の時期が統一地方選挙のタイミングからずれることになります。
 例えば、東京都知事選挙。2011年の東京都知事選挙は、他の道府県知事選挙と同じく統一地方選挙の前半戦で選挙が行われました。しかし、2011年の東京都知事選挙で当選した石原慎太郎氏が翌年に知事を辞職したため、2012年に都知事選挙が実施され、猪瀬直樹氏が当選しました。その猪瀬氏も辞職し、2014年に再び東京都知事選挙が実施され、舛添要一氏が当選しました。舛添氏も辞職し、2016年の東京都知事選挙で、現在の小池百合子知事が誕生します。このように辞職等により、選挙の時期がずれることが往々にしてあります。
 夏には参議院選挙が実施されます。参議院議員の任期は6年ですが、3年毎に選挙が行われます。今回は、2013年の参議院選挙で当選した議員の任期が今年の7月28日に満了するので、選挙となります。2016年の参議院選挙で当選した議員の任期は、3年ほど残っていますので、今回は改選期にはあたりません。
 そして、いま永田町では「解散風」が吹き始めているようです。衆議院と参議院の選挙が同日に行われることを「W選挙」と呼びます。過去にも「W選挙」が行われたことはありますが、現在の選挙制度の下では初めての経験となります。もし「W選挙」が行われたら、1投票所あたり5つの投票箱が必要になります。何が起きるかわからないのが「亥年の選挙イヤー」。「W選挙」となるかどうか見所です。

(執筆:矢尾板俊平)

日々是総合政策 No.18

スウェーデンは高負担国家か?

 スウェーデンは、平等主義、高福祉と高負担の国家として注目されることが多いですね。財務省のホームページによると、2015年のスウェーデンの国民負担率は56.9%であり、日本の42.6%を大きく上回っています。国民負担率は国民が稼いだ所得の総計(国民所得)に占める、税と社会保障負担の合計額の割合を示します。ここで社会保障負担とは、主に年金保険料や健康保険料など社会保険料を指します。
 結局、国民負担率は国民が得た所得のうち、何%政府に支払ったかを示します。つまり、スウェーデン国民は国民所得の半分以上を公的負担として政府に納めたわけです。確かにかなりの高負担です。
 この高負担をスウェーデンの人はなぜ受け入れているのか不思議に思い、スウェーデン滞在中に「あなたの国の公的負担は重いようですが、どう思いますか?」と尋ねたことがあります。その答えの多くは「スウェーデンの場合、子どもが二人いれば公的負担は生涯中にほぼ戻ってくる」というものでした。
 この回答で注目したいのは、次の三つの点です。第一に、租税や社会保険料という公的負担を、その使われ方と関連づけて捉えていることです。一般に公的負担は公共支出の財源ですから、この捉え方は当然と言えます。
 第二に、公的負担とその使われ方について、2015年という一時点に限定して考慮するのではなく、生涯という長いタイムスパンで見ていることです。年金・医療などは、現役期に公的負担を支払い、給付の多くを高齢期に得ますので、生涯期間の視点はとても重要です。
 第三に、スウェーデンでの個人が支払う公的負担は、その大部分が、他の人のためにではなく、自分自身や家族のために使われると思っていることです。
 このように思う公的負担は、個人が将来の疾病・老後や、子どもの教育に備える貯蓄に似ています。公的負担を自主的な貯蓄のように認識できれば、それは、もはや負担とは言えないでしょう。皆さんはどう思いますか?

(執筆:馬場義久)

日々是総合政策 No.17

高等教育無償化と地方私大の公営化(下)

 文部科学省「平成30年度学校基本調査(確定値)の公表について」をみると、学部・大学院を含む大学の学生数は2018年度約291万人で、そのうち私大の学生は約214万人(約74%)である。大学数は782校でうち私大は603校(約77%)である。量的には圧倒的に私大が日本の高等教育(大学教育)を支えている。ところが、旺文社教育情報センター「地方私立大の“公立化”!」によると、2016年度には私大全体577校中257校(44.5%)が定員割れを起こしている。入学定員800人未満の小規模私大は私大全体の72%にもなる。今後18歳人口が減少していく中で、定員800人未満の小規模地方私大を中心に、約300大学の経営が成り立たなくなるという「エコノミスト」(2018年7月24日号)の指摘もある。
 前回にも述べたように(⇒No.13を参照)、高等教育無償化措置によって学生の地方から大都市圏への進学移動が生じた場合に、地方の小規模私大の経営は間違いなく成り立たなくなる。その先取り支援策として注目されるのが、地方自治体による私大の公立化で、これまでに全国で10私大が公立化された。日本私立大学連盟は、「高等教育政策に対する私大連の見解」や「高等教育に対する公財政支援の現状と課題―私立大学を中心に―」等において、高等教育の無償化は国・私立大学間の授業料・奨学金格差を固定化さらに拡大しかねないとし、国に対して経常費補助金の拡充や国・私立大学間格差是正等を要請しているが、1000兆円を超す債務を抱えている国に多くを期待しても実現しそうにない。
 となると私大の公立化もやむを得ないように思えるが、ただそれも上述の旺文社資料によれば、財源の相当額が地方交付税で措置されているので結局は国の負担となる。いずれにせよ、国・公・私立大学に対する国の財政負担や家計の負担の在り方を根本的に問い直すことと大学の統廃合が避けられない時代を迎えていることは間違いない。

(執筆:片桐正俊)

高等教育無償化と地方私大の公営化(上)

日々是総合政策 No.16

人口減少のインパクト(2):地域別の人口減少

 前回のコラムでは、今後50年間で約4,000万人の人口が減少することを示しました。2015年時点での東京都・埼玉県・千葉県・神奈川県に茨城県を加えた人口に等しい数の人口が減少していくことになります。この人口減少は、等しく進行していくわけではありません。「全ての地域で、同じような速度で」進行するわけではなく、「全ての年齢で、等しく」進行していくわけではありません。今回のコラムでは、地域別の人口減少に着目していきましょう。
 国立社会保障・人口問題研究所は、全国だけではなく都道府県別の将来人口推計も公表しています。都道府県別では、2019年5月20日現在で2045年までの将来人口推計の結果が公表されています。その推計では、ほとんどの道府県で2015年から2020年の人口が減少すると推計されています。具体的には、埼玉県、東京都、神奈川県、愛知県、沖縄県を除く42道府県で人口が減少していき、5年間に全国で約177万人が減少すると推計されています。
 2015年から2045年にかけて、最も人口減少「数」が大きいのは大阪府で約150万人です。最も人口減少「率」が大きいのは青森県で-37%です。人口減少率で見ると、減少率が大きいのは概ね地方の(大都市を含まない)県になります。これらの県は、元々の人口規模が小さいので人口減少数では上位になりませんが、人口減少率では上位になります。
 ほとんどの地方で人口が減少する一方で、東京都は2030年までは人口が増加すると予測され、2045年でも2015年段階よりも人口は多くなる予想されています。その要因としては、地方から都市への人口移動が挙げられるでしょう。つまり、地方は「低出生+高齢化」によって人口減少が加速するのに加えて、「都市への流出」というもう一つの要因によって人口減少が加速していきます。東京都の人口割合(対総人口)は、2015年で10.6%だったものが、2045年には12.8%になると推計されています。

(執筆:中澤克佳)

日々是総合政策 No.15

多文化共生を考えよう(下)

 今になれば、多様な文化があることは、アメリカのシリコンバレー等の経済の強さの要因とも感じる。筆者が住んでいた市では、市民が出身の祖国の食べ物や物品を持ち寄って楽しむ「多文化共生祭」のようなものがあった。そこのサブテーマは、「Celebrating Diversity(多様性を祝おう)」だったのだ。異文化との交流を尊ぶ西海岸の暮らしを経験したことは、その後、私の様々なことに大きな影響を与えた。
 そうした意味で、これから公共政策に携わろうとする人に、申し上げたいことが二点ある。第一には、留学、外国生活の勧めだ。異文化との交流は、必ずや、かけがえのない貴重な経験となる。異文化との交流は、新たな発見の機会だと言うことだ。第二には、外国人の増加に伴う多文化共生施策は、地域のためになる、チャンスと考えて取り組んでほしいと言うことだ。
 今後、外国人の中でも日本が求める高度な人材は、海外とも比較し、住みやすい地域を選択する。企業も外国人が住みやすいところに立地する。留学生も学びやすいところを選択する。外国人観光客もだ。そうなれば多文化共生は、地方創生の「鍵」になるに違いない。このことを考えて、公共政策を考えてもらいたいのだ。
 地域社会での外国人受け入れに関しては、治安等の心配を感じる向きもあるだろう。しかし、女性の活躍でよく言われることであるが、女性にとって、働きやすい職場は、男性にとっても働きやすい。同じ様に、差別がなく「外国人や、外国にルーツを持つ日本人」が暮らしやすい地域は、普通の日本人にも暮らしやすい地域にほかならない。そういう意味で、多文化共生は、地域づくりを見つめ直すチャンスでもある。「多文化共生社会では、外国人住民は支援を受ける存在ではなく、共に地域を創っていく担い手となる。外国人住民や外国人コミュニティの活動が、地域の活力の源泉となり、特色のある豊かな地域を形作っていく。」(自治体国際化フォーラム31号)ことになるのだ。

(執筆:平嶋彰英)

多文化共生を考えよう(上)

日々是総合政策 No.14

国民一人あたり年間所得と国民の幸せ

 こんにちは、ふたたび池上です。前回(No.4)は、先進国と開発途上国を区別するのに国民一人あたり年間所得が用いられているというお話でした。今回は、経済学者は国民一人あたり年間所得を重要視しているようだが、国民一人あたり年間所得は、国民の幸せと本当に関係があるのか、というお話です。
 まず、貧困者が少ない国ほど幸せな国だという主張に異論がある人はあまりいないと思います。ここで、貧困者の定義を世界銀行の定義にならい、一日あたりの所得が1.90ドル以下の人だと定義します。この1.90ドルは、各国の物価の違いを調整した後の1.90ドルです。1.90ドルは、円に換算すると195円です(2019年5月19日現在で入手可能な最新の世界銀行による各国の物価の違いを調整した為替レート2017年1ドル102.47円)。1日195円でどうやって生活するのか疑問に思う人は多いと思いますが、その話は将来にとっておこうと思います。国民のうち、貧困者の占める比率を、貧困者率と呼びます。国民一人あたり年間所得が小さい国ほど、貧困者率が大きいこと、関係が強いことがわかっています。2つの指標の間の関係が強いことを、相関が大きいと呼びます。
 貧困者率も国民一人あたり年間所得もどちらも所得に基づいているのだから相関が大きくて当然という反論を持つ人もいるでしょう。では、所得以外に国民の幸せを示す指標として何が考えられるでしょうか?まず、思い浮かぶのは健康でしょうか?国民一人あたり年間所得が小さい国ほど、乳幼児死亡率が大きく、平均余命が小さいこともわかっています。ただ、これらの健康の指標は、貧困者率ほど、国民一人あたり年間所得との相関は大きくありません。
 上記の所得や健康の指標は客観的な指標ですが、国民の幸せの指標として、国民の生活満足度という主観的な指標を取ることもできます。ここでも、国民一人あたり年間所得と国民の生活満足度の間に相関があることがわかっています。日本は労働時間が長すぎる人の数が多そう、自殺率が高そう、など、他の国民の幸せの指標が気になる人もいるかも知れません。それらについては、興味に応じて各自で調べてもらうことにして、次回は、国民一人あたり所得の増加の仕組みのお話にする予定です。

(執筆:池上宗信)

日々是総合政策 No.13

高等教育無償化と地方私大の公営化(上)

 2018年の文部科学省「高等教育の将来構想に関する参考資料」と同省「平成30年度学校基本調査(確定値)の公表について」によれば、18歳人口は、ピーク時1992年の205万人から減り続け2018年には118万人になり、さらに2030年には103万人になると予測されている。その中で、逆に大学(学部)進学率は1989年度の24.8%から2018年度には53.3%にもなり、大学・短大・高専を合わせた高等教育機関進学率も2018年度には81.5%にも達し、いずれも過去最高となった。大学数は、1989年度の499校から2018年度には782校にまで増加している。大学の定員増が大学進学率の上昇をもたらしているのは間違いない。しかし、このような高等教育の発展も、今後18歳人口がさらに減少していく見通しの中で、手放しでは喜べない厳しい現実に既に直面している。
 日本の高等教育費の負担は、公的負担依存型の北欧諸国等と違って、家計依存型となっている。そのため、財務省の資料「所得階層別の高等教育進学率」によると、所得格差が大学や高等教育機関の進学率格差となって表れている。そこで政府は、2017年に「新しい経済政策パッケージについて」で、全世代型社会保障改革の一環として高等教育の無償化・負担軽減政策を打ち出し、10%への消費税引上げを財源に2020年4月からそれを実施する予定である。
 2019年5月10日成立の高等教育無償化法によると、その内容は、大学、短大、高専、専門学校の学生に対し、授業料・入学金の減免と返済不要の給付型奨学金支給を行うものである。住民税非課税世帯及び世帯年収380万円未満の低所得世帯の学生が対象となる。教育の機会均等の点から評価できる施策であるが、懸念される事柄もある。大和総研レポート(2019年4月5日)も指摘しているように、高等教育無償化措置により、大都市圏への学生の集中と地方の学生流出超過の加速化が起こるのではないかという点である。

(執筆:片桐正俊)

高等教育無償化と地方私大の公営化(下)

日々是総合政策 No.12

家計の電力消費量を減らすには

 多くの家計の電力消費行動に変化をうながし,社会全体として節電するための公共政策の手段には何があるだろうか.ここでは電力料金の引き上げといった金銭的な誘因に基づく伝統的な政策手段ではなく,行動経済学に基づいた公共ナッジ(つまり選択の自由を維持しながら,人々を特定の方向へ導く介入)による政策実践の可能性を紹介する.
 アメリカとシンガポールの共同研究グループは,シンガポールの小中学生を対象とした省エネ・コンテストが,その家族全体の節電行動を導く効果的なナッジとなり得るかについて検証した(Agrawal et al., 2017).これは,小中学生向けの省エネ・コンテストを「介入」とし,ブロック(街区)単位の家計電力消費量を「アウトカム」とする準フィールド実験である.
 2009年にシンガポールは10%以上の省エネを目指すために“Project Carbon Zero”という小中学生向けのコンテストを行った.コンテストの参加は学校単位で行われ,省エネの重要性を説明する授業だけではなく,「自宅のエアコンの温度設定は25℃に設定しようね」といった特定の省エネのヒントを与えた.参加校の生徒はコンテスト期間の前後(2009年1〜8月,介入は5月)に渡って,家計の電力使用量を毎月報告した.電力消費の削減を達成した上位3名や上位3校は表彰され,期間中に10%の省エネを達成できた全ての学生に図書券が配られた.
 主な結果は以下の通りである.参加学校から2キロ以内に自宅がある生徒の家計は,2キロ外に自宅がある生徒の家計よりも,期間中のブロック単位の家計電力消費量が1.8% 少なかった.さらにコンテスト終了後においても,省エネ効果は存続した(限界貯蓄で1.6%).また,小学生はより多くの節電を導くナッジとなる一方で,中学生はより長い効果を持つナッジとなることも分かった.
 つまり条件続きではあるものの,小中学生の日常行動の変化は,家計行動の変化を導く.子供たちの行動は家族を巻き込むことで,社会全体を良くする公共ナッジとなる可能性を秘めている.

(出所)
Sumit Agarwal, Satyanarain Rengarajan, Tien Foo Sing, and Yang Yang, 2017, Nudges from school children and electricity conservation: Evidence from the “Project Carbon Zero” campaign in Singapore, Energy Economics, 61: 29-41.

(執筆:後藤大策)

日々是総合政策 No.11

多文化共生を考えよう(上)

 2020年の東京オリンピック・パラリンピック競技大会、ラグビーワールドカップ2019日本大会の開催を前に、多文化共生に取り組むことの重要性の認識が広がっている。総務省の「多文化共生の推進に関する研究会報告書2018」によれば、日本における在留外国人数は2018年6月末時点で約264万人と過去最高となっており、総人口に占める割合も過去最高を記録している。また、2019年4月には、新たに外国人材の受入れのための在留資格(「特定技能1号」「特定技能2号」)の創設等を内容とする法改正が施行された。これも考えると、今後の人口減少社会の地域社会において、外国人のプレゼンスが、今まで以上に増大し、これに伴って多文化共生政策が、ますます重要な課題となっていくことも、間違いないだろう。
 地域社会に外国人が増えることについて、治安その他の面で不安感をもつ地域住民がいることは否定できない。四方を海に囲まれている日本だから強調される面があるにせよ、イギリスのブレグジット論議も、そのきっかけの一つが移民問題であったことやアメリカの大統領選挙やEU各国の選挙をみても、在留外国人問題は、世界共通の課題である。そのことを認識した上で、筆者は今後の地域活性化の「鍵」は、「多文化共生にある」と考えて取り組んでいくことが重要と考えている。かねてから、いずれ「多文化共生が、我が国の公共政策上の大きな課題になる」と考えていたが、その原点は、今から四半世紀以上前の、1990年代前半のアメリカ西海岸の生活体験である。当時、多文化共生という言葉はなかったが、多様な民族、言語、文化、国籍の存在を多とするアメリカ社会に驚愕したことが思い出される。印象的だったのは、多文化共生をやっかいなものと考えるのではなく、むしろ積極的にとらえていることだった。多様な文化に触れられることは喜びであり、多様な文化があることは社会の強さにつながる、という強い意思を感じた。

(執筆:平嶋彰英)

多文化共生を考えよう(下)

日々是総合政策 No.10

中国は先進国か?

 10年近く前のこと、2010年に中国が日本を経済規模(GDP=国内総生産という指標によって測られる)で追い越し、世界第2位になったことが報じられた。多くの日本人は驚きながらも、あれだけ人口が大きいのだから全体規模では追いついても1人当たり平均ではまだまだ大きな差があると自らを慰めていた。今もこのように思っている人が多いとしたら問題だ。
 IMF(国際通貨基金)の最新統計(World Economic Outlook Database、2019年4月)によると、2000年段階で、中国の経済規模は日本の4分の1だった(1990年には日本の13%だった)。それが10年後には追いついたのだ。この勢いは若干弱まっても、現在も高速であることは間違いない。実際、2020年には中国の経済規模は日本の2.8倍となり、2023年には3倍を超えると予測されている。
 1人当たり平均の経済規模(米ドルで測った名目GDP)をみると、2000年に日本は中国の40倍だったが、2010年には10倍にまで縮小し、2020年には4倍弱にまで低下する。日本の1人当たり平均の名目GDPを約4万ドルとすればすでに中国は約1万ドルとなる(IMFの予測では、2019年の場合、日本は4万1021ドル、中国は1万153ドル)。
 前回見たように、1人当たり平均の経済規模1万2000ドル以上を高所得経済=先進国経済とすると、中国は先進国に近いところまで来ている。実際、IMFの予測では、2021年に約1万2000ドル、2024年には約1万5000ドルになるとされている。つまり、数年以内に、中国は先進国の経済水準に達するということだ。
 中国の勢いは経済だけにとどまらない。今や、理工系の先端技術分野では中国は米国と並ぶ「2強」となり、科学技術分野をリードしている。人工知能(AI)の研究開発水準でも「米中2強」であり、中国の自動車製造・販売は米国+日本の合計を上回り、世界の工場で働くロボットの約3割は中国国内で稼働している。2019年3月末の移動電話ユーザー数は16億(15億9655万)で、日本(2018年12月末、1億7261万)の10倍近い。(それぞれの数値は、OICA=国際自動車工業連合会、IFR=国際ロボット連盟、中国工業情報化部、一般社団法人電気通信事業者協会、が公表する統計資料に基づく。)
 中国に対する我々のイメージと理解は大幅に修正される必要がある。

(執筆:谷口洋志)