日々是総合政策No.147

特別定額給付金(下)

 新型コロナウイルス感染症緊急経済対策として実施されている特別定額給付金(一律に一人当たり10万円の給付)の給付事業費は、12兆7,344億14百万円(約12.73兆円)です(注1)。
 軽減税率制度のもとでの消費税率(国・地方)1%分の税収を2.1兆円程度と仮定すれば(注2)、この特別定額給付金は消費税率6(12.73÷2.1)%分の消費税減税を行える予算規模になります。12.73兆円の特別定額給付金も12.73兆円(税率6%分)の消費税減税も、特定の個人や世帯を限定しない普遍主義的な政策という点では同じです。しかし、消費税減税なしでの12.73兆円の特別定額給付金と12.73兆円(税率6%分)の消費税減税とでは、立法措置が異なり、政策実施の迅速性や行政費用も異なり、人によって受益も異なり、さらに消費税体系としての違いが出てくるとも考えられます。
 一律に一人当たり10万円の給付を行うことは、単純に消費税率を均一の10%だとしますと、一人当たり年間100万円分の消費を基礎消費として、この基礎消費に係る消費税額分10(10%×100)万円を一律に還付することとも考えられます。つまり、支払税額=税率×(年間消費−基礎消費)=税率×年間消費−税率×基礎消費=支払消費税額−定額給付金ですので、比例消費税と定額給付金をセットで考えれば、累進消費税(付加価値税)体系になります。このときの「累進」とは、年間消費が高い者ほど平均消費税率(支払税額÷年間消費)が高くなることを意味しています(注3)。この点に関しては、定額給付金は負の人頭税ですので、「付加価値税に負の人頭税を併用した累進付加価値税」を新しい支出税として、提示することもできます(注4)。他方、税率6%分の消費税減税は4%の比例消費税(付加価値税)になります。そこで、両者には消費税体系としての違いがあるとも考えられるのです。
 今回の特別定額給付金は一時的措置なので、これを来年度以降に継続しなければ累進消費税体系とは考えられません。そこで、来年度以降も何らかの形で定額給付金を継続させるのか否か、コロナ禍の収束後に東日本大震災に係る復興税のような形で当該緊急経済対策に係る公債の償還財源を考えるのか否かは、検討してみても良いでしょう。

(注1)総務省「特別定額給付金(新型コロナウイルス感染症緊急経済対策関連) 」
https://www.soumu.go.jp/menu_seisaku/gyoumukanri_sonota/covid-19/kyufukin.html <2020年5月18日最終アクセス>
(注2)馬場義久・横山彰・堀場勇夫・牛丸聡(2017)『日本の財政を考える』有斐閣、51頁で示されているように「軽減税率制度のもとでの消費税率1%の増収額は、2.04(もしくは2.23)兆円程度と見込め」ますので、ここでは消費税率1%の税収を2.1兆円程度と仮定しています。ただし、この税収見込みは、国民経済計算の最終消費支出に左右されますので、コロナ禍の影響でかなり低下するでしょう。
(注3)累進所得税の「累進」は、年間所得が高い者ほど平均所得税率が高くなることを意味します。累進所得税と累進消費税の違いは、個人の支払い能力(経済力)を所得で考えるか消費で考えるかの違いです。一般に、「消費税は逆進的である」といわれるのは、高所得者ほど所得に占める消費税額の割合が低くなるからで、所得分配への効果としての逆進性があるからです。詳しくは、加藤寛・横山彰(1995)『税制と税政:改革かくあるべし』読売新聞社、217-218頁を参照ください。
(注4)この新しい支出税の考え方については、横山彰(1994)「新しい支出税体系の検討」『租税研究』(日本租税研究協会)第535号、4-12頁、加藤・横山前掲書(注3)、214-221頁、横山彰・馬場義久・堀場勇夫(2009)『現代財政学』有斐閣、271頁を参照ください。

(執筆:横山彰)