日々是総合政策 No.21

クラウドファンディングの役割 

 耳慣れない金融用語が、新聞、雑誌に次々に登場しています。クラウドファンディングもそのひとつでしょうが、「日々是総合政策No.9」で取りあげたコミュニティビジネスと深くかかわってきます。クラウドファンディングとは、不特定多数の人々が、インターネットを通じてお金を融通する手法のことです。        
 顔なじみの人々が集う場を基盤とするコミュニティビジネスは、お互いの情報を得やすいだけでなく、アイデアを出し合って技術革新を行う機会に恵まれています。それゆえ、
 財やサービスをより安く生み出し、地域発のグローバル化を実現する可能性さえ持っています。しかし、生産を継続、拡大するためにはコストがかかります。通常、まず、自分のお金(自己資金)で賄いますが、それで不足する場合、銀行から借り入れるか、債券や株式を発行する必要が生じます。ところが、コミュニティビジネスはそれほど信用があるわけではなく、証券の発行は銀行借入に比べ、一層、難しいのが実情です。        
 そこで、「地域経済活性化支援機構」のような政府主導の官民ファンドが設立されました。また、地方自治体も「ミニ公募債(住民参加型市場公募地方債)」を発行しています。他方、民間サイドでも、住民(市民)を主役とするコミュニティファンドが設立されるようになっています。これには、信用金庫、農業協同組合などの協同組織金融機関やNPO・NPOバンクが仲介する間接金融型のものと、運営会社が設定した目的に賛同して、市民が出資、投資する直接金融型のものがあります。                   
 さらに、市民主役のお金の流れを加速すると思われるのが、クラウドファンディングです。その理由は、共感を覚えて参加する市民ひとりひとりとコミュニティビジネスを、直接、結び付けることができるからです。加えて、IT(情報技術)の活用によって、コストを低めることができるからです。しかし、クラウドファンディングを促進するためには、詐欺的な行為を許さないように規制を強化しながら、運営業者の参入をしやすくする政策が望まれることになります。 

(執筆:岸真清)

日々是総合政策 No.20

多様な判断基準

 前回(No.7)は、1人1票と1円1票の政策評価について述べました。そのときは、個人単位での政策評価を考えました。個人の政策評価の背後には、その人独自の価値判断がありますが、その判断基準も多様です。
 いま、皆さんが人事採用担当者だとして、次のような2人の候補者AとBのうち1人を採用する場面に直面したとします。英語と数学と国語の共通テストの得点(100点満点)は、Aが (100, 10, 40)、Bが (40, 50, 60) でした。この与えられたデータだけで、どちらの候補者を選ぶかを考えてみてください。
 単純な平均点は、AもBも50ですが、次のような違いがあります。A よりも Bの方が点数のばらつき(分散)が小さく、安定した点を取っている。最高点を比較すると、Bが国語60であるのにAは英語100なので、Aの方が最高の能力水準は高い。最低点を比較すると、Aが数学10なのにBは英語40であるから、Bの方が最低の能力水準は高い。真ん中の中位点を比較すると、Aの国語40に対しBは数学50であるので、Bの方が中位の能力水準は高い。平均点を比べる、分散を比べる、最高点を比べる、最低点を比べる、中位点を比べる、それらの組み合わせで比べるなど比較する基準すなわち、判断基準次第で、採用する候補に違いが出てきます。
 さらには、採用担当者が候補者に何を期待するかで、例えば英語力の高い人材が欲しい場合には、数学や国語のデータを無視して英語の点数だけを比べ、BではなくAを選ぶでしょう。共通テストの参加者全体の中でのA とBの科目素点の優劣を比較するには、素点より偏差値などのデータが必要になります。言うまでもなく、履歴書・面接などによる、共通テスト以外の情報(社会活動実績や運動能力やコミュニケーション能力や、協調性・勤勉性・忍耐力といった「非認知的能力」など)も、候補者の選択に勘案されます。
 採用担当者が複数いるとき、各々の判断基準に基づき候補者AとBに関する担当者個人の選択がなされ、その個人的選択が候補者の最終決定にいかに結びつくは、最終的な意思決定ルールに左右されるのです。

(執筆:横山彰)