日々是総合政策No.48

生涯所得基準と消費税の逆進性

 前回(No.41)では、年間所得を基準にすると消費税は、高所得層ほど貯蓄率が高いため、逆進的であると述べました。今回は、貯蓄の目的が将来消費の準備にある点をふまえ、生涯所得を基準にして消費税の逆進性を検討します。
 生涯中に得る所得をW、生涯の消費税込みの消費をC、消費税はCのうちtの割合(0<t<1)とします。
 (1)この人が、人生百年の長寿時代のため、家族に資産を残す余裕がないと仮定すると、生涯の途中での貯蓄も将来時点で取り崩し、自分の消費に使います。つまり、生涯所得をすべて消費に使いきるので、
  C=W ①  が成立します。右辺は生涯の収入であり、これで左辺の消費税込みの生涯支出を賄います。
 さて、生涯の消費税負担はtCですから、生涯所得に対する生涯消費税の割合、つまり生涯平均税率は、①より、tC = tWを使うと
  tC /W=tW/W=t と表せます。
 tは消費税率であり各人に共通です。つまり、生涯平均税率は、Wの水準に関わりなく一定のtです。消費税は生涯所得に対する比例税となり逆進的ではありません。
 (2)しかし、上の人がBだけ資産を残すケースでは結論が変わります。その場合、式①は
  C+B=W ② と変わります。Wの使い方にBが加わるからです。このとき
生涯平均税率は、②より、tC = t(W-B)を使うと  
  tC /W=t(W-B)/W=t(1-B/W) となります。生涯平均税率は、B/Wに依存します。遺贈は通常の貯蓄と異なり、遺贈者が取り崩して消費できないからです。よって生涯所得に占める遺贈の割合、つまり、右辺のB/Wが高いほど、左辺の生涯平均税率は低くなります。通常、Wが高いほどB/Wが高くなりますので、生涯平均税率はWの増加とともに低くなり、個人単位で見る限り、生涯基準でも消費税は逆進的となります。ただし、その原因は貯蓄一般ではなく遺贈行為にあります。
 さらに、家族(家計)単位で考えると、遺族が相続した財産を消費に回す限り、遺族の消費税負担が生じます。

(執筆:馬場 義久)