日々是総合政策No.71

累進所得税のタイプ(1)

 今回は累進所得税の一つのタイプについて紹介します。所得税額Tを、
 T= t(Y-E) (1)
 と表します。tは税法が定めている法定税率であり、0<t<1 の一定値とします。Yは個人の年間所得、Eは控除です。Eには基礎控除や給与所得控除などがあり、後者は所得水準に依存しますが、ここでは簡単化のため一定値と仮定します。式(1)は、Y-Eが課税の対象となることを示し、Y-Eを課税所得と呼びます。
 では(1)のような所得税制は、Y>EとなるYの範囲で累進所得税でしょうか?そうでないでしょうか? 正解は累進所得税です。(1)から平均税率は
 T/Y=t(1-E/Y) 
 となります。Yが増加すると右辺のE/Yが低下します。よって(1-E/Y)が増加し、結局、Yの増加によりT/Yが増加します。すなわち,平均税率がYとともに増加するので累進税制です。累進となるのは、所得の増加とともに所得に対する控除額の割合が低下するからです。
 つまり、tが一定であってもE>0であれば累進所得税となります。なおEに等しい所得をYEで表すと、YEを課税最低限と呼びます。この水準を超えたYに所得税が課税されるからです。
 さらに、(1)でのtは限界税率となります。限界税率は所得税の場合Yが1円増加した場合、何円税負担が増えるかを表す税率(=ΔT/ΔY)です。(1)でYが1円増加するとTがt円増加しますので、ΔT/ΔY=tとなります。つまり(1)は限界税率一定の累進所得税制です。限界税率が一定であっても、Eの存在により、累進所得税となることに注意して下さい。ただし、Eが少額になればなるほど比例税に接近します。(1)でE=0とするとT=tY となりますね。
 (1)のタイプの所得税として、日本の地方所得税である住民税(所得割)があります。住民税の所得割ではt=0.1です。Eもかなりの多額にのぼります。また、スウェーデンの地方所得税も基本的にはこのタイプです。ちなみに同国のtは全国平均で0.32(2019年)です。ただ同国の地方所得税ではEが少額に抑えられていますので、税率だけでなく、Eに対する政策にも注目することが重要です。

(執筆:馬場 義久)