日々是総合政策No.170

続 コロナ後の農業・農村

 東京都心から車で約2時間の山梨県小菅村が新型コロナの感染拡大で移住先として注目されているらしい。人口713人の村は今年に入って都会からの移住者が30人増え、人口の20%ほどを占めるようになったという(注1)。米国でも、「在宅勤務が多くなり、通勤に便利な都市部よりも比較的価格が安く、広めの郊外物件の需要が高まっている」とされ、ニューヨークやロサンゼルスの住宅市場の成約件数は中心部で減少し郊外で増加している(注2)。本コラム(NO.151)で、コロナ危機を受けて「地価が安く広々とした居住空間を実現できる地方・農村居住は再評価されるだろう。」としたが、すでに現実化している。
 ところで、多くの農村は元々良好な居住地として開発されたわけではなく、営農との関連で江戸中期までに形成された。平場の集落では、富山県砺波平野のような散居(家と家の間に広く田畑がある)も、水害や飲料水確保や外敵防御などの視点も加味した集居(田畑の中に家が一定の区域に集まっている)も、特に農地へのアクセスを配慮している。モータリゼーションが発達すると散居や集居である必要もなく、農作業の機械化や生活利便性を考えれば、八郎潟干拓地の大潟村のように居住地を1か所に集約した方が良い。意図するところは異なるが、中国では農村の活性化の名目で、田畑に囲まれた低層住宅に住む農民を、半強制的に新しい市街地の集合住宅に移住させているという(注3)。
 居住地を集約すれば市街地の道路や上下水道や周辺農地の用排水路などのインフラが効率的に整備されるが、過去の家屋建設やインフラ投資を無視することになるし時間も予算もかかる。何よりも新型コロナによる感染のリスクが低い分散居住にもならない。当面は、すでに張り巡らされた農道や用排水路などの農業インフラを活用しながら、都市からの移住者用に農村の空き家(宅地)を活用するなど、地域特性を生かした個性的で良好な住環境を創造する必要があるのだろう。コロナ禍は国土政策を考え直す契機でもある。

(執筆:元杉昭男顧問)

(注1)テレビ東京 WBS 2020年8月10日
(注2)日本経済新聞 「米住宅、郊外移転が活況」 2020年8月5日朝刊
(注3)日本経済新聞 「立ち退き迫られ困窮する住民」 2020年7月26日朝刊