社会保険料の負担(1)
今回から社会保険料の負担問題を考えます。社会保険料は公的年金や医療などの主要な財源です。まず社会保険料と租税を比較します。
第一に、その支払はともに国による強制力を背景にした「義務」です。納税は、労働・教育とともに、憲法における国民の三大義務の一つです。社会保険料について憲法の規定はありませんが、年金保険法や健康保険法などが強制力の法的根拠とされています。以上から、社会保険料は租税とともに公的支出を賄う公的負担として、国民負担率に算入されています。
第二に、社会保険料が租税と決定的に異なる点は、社会保険がその支払者や家族に社会保障の受益権を与える点です。年金保険料支払者には、一定の条件を満たせば老齢年金が支払われます。健康保険料の場合は、実際の医療費の30%以下の自己負担で済みます。他方、消費税をはじめ租税も社会保障の重要財源ですが、税を支払っても社会保障の受益権は与えられません。
さて、注1によると日本の社会保険料総額は2018年度に72.6兆円です。他方、租税は国税総額が60.1兆円(注2)、地方税総額が41.5兆円です(注3)。社会保険料は国税を上回っています。日本は租税国家であると同時に社会保険国家と言えます。次に、下の図は租税負担率と社会保障負担率の推移(%)を示します。ここで租税負担率とは国民所得に対する租税総額の割合、社会保障負担率は日本では国民所得に対する社会保険料総額の割合を指します。
1990年からの変化に注目すると、租税負担率に比べて社会保障負担率の増加が目立ちます。よって日本は負担率の増加の面でも、社会保険国家と言えます。
社会保険料が巨額で且つ増加している理由の第一は、社会保障の大部分が社会保険方式であるからです。たとえば、年金を得るには年金保険の加入を条件とします。その結果2018年度では、社会保険料は社会保障財源の54.7%を占め、公費(租税など)の38%を大きく上回っています(注1)。
第二の理由は、高齢化の進行により、年金・医療・介護の各給付が増大したことです。そのため、たとえば、年金保険料率は2013年度の13.58%から2017年度には18.3%に引上げられました(注5)。
注
(1) 国立社会保障・人口問題研究所、平成30年度『社会費用統計(概要)』p6。Microsoft Word – H30プレスリリース_解禁なし_20201006 .docx (ipss.go.jp)による。
(2) 財務省URL
kessan_01_18.pdf (mof.go.jp)
(3) 総務省URL
<81798267826F9770817A52318C888E5A8CA98D9E8A7A8169955C329687816A2E706466> (soumu.go.jp)
(4) 財務省URL
負担率に関する資料 : 財務省 (mof.go.jp)
(5) 厚生労働省URL
s0304-3f1.pdf (mhlw.go.jp)
URLの最終アクセスいずれも 2021年1月13日。
(執筆:馬場 義久)