自宅療養を克服する地域医療
友人のお嬢様一家がコロナに感染とのメールに驚愕しました。「中学2年と3年の男の子と両親の4人家族ですが、最初に中学2年生の男の子が学校で感染、日をおかずに在宅勤務中の父親と3年生の男の子が発症、高い熱と激しい頭痛、強い倦怠感に襲われほとんど動くことが出来ない状態になりました。その後、一人で3人の面倒を見て頑張っていた母親も動けなくなりました。保健所から一日一回、電話があるとのことですが、自宅療養とはこういうことでしょうか。父親は基礎疾患があり入院を頼んでいますが、ベッドに空きがないとのことで待機しているところです。」と書かれていました。
肺炎や呼吸不全に苦しむ中等症の患者、集中治療室や人工呼吸器を要する重症患者を治療する医師と看護師、加えて設備・器具の不足が軽症者、無症者の自宅療養を強いています。しかし、自宅療養中に病状が急変、死亡する事例が目立ち始め、自宅療養を減らす対策が急務になっています。しかし、既に2014年に質の高い医療を効率的に提供する連携構想が制度化、2016年には2025年の医療需要と病床の必要量を想定した地域医療構想が策定されています(注1)。今こそ、この構想を実現すべき時ではないでしょうか。
地域社会において市民を支えているのが保健所(注2)、公立・民間病院、かかりつけ医です。しかし、保健所にしても、帰国者・接触者の受診調整、患者の入院・宿泊療養措置、地方衛生研究所への検体搬送さらに疫学調査などの業務が山積し、地域の住民、医師からの電話も通じないとの苦情が寄せられるほどです。医療機関も急増した患者に思うように応じられない状況に追い込まれています。
この事態を打開するのが、医療従事者間のコミュニケーションを促進、治療効率を高める広く安全な場所であるように思われます。期間を限り、オリンピック選手村や競技場を活用できないでしょうか。また、地域住民の健康を守る保健所のスタッフの増員を急ぐ必要があるのではないでしょうか。しかし、外食・観光業などが苦境に喘ぐ中、有効な政府支出と民間の協業が不可避と思われます。昨年、民間部門でもコロナ債が発行されました。さらに個人向けコロナ債(注3)が発行され、コロナ克服意識の高揚に期待が掛かりそうです。
(注1)2020年10月時点の新型コロナ患者受入率は、100床あたりの常勤医師数を基準として、医師数10人未満が22%、以下、10人以上20人未満50%、20人以上30人未満79%、30人以上40人未満87%、40人以上50人未満89%、50人以上93%となっています。ただし、受入率は、医療機関等情報支援システム(G-MIS)に報告があった全医療機関のうち急性期病棟を有する医療機関から、100床未満の医療機関を除いた医療機関(2,811医療機関)を対象にしています。厚生労働省「地域医療構想」および「新型コロナウイルス感染症を踏まえた地域医療構想の考え方について」
(注2)緒方剛「新型コロナウイルス対応における保健所の役割と課題」
(注3)2020年9月、三菱UFJ銀行が個人向けコロナ債を1,500億円発行することになりましたが、世界初の試みでした。その目的は、新型コロナによって収入が減少した中小企業や感染防止策を要する病院・製薬会社への融資です。日本経済新聞2020年8月22日。
注のURLのアクセスはいずれも2021年8月27日。
(執筆:岸 真清)