日々是総合政策No.237

共感を考える(2)

 前回(No.231) に触れましたが、共感の英語表現「empathy」は心理学用語で20世紀初頭にドイツ語から英語に翻訳された言葉です。少し詳しく述べますと、心理学でいう「empathy(共感)」は、ドイツの哲学者・心理学者テオドール・リップスの感情移入(Einfühlung)に基づく概念で、ドイツ語「Einfühlung」に相当するギリシャ語「empatheia」から英訳された言葉です。(注1)
 心理学の研究分野では、この「empathy」は次のように説明されています。

 (1)empathy(共感)は自動的、無自覚的に生起する他者との情動的一体感であり、現代的用法でいう情動的共感に近い。他方、一般的用法でのsympathy(同情)は、学術的用法での(負の)認知的共感に相当すると言えよう。(注2)
 (2)共感(empathy)は、一般に情動的(あるいは感情的)共感(emotional empathy)と認知的共感(cognitive empathy)に分けて考えられている。情動的共感とは、情動伝染(emotional contagion)のように、なかば無意図的かつ自動的に他者と同様な情動状態が経験される現象を指す。一方、認知的共感とは他者の視点を取得することにより他者の心情を理解することであるとされている。(注3)

 上記の説明によれば、「empathy」は無意図的・自動的・無自覚的に生じる他者との情動的一体感を意味します。この意味での共感は、人間だけではなく、類人猿や猿や象や犬や猫などの哺乳類も持っている生得的な能力と考えられています。しかし、時空を超えて他者との情動的一体感を持つことができるのは人間だけで、それを可能にするのが人間の持つ「想像力」だそうです。他者の置かれている状況を、目の当たりにしなくとも、目に浮かべ想像することで、人間は他者との情動的一体感を持てると言われています。(注4)
 私たちは、この人間の素晴らしい能力である「想像力」をいま以上に高められるならば、「より良い社会」に向け一歩前進することができるように思います。

(注1)Theodor Lipps については石田三千雄(1999)「テオドール・リップスの感情移入論を巡る問題」『徳島大学総合科学部人間社会文化研究』(6): 1-23を、また「empathy」へと英訳された点は、澤田瑞也(1992)『共感の心理学:そのメカニズムと発達』世界思想社, 11-12頁とフランス・ドゥ・ヴァール(柴田裕介訳/西田利貞解説)(2010)『共感の時代へ:動物行動学が教えてくれること』紀伊國屋書店, 97頁を参照。
(注2)長谷川寿一(2015)「共感性研究の意義と課題」『心理学評論』, 58(3): 411-420, 415頁より引用。
(注3)大平英樹(2015)「共感を創発する原理」『エモーション・スタディーズ』, 1(1): 56-62, 56頁より一部削除のうえ引用。
(注4)ドゥ・ヴァール(2010)を参照。

(執筆:横山彰)