日々是総合政策No.272

デフレについて考える (2)

 消費者物価指数(CPI、Consumer Price Index)のデータは、1970年1月から最新月まで利用でき、毎月更新されます。2022年9月5日時点で最新の同年7月分のCPIは、同年8月19日に公表されています。
 CPIの公表データは幾つかありますが、最も注目されるのは、基本分類指数における全国の月次(げつじ)データのなかの総合指数です。月次以外にも年平均や年度平均があり、総合指数以外にも10大費目・中分類・小分類の品目別指数があります。中分類指数のデータには総合と10大費目のデータも含まれるので、CPIの動向を知るには非常に便利です。
 下の図は、中分類指数のデータにある「生鮮食品を除く総合」指数の動向です。1995年1月から2022年7月までのデータです。生鮮食品は気候や自然条件の変化による価格変動が大きいという理由から、日本銀行は、「生鮮食品を除く総合」指数を物価目標に用いています。また、エネルギー価格の変動も比較的大きいとの理由で「食料(酒類を除く)及びエネルギーを除く総合」指数も参考に使われます。前者をコアCPI、後者をコア・コアCPIということがあります。コア(core)とは核、中心、核心、中心部という意味です。
 図よりわかることを(計算の上で)整理すると、以下のようになります。
(1)消費税率が引き上げられたところでCPIがジャンプしています。これは、増税分が価格に転嫁された(増税分だけ値段が上がった)ことを意味します。
(2)1990年代半ばからの動向をみると、CPIはあまり変化していないようにみえます。
(3)前の月からの変化(前月比と呼ばれます)をみると、全331期間のうちCPIが上昇したのは136回、下落したのは129回、不変は66回でした。
(4)1年前の同じ月からの変化(前年同月比と呼ばれます)をみると、全331期間のうちCPIが上昇したのは141回、下落したのは164回、不変は26回でした。
(5)(4)の下落164回のうち連続下落期間をみると、1995年に5か月、1998~1999年に10か月、1999~2003年に48か月(2005年9月まで延ばすと72か月、うち5回下落せず)、2009~2011年に28か月(2013年4月まで延ばすと50か月、うち7回下落せず)、2016年に10か月、2020~2021年に12か月、それぞれ連続して下落しています。
 (2)~(5)をみると、下落回数や連続下落は目立つものの、過去15年にわたってCPIが継続的に下落していたと読み取ることはできません。

「生鮮食品を除く総合」指数の動向:1995年1月~2022年7月
(出所)総務省統計局「消費者物価指数(CPI)」(https://www.stat.go.jp/data/cpi/index.htm)より作成(2022年9月5日アクセス)。

(執筆:谷口洋志)

日々是総合政策No.271

再考:純資産税(5)-スイスの純資産税

 今回はスイスの純資産税の仕組みを紹介します。その税収は、2020年に対GDP比1.1%を占め、欧州の他の純資産税採用国であるノルウェーの0.5%、スペインの0.2%を上回っています(注1より)。
 スイスの純資産税の特徴は、第一に、州と市町村の税として課税される点です。26の州が自主的に税率・課税最低限を決定し、2300の市町村は当該州の税の一定率の税収を得ます。純資産は基本的に納税者の居住地で課税され、住宅などの不動産のみがその所在地で課税されます。(注2,pp.5-6より)。低い税負担地域への納税者の移動を起こしかねません。
 第二に、2018年の課税最低限は、夫婦の家計で最低の州が5.5万ドル(743万円)で最高の州が25万ドル(3375万円)の値です。この額を超えた純資産額に課税されます。州と市町村を合わせた税率は0.1%から1.1%に分布しています(注3,p.211より)。ちなみに、米国民主党のサンダー議員が提案した純資産税は、課税最低限が3200万ドル(43.2億円)、最高限界税率8%です(注3,p.212,表1より)。
 課税最低限と税率が低いスイスの純資産税は累進度の低いタイプです。また、課税対象者に富裕層に加え中間層を含めています。
 さらに、スイスには、株式等の金融資産のキャピタルゲイン税がありません (注2,p.6より)。つまり、純資産税はキャピタルゲイン税の部分的な代理を担っています。部分的とは、金融資産のキャピタルゲインの正常利潤のみに課税するという意味です。
 以上のようなスイスの純資産税の仕組みは、富裕層との格差是正(再分配)機能を限界づけることでしょう。


1.OECD URL [2022]
https://stats.oecd.org/viewhtml.aspx?datasetcode=REV&lang=en
2.Brülhart,M, J,Gruber,M,Krapf,and K,Schmidheiny [2019]“Behavioral Responses to Wealth Taxes: Evidence from Switzerland.” CESifo Working Papers 7908.
3.Scheuer,F,and J.Slemlod [2021]“Taxing Our Wealth” Journal of Economic Perspectives,Vol.35,pp.207–230.

(執筆:馬場義久)

日々是総合政策No.270

デフレについて考える (1)

 経済学では、デフレーション、略してデフレは、物価水準が継続的に下落することを言います。反対に、物価水準が継続的に上昇する場合をインフレーション、略してインフレと言います。
 日本では、ときどき、1990年代半ばからずっとデフレが続いていると言われます。しかし、厳密にいえば、これは事実ではありません。これについて考える前に、幾つかの確認から始めましょう。(細部についての細かい議論は省略します。)
 第1に、物価水準とは、さまざまな財貨・サービスの価格を総合したもの、であることに注意してください。というのは、ある財貨・サービスが値下がりし、ある財貨・サービスが値上がりすることはいつも生じており、結果としてこれを総合した価格水準、つまり物価水準は上昇することもあれば下落することもあるからです。
 第2に、物価水準には異なる種類があることを確認しましょう。消費者が日頃購入する財貨・サービスの総合価格(物価)を消費者物価、そして、ある基準年の水準を100として他の年・月の消費者物価水準を表したものを消費者物価指数(CPI、Consumer Price Indexの略)と言います。2022年9月現在、基準年は2020年です。統計は、総務省統計局が作成し、公表しています。 
 購入・支出する財貨・サービスのすべてがCPIに含まれるわけではありません。たとえば、税金・社会保険料(医療・年金保険料など)や土地・家屋の購入といった支出はCPIに含まれませんが、個人が所有する住宅(持家)については帰属家賃としてCPIに含めています。帰属家賃を計算に入れるのは、借家だけを計算に含めて持家を除いた場合の影響を取り除くためです。
 以下では、CPIを念頭に、デフレの問題を考えることにします。
 なお、企業同士が取引する財貨(サービスを含みません)の物価指数は、企業物価指数(CGPI、Corporate Goods Price Indexの略と呼ばれます。CGPIは、国内外別に、国内企業物価指数と輸出・輸入物価指数から構成されます。2022年9月現在、基準年は2020年です。統計は、日本銀行(調査統計局物価統計課)が作成し、公表しています(注)。

(注)CPIとCGPIの詳細やデータについては、総務省統計局「消費者物価指数(CPI)」(https://www.stat.go.jp/data/cpi/index.htm)、および日本銀行「物価関連統計」(https://www.boj.or.jp/statistics/pi/index.htm/)をご覧ください。いずれも2022年9月5日アクセス。

(執筆:谷口洋志)