日々是総合政策No.303

米・こめ・コメ

 今年の夏は一部のスーパーの棚からコメが消え価格高騰に見舞われた。このコメ騒動は備蓄米を放出するか否かの議論はあるにしろ、基本的には需要と供給がギリギリのところ均衡するよう、減少する需要に併せて供給量を減反などによって政策的に誘導したことによる。昨夏の天候による供給減やインバウンド客の需要増などのちょっとした要因で価格上昇に繋がる。他の農作物と同様に価格変動は不可避である。米麦だけは大幅な変動を回避する政策的対応をしてきたが限界はある。
 戦後の食料政策は圧倒的な供給不足から始まった。最終的には米国の占領政策の変更で小麦などの食料援助で食糧難は一息ついたが、同時に、日本人がパン食に慣れた。政府はコメの輸入を試みるが、昔も今も世界のコメ市場は流通量が少なく、今でもコメ主食の国はコメの安定確保に苦労している。私は農水省から出向してミャンマー(ビルマ)の大使館に書記官として勤務したが、戦後の初代出向者は後に事務次官となった人でエース中のエースだった。コメの買い付けでコメ輸出可能な重要な国だったのである。
 コメには思い出がある。物心ついた頃(昭和30年前後)は東京の下町でも戦禍の跡はなかったが、親から「ご飯は一粒も食べ残すな」と厳しく言われた。家から着物を持ち出しては近隣県の農家でヤミ米と交換してきたらしい。配給では足りなかったのだ。ところで、当時、下町にはポン煎餅屋がリヤカーを引っ張って時々来る。友人と米粒を持って集まる。鯛焼きのように鉄製の直径10cm位の円形の型に米粒を数粒入れて蓋を閉め薪で熱すると、ポンと言う音でコメが弾けてポン煎餅ができる。順番を待って母から貰った米粒を渡すと、「坊や、このコメではパラパラでくっつかないので煎餅にならない。」と断られ、泣く泣く家に帰った。
 東南アジア産の外米だった。米穀配給通帳を持って米屋に行けば配給米を買えるが、自給していないので外米が混じる。米屋に苦情を言うとその時だけ国産米が多くなる。闇市はなかったが、夕方になると近隣県から農家の方が頭の高さを超える竹籠に野菜などを売りに来るのだが、ヤミ米も運んでいて高価だが美味しいコメが入手できる。厳しい国際情勢の折、もう一度考えよう。米・こめ・コメ。

(執筆:元杉 昭男)

日々是総合政策No.302

スウェーデンの地方税(12)-歳入の十分性⑤補助金の役割(ⅰ)

 前回、地方支出に占める税の割合の市間分布を示しました(本コラムNo.301を参照)。政府はその市間格差対策として歳入均等化補助金(以下、補助金)を採用しています。その仕組みを紹介します(詳しくは注1を参照)。
 補助金は一人当り税収ではなく、一人当り課税勤労所得(以下、A)をもとに算出されます。この点が重要です。
(1)市や県が補助金を得る場合
 ある市(県)のA<市(県)のAの全国平均×1.15 ① であると補助金を得、
 補助金額=(①の右辺-左辺)×2003年の市(県)の税率の全国平均×0.95(県は0.9)。
(2)市や県が負担金を払う場合(負の補助金)
 ある市(県)のA>市(県)のAの全国平均×1.15 ② であると負担金を払い
 負担金額=(②の左辺-右辺)×2003年の市(県)の税率の全国平均×0.85(県も0.85)。

 国は(2)からの負担金収入に国税を加え(1)の補助金を交付します。2021年には、290市(21県)のうち277市(20県)が補助金を得、13市(1県)が負担金を払いました(注2より)。

表:補助金の歳入均等化効果 2021年

   (注記)税率以外の単位はクローナ。
   (出所)注2に基づき筆者算出。 

 表は、一人当り税収が全市で最小のEda市と最大のDanderyd市を例に、補助金の効果を示します。分析単位が市なので、県の補助金も県に属する各市への補助金と考え、
 ある市の一人当り県補助金=(県補助金総額×市人口/県人口)÷市人口
と想定します。
 Edaの税収はDanderydの42.2%(55200÷130800)ですが、全収入(税+補助金)では77.3%(78911÷102088)に増加します。
 仮にこの全収入を税のみで調達する場合、Edaの税率は48.1%(=78911÷163900)、Danderydの税率は24%(=102088÷424700)となります。前者は税率を14.4%だけ引上げなければならず、後者は6.8%引下げることができます。Edaの税率48.1%は重い負担で、実施不可能です。補助金が二市間の税率格差を緩和していると言えましょう。    


1.Regeringens skrivelse(2019),Skr.2019/20:77,Bilaga,p.15.
2.SCB URL
 www.statistikdatabasen.scb.se/pxweb/sv/ssd/
 2024年10月23日参照。

(執筆:馬場 義久)