日々是総合政策No.307

スウェーデンの地方税(16)-補論:税額控除の扱い

 2008年から本格化した税額控除について述べます。全税額控除の85%を占める保険控除と勤労控除(本コラムNo.295を参照)を取りあげます。
 両控除は国の政策ですが地方税を減税します。低中所得層の地方税の高負担(本コラムNo.305を参照)を軽減し、労働供給を増やすためです。なお、国の勤労所得税は低中所得層に課税しません。
 保険控除は年金保険料の本人支払分を減税し、勤労控除は労働所得税の一部を、殆どの勤労者について減税します。
 両控除による地方政府の減収分は、地方支出を保つため国税により補填されます。
 この政策に対し二つの考え方があり得ます。
 第一は、国の税額控除と考える。OECD(注1)は政府の扱いに従い、国の所得税の税額控除とし、地方税は控除前の値のみを記しています。住民は控除前の地方税を負担し続け、「地方税制を基に算出された減税額」だけ、国税から「給付」を得るということでしょう。当然、税/支出(支出に占める地方税の割合)は不変です。
 第二は、両控除を国による地方税の税額控除と考える。政策手段が地方税の負担軽減だからです。この場合、税/支出が低下します。国は地方政府の税収減少を補填するだけです。
 表は、第二に基づき、両控除の前後別に税/支出の市間分布を示します。たとえば、控除後の税/支出が20%以上30%未満には12市が属します(全市数は290)。

表 税/支出の市間分布 2021年

(出所)注2に基づき算出。

 控除前の税/支出の平均値は60.4%、中央値は58.9%、変動係数は0.1729で、控除後の値は、40.1%、38.5%、0.2041です。
 平均値と中央値が低下し、変動係数は増大し市間格差が拡大しました。分布の中心が50%以上70%未満(214)から30%以上50%未満(255)に変化し、さらに、50%未満の市が39から267に激増しました。
 筆者は第二の考え方を支持します。これまで、控除前の値のみを示してきたのは、地方税への国の大幅な関与がない場合の「地方税の多収性」を捉えるためです。


1.OECD URL
 https://data-explorer.oecd.org/
 Annual government taxes and social contributions receipts
2.SCB URL
 www.statistikdatabasen.scb.se/pxweb/sv/ssd/
 2024年12月17日参照。

(執筆:馬場 義久)

日々是総合政策No.306

子孫の声を反映した民主主義

 トランプ次期米大統領は、石油と天然ガスの増産を通して物価上昇を抑制するため、「掘って掘って掘りまくれ」を選挙スローガンとした。ふと私の専門であるかんがい技術のことを思い出した。米国のロッキー山脈東側の「グレートプレーンズ」は肥沃な分厚い黒ボク土に覆われ「世界の穀倉地帯」と呼ばれるが、広大な土地の割に河川の数が少なく、農業用水は地下水に頼る。特にオガララ帯水層と呼ばれる浅層地下水層は重要な水源だが、気象条件や地層構造から帯水層への流入水が少なく「化石水」と言われる。掘りまくって過剰な揚水を続ければ地下水位は低下し、将来は地下水が枯渇する。
 大学で資源管理制度論という魅力的な名前の講義を担当することになり、講義内容の一つにオガララ帯水層の話を加えた。現在は良くても将来の子孫に不利益を与える「異時点間の外部性」を資源管理の失敗例とした(注1)。トランプ氏の「掘って掘って掘りまくれ」も、近視眼的な利益を求めて将来の子孫に地球温暖化という不利益を与える。では誰が子孫の声を代弁するか。政府と言いたいが、政策の責任者であるトランプ氏が代弁しているとは思えない。ポピュリズムの怖さだ。
 作家塩野七生氏は東日本大震災の復興計画の決定に際し、「45歳以上はこれまで通り1人1票、45歳未満は1人2票とする」ことを主張していた(注2)。そこで、子孫が投票する代わりに、投票権のない未成年の子供の親権を持つ親に子供分の1票を追加してはどうか。親1人に1.5票とし両親で子供分1票として投票数を集計する。一人親なら子供分1票も含め2票とする。
 問題もある。本当に親が子供のことを考え投票するか。将来生まれてくる子供のことは反映されない。子供の数も反映されない。でも、子供のことを心配しない親などごく少数だし、親権を持つ者に自覚を促す意味も大きい。先ず一歩を踏み出してみてはどうか。「民主主義を守るためには、時には民主主義に反することもあえてする勇気が必要である」と、塩野七生氏は言う。

(注1)元杉昭男「土地改良切り語り9 資源管理制度論」、土地改良建設
  協会誌293号、(一社)土地改良建設協会、2016年4月
(注2)塩野七生、朝日新聞朝刊、2014年3月13日 

(執筆:元杉 昭男)