日々是総合政策 No.28

民主主義のソーシャルデザイン:ちばでもプロジェクト

 「投票に行く人を増やす」。これも民主主義のソーシャルデザインを考える上で、非常に大切なテーマです。私は、2012年の衆議院選挙のときから、選挙が行われるたびに、私のゼミ学生の皆さんと一緒に「投票に行く人を増やす」ための活動として、「ちばでもプロジェクト」を行っています。「ちばでも」の言葉の意味は、「千葉のデモクラシー(民主主義)」。大学のキャンパスが所在する千葉市で選挙が行われなかった2018年を除き、ほぼ毎年、活動を展開してきました。大学キャンパス内に「期日前投票所」を設置し、学生がその運営にも関わるという活動も行いました。私は、小学校から帰宅して、国会中継を見ながら、答弁の真似をすることが大好きな子どもでした。選挙が近づくたびに「ワクワク」するのは、大人になった今でも変わりません。
 投票率が低い要因は、有権者が候補者や政党のことをなかなか知ることができないからではないか。候補者や政党のことを知ろうとすると、大変だし、面倒だ。だから、有権者は、しっかりと調べて投票に行くよりは、投票に行かない方が良いという選択をしているのではないか。このような仮説に基づき、候補者にアンケートを実施し、WEBで政策比較サイトを作りました。
 選挙期間中、学生が実際の政党マニフェストを読んだ上で、模擬投票をしてもらうということもしています。公職選挙法の関係で、選挙期間中には結果を公表することはできないですが、選挙後に、実際の選挙結果と若者による模擬投票の結果を比較し、世の中全体の意見と自分たちの意見の相違点を考える、というような取り組みもしています。
 これまでの経験から、現在は、社会に対する自分の影響力を知る、何か変えた経験がある、ということが、政治参加や社会参画の促進に対する重要な要素であるという仮説を持ち、様活動をしています。選挙のときに「投票に行こう」と言うだけではなく、日常から身近なことに関わり、何らかの成功体験を積み重ねていくことが、時間はかかるかもしれませんが、これが投票率の向上にもつながっていくのではないかと思い、夏の参議院選挙に向けて、新たな「ちばでも」のデザインを考え始めています。

(執筆:矢尾板俊平)

日々是総合政策 No.27

累進所得税(1)

 前回(No.18 )述べましたように税や社会保険料による公的負担の評価には、その使い道、誰に使うか、評価期間の長さが重要な影響を与えます。そこで本コラムではこれらの点に注意しつつ、公的負担の意味を再考します。
 今回は租税の累進的負担についてです。所得税を例にとります。Aさんの所得が2000万円、Bさんの所得が200万円とし、2000万円には40%、200万円には10%の税が課されると想定しましょう。このように、高所得ほど平均税率(=所得全体に占める税負担の割合、今の例では40%と10%)が高くなる所得税制を累進所得税と言います.
 累進所得税制によって何が生じるか?Aは2000万円稼いで、所得税を40%課されるので所得税は800万円、よって手取り、経済学でいう可処分所得は1200万円となります。Bの可処分所得は180万円となりますね。
 ここでAとBの所得格差に注目しましょう。課税前にはAの所得はBの10倍(=2000/200)でした。ところが課税後の可処分所得を比べると、Aの可処分所得はBの約6.7倍(=1200/180)に縮小しています。つまり、累進所得税は、課税後の所得格差を課税前の所得格差より小さくするのです。
 では累進所得税でなく比例所得税の場合はどうでしょうか?比例所得税は所得水準にかかわりなく一定の平均税率を課します。勤労者の社会保険料がほぼ該当します。いま、その平均税率を10%とすると、Bは前の例と同じで200万円が180万円になり、Aは今度、2000万円に10%の税率ですので、所得税は200万円、手取りは1800万円です。よって、二人の所得格差は、課税後も10倍(=1800/180)で、課税前の所得格差(=2000/200)は変化しません。二人の所得に同じ平均税率を適用するからです。
 結局、累進所得税は、高所得に低所得より高い平均税率を課して、所得格差を縮小するわけです。ただ、その所得格差の縮小は、課税前と課税後を比べただけのことです。たとえば、Bさんの課税前所得を250万円に引き上げ、課税前の格差自体を10から8に縮小するような抜本的な格差縮小政策ではありません。

(執筆:馬場義久)

日々是総合政策 No.26

人口減少のインパクト(3):地域別の人口減少(2)

 前回のコラムでは、地域別の人口減少について話を進めました。主に地方において人口減少が加速していくのに対して、東京都は2030年までは人口が増加すると予測され、2045年でも2015年段階よりも人口は多くなる予想されています。つまり、地方は「低出生+高齢化」によって人口減少が加速するのに加えて、「都市への流出」というもう一つの要因によって人口減少が加速していくことになるのです。
 前回、2015年から2045年の30年間で、一番人口減少数「数」が大きいのは大阪府で約150万人と書きました。大阪府の2015年段階での人口は884万人です。2045年には734万人になると予想されています。確かに減少数としては非常に大きいですが、2045年においても東京都に次いで2位の人口規模を誇ります。総人口に占める大阪府の人口割合は、2015年と2045年ではほぼ変化はありません(7%)。一方、人口減少「率」が一番大きい青森県(-47%)では、2015年段階での人口が131万人であるのに対して、2045年段階での人口が82万人まで減少します。
 ちなみに、2045年段階での総人口が最小となる都道府県は鳥取県で、約45万人と予想されます。この約45万人というのは、尼崎市の人口とほぼ等しい数字になります。鳥取県の面積は約3,500平方キロメートルであるのに対して、尼崎市の面積は約50平方キロメートルですので、人口密度は70分の1となるわけです。
 さて、総人口だけではなく、年齢別の人口も見ていきましょう。少子高齢化は地方においてより深刻であると言われています。実際に、2045年の高齢化率(人口に占める65歳以上人口の割合)が一番低いのが東京都で、30.7%と予想されています。この数字も十分に大きいのですが、2045年段階での高齢化率が最も大きい都道府県は秋田県で50.1%になります。この数字のインパクトは極めて大きく、県民の約半分が高齢者となるのが30年後の秋田県ということになります。

(執筆:中澤克佳)

日々是総合政策 No.25

経済成長

 こんにちは、ふたたび池上です。前回は、国民一人あたり年間所得の増大は、貧困の減少、健康や満足度の増加をもたらすようだというお話でした。今回は、国民一人あたり年間所得の増大は、どのようにもたらされるのかというお話です。個人がどのように所得を増大させるのかではなく、一国の経済全体の生産物、所得がどのように増加するのかを捉えます。
 ある国の労働者全員を労働とし、すべての土地、工場、機械を資本とします。この労働と資本を用いて生産物が生み出されます。その生産物の売上は、賃金として労働者の所得になり、資本レンタル料として、資本所有者(資本家)の所得になります。さて、その労働者と資本家の所得ですが、一部は消費にあてられ、残りは貯蓄に回されます。そして貯蓄は投資にあてられ、投資は資本の増加分、資本蓄積となります。この一連の流れを図に、キーワードと矢印を使って書いてみてください。流れは、一回りが一年で、毎年、毎年繰り返す流れです。
 所得を増加させるためには、生産物を増加させる必要があり、生産物を増加させるためには労働と資本を増加させる必要があります。どうやら、労働と資本の増加が、所得増大の要因のようです。資本の増加は投資、そして貯蓄に等しいのですが、やたらに投資と貯蓄をしてはいけません。なぜでしょうか?また、労働の増加は、人口を増やせばよいのですが、やたらに人口を増やしてもいけません。なぜでしょうか?
 資本の増加を考えるには、まず、我々国民は上記の一連の流れのどこから幸せを得ているのかを考える必要があります。働くこと自体からの喜び、給料を家族に渡せること自体の喜びなどを簡単化のために割愛すると、我々は消費から幸せを得ています。だからといって所得をすべて消費に回してもいけません。なぜでしょうか?なぜならば、貯蓄=投資=資本の増加は、来年の生産物、所得、そして消費を増加させるからです。次回は、この話の続きです。

(執筆:池上宗信)

日々是総合政策 No.24

トランプ大統領の公約と財政面から見た真実(上)

 トランプ氏ほど公約にこだわる大統領も珍しい。彼は、2020年11月の大統領再選を目指し、「米国第一」のための公約実現こそが有権者の信認を得る一番の近道だと考え、そう行動してきた。では、16年の大統領選挙で掲げた主な公約はどの程度守られているのか。
 通商政策では、北米自由貿易協定からの脱退を公約したが、再交渉により米国に有利な米国・メキシコ・カナダ協定に合意させ、批准に向け動いている。環太平洋パートナーシップ(TPP)協定については、公約通り離脱を表明した。関税を使って米国に有利に二国間貿易交渉を進めるために、関税ゼロを目指すTPPを離脱したのである。そして、高関税化等で対中国貿易赤字の解消を公約していたが、実際に対中貿易交渉で、18年7月以来第1弾~第4弾の制裁関税を課そうとし、中国もこれに反撃の制裁関税を発動する動きになって、米中貿易戦争にまで発展している。
 環境政策では、地球温暖化対策の国際的枠組である「パリ協定」からの離脱を公約していたが、実際に離脱を表明した。エネルギー政策では、資源開発に対する規制緩和を公約していたが、天然ガスや原油などエネルギーを運ぶパイプラインの建設を促進する大統領令に署名している。金融政策では、2007-09年金融危機の再発防止を目的とした2010年金融規制改革法の廃棄を公約していたが、18年に中小銀行に対する規制緩和などの部分緩和の同法改正を実現している。
 移民政策では、メキシコ国境に壁建の建設を公約したが、その財源を下院民主党の反対で直接予算化できないので、非常事態宣言をして国防予算から捻出する方針である。
 医療政策としては、医療保険への加入を義務付けた2010年医療費適正化法(オバマケア)の完全廃止と別制度の導入を公約したが、2017年減税・雇用法においてオバマケア罰則金の撤廃を実現できただけである。財政政策の公約(減税政策)は、次稿で詳しく述べる。
 トランプ大統領は、上述のように公約を守ろうとしている点で「立派」に見えるかもしれないが、公約そのものが時代に逆行していたり、それを独りよがりに国際ルールや民主主義を無視して推進しようとするなど、国内外から批判を受け、望ましくない結果も生じている。

(執筆:片桐正俊)

日々是総合政策 No.23

気候変動を受け入れない人々を説得するには

 気候変動に対して必要な集団的行動を行うことは,これまで40年近くの歴史が証明してきたように大変難しいことです.その主な理由は,気候変動に対する認識バイアスを永続させるような社会的な観念形態(イデオロギー)の存在であり,それが集団的行動の形成の障壁となっていると考えられています.
 現在,アメリカで暮らす子供達は,大人に比べて政治的意見や文化的境界線を気にすることなく科学的問題についてオープンに学習し,意見を持つことができます.そのため,彼らは,大人よりも「気候変動は都市伝説に過ぎない」という意見を持ちにくい傾向にあります.こういった背景の下で,「子から親に知識・態度・行動を移転する」という世代間学習が,気候変動に対する社会観念的な障壁を克服するための有効な方法となり得るかもしれないと考えた米国の研究チームは,「子供達が学校で学んだことを家に持ち帰ることで,親の考え方を変えることができるか」を検証するために以下の様なフィールド実験を行いました(Lawson et al., 2019).
実験は北カリフォルニア沿岸部の中学校教師を通じて行われました.処置群100家族の子供達(中学生)は,気候変動に関する授業プログラムに参加しました.その内容は「天気と気候の違い」や「気候変動が生物にどのような影響を及ぼすのか」などに加えて,地域コミュニティ・プロジェクトへの参加も含まれていました.さらに子供達には,地域の天候変化に関する認識についてインタビューをするという課題が出されました.また対照群100家族の子供達は,通常通りの授業プログラムに参加しました.
 実験の前後に,「気候変動に対する懸念」に関するアンケート調査が親子に対して行われ,スコア化されました.気候変動に対する懸念スコアの変化を親の政治的立場別(保守・中間・リベラル)で分析し,対照群と比較したところ以下の様な主要な結論を得ました.
 気候変動に関する授業プログラムという介入は,子供達だけではなく,親の気候変動に対する懸念までも影響を及ぼすことが分かりました.どの政治的立場の親に対しても,この介入によって気候変動に対する懸念を増加させましたが,特に保守層の親の懸念は大幅に増加しました.(対照群においても保守層の親の懸念は増えたため,複数回,気候変動に関するアンケートに答えること自体が,考え方を変える効果を持っている可能性もあることも分かりました.)また父親の方が母親に比べて懸念スコアの上昇が高かったこと,娘の方が息子よりも親に対して大きな影響力を持つことも分かりました.
 つまり限定的な状況ではあるものの,中学校の授業は子供達を通して親の気候変動に関する考え方までも変えることができたのです.ただし,この効果がどれくらい長続きするのか,また集団的行動を形成できるのかについては,まだ良く分かっていません.

(出所)
Danielle F. Lawson, Kathryn T. Stevenson, M. Nils Peterson, Sarah J. Carrier, Renee L. Strnad and Erin Seekamp, 2019, Children can foster climate change concern among their parents, Nature Climate Change, 9: 458-462.

(執筆:後藤大策)

日々是総合政策 No.22

評価の合理性と客観性を疑う

 株式会社ブランド総合研究所が発表した2018年版都道府県魅力度ランキングによると、ここ数年は茨城県が最下位となっている。また、茨城県(47位)の隣の栃木県(44位)や群馬県(42位)など、総じて北関東の評価が著しく低い。北関東の3県は、総合的に見てほんとうに魅力が乏しいのだろうか。
 私の個人的評価では群馬県は全国最高の温泉県であり、毎年そこに行くことを楽しみにしている。少なくとも私の出身県である富山県(22位)や隣の石川県(11位)よりは評価が高い。
 問題は、茨城県の最下位である。県南部には、日本第2の湖「霞ケ浦」の東側にあり、「潮来花嫁さんは・・・」で有名な潮来市があり、湖の対岸(西側)には土浦市、その西側には先端技術都市の「つくば市」がある。県東部には海岸や海産物が魅力的な「ひたちなか市」や大洗町、東北部には工業都市の日立市、その先の最北部には北茨城市がある。
 北茨城市には、あんこう鍋の「どぶ汁」で有名な平潟港、岡倉天心(思想家)や横山大観(画家)が拠点を構えた場所として有名な五浦海岸、「赤い靴」「しゃぼん玉」や「七つの子」などの心に残る歌詞をたくさん残した野口雨情の生家や記念館がある。どこも、またいつか訪れたい場所である。
 県中心の「水戸市」には、第9代水戸藩主の徳川斉昭が築いた偕楽園があり、その東には水戸黄門(徳川光圀)を祀った常盤神社があり、東南には仙波湖がある。仙波湖では、仲間と戯れるブラック・スワン(黒鳥)や白鳥の姿が目を引く。
 私は毎年6月、仙波湖の周りを走る「茨城メロンメロンラン」に参加している。第4回目の今年は6月16日(日)に開催される。私は3回連続の参加で、今回は5キロを走る。メロンメロンランの魅力は、途中の2か所(給メロン所と呼ばれる)で生産量日本一の茨城県産メロンがふるまわれることだ。今年は昨年以上に食べるぞと今から意気込んでいる。
 こんなに魅力満載の茨城県の魅力度がなぜ最下位なのか理解に苦しむ。現地のことをある程度以上知っている人とほとんど知らない人の個人的評価を足して合計する(集計する)ことに、いかなる合理性や妥当性があるのだろうか。(ちなみに私は茨城県とは縁もゆかりもない。)

(執筆:谷口洋志)

日々是総合政策 No.21

クラウドファンディングの役割 

 耳慣れない金融用語が、新聞、雑誌に次々に登場しています。クラウドファンディングもそのひとつでしょうが、「日々是総合政策No.9」で取りあげたコミュニティビジネスと深くかかわってきます。クラウドファンディングとは、不特定多数の人々が、インターネットを通じてお金を融通する手法のことです。        
 顔なじみの人々が集う場を基盤とするコミュニティビジネスは、お互いの情報を得やすいだけでなく、アイデアを出し合って技術革新を行う機会に恵まれています。それゆえ、
 財やサービスをより安く生み出し、地域発のグローバル化を実現する可能性さえ持っています。しかし、生産を継続、拡大するためにはコストがかかります。通常、まず、自分のお金(自己資金)で賄いますが、それで不足する場合、銀行から借り入れるか、債券や株式を発行する必要が生じます。ところが、コミュニティビジネスはそれほど信用があるわけではなく、証券の発行は銀行借入に比べ、一層、難しいのが実情です。        
 そこで、「地域経済活性化支援機構」のような政府主導の官民ファンドが設立されました。また、地方自治体も「ミニ公募債(住民参加型市場公募地方債)」を発行しています。他方、民間サイドでも、住民(市民)を主役とするコミュニティファンドが設立されるようになっています。これには、信用金庫、農業協同組合などの協同組織金融機関やNPO・NPOバンクが仲介する間接金融型のものと、運営会社が設定した目的に賛同して、市民が出資、投資する直接金融型のものがあります。                   
 さらに、市民主役のお金の流れを加速すると思われるのが、クラウドファンディングです。その理由は、共感を覚えて参加する市民ひとりひとりとコミュニティビジネスを、直接、結び付けることができるからです。加えて、IT(情報技術)の活用によって、コストを低めることができるからです。しかし、クラウドファンディングを促進するためには、詐欺的な行為を許さないように規制を強化しながら、運営業者の参入をしやすくする政策が望まれることになります。 

(執筆:岸真清)

日々是総合政策 No.20

多様な判断基準

 前回(No.7)は、1人1票と1円1票の政策評価について述べました。そのときは、個人単位での政策評価を考えました。個人の政策評価の背後には、その人独自の価値判断がありますが、その判断基準も多様です。
 いま、皆さんが人事採用担当者だとして、次のような2人の候補者AとBのうち1人を採用する場面に直面したとします。英語と数学と国語の共通テストの得点(100点満点)は、Aが (100, 10, 40)、Bが (40, 50, 60) でした。この与えられたデータだけで、どちらの候補者を選ぶかを考えてみてください。
 単純な平均点は、AもBも50ですが、次のような違いがあります。A よりも Bの方が点数のばらつき(分散)が小さく、安定した点を取っている。最高点を比較すると、Bが国語60であるのにAは英語100なので、Aの方が最高の能力水準は高い。最低点を比較すると、Aが数学10なのにBは英語40であるから、Bの方が最低の能力水準は高い。真ん中の中位点を比較すると、Aの国語40に対しBは数学50であるので、Bの方が中位の能力水準は高い。平均点を比べる、分散を比べる、最高点を比べる、最低点を比べる、中位点を比べる、それらの組み合わせで比べるなど比較する基準すなわち、判断基準次第で、採用する候補に違いが出てきます。
 さらには、採用担当者が候補者に何を期待するかで、例えば英語力の高い人材が欲しい場合には、数学や国語のデータを無視して英語の点数だけを比べ、BではなくAを選ぶでしょう。共通テストの参加者全体の中でのA とBの科目素点の優劣を比較するには、素点より偏差値などのデータが必要になります。言うまでもなく、履歴書・面接などによる、共通テスト以外の情報(社会活動実績や運動能力やコミュニケーション能力や、協調性・勤勉性・忍耐力といった「非認知的能力」など)も、候補者の選択に勘案されます。
 採用担当者が複数いるとき、各々の判断基準に基づき候補者AとBに関する担当者個人の選択がなされ、その個人的選択が候補者の最終決定にいかに結びつくは、最終的な意思決定ルールに左右されるのです。

(執筆:横山彰)

日々是総合政策 No.19

民主主義のソーシャルデザイン:亥年の選挙イヤー

 年号が平成から令和に変わった2019年は、「亥年の選挙イヤー」とも呼ばれます。統一地方選挙は4年に1度、参議院選挙は3年に1度、行われます。その4年に1度と3年に1度のタイミングが、ちょうど同じ年に重なるのが「亥年」で、12年に1度、同じ年に統一地方選挙と参議院選挙が行われます。
 今回の統一地方選挙は、4月7日と21日が投票日となりました。統一地方選挙前半戦(4月7日投票日)では、道府県知事、道府県議会議員、そして政令市の市長・議会議員選挙が行われました。統一地方選挙後半戦(4月21日投票日)では、その他の市町村の首長や議会議員選挙が行われました。もちろん、選挙が行われなかった地域もあります。その理由は、首長や地方議員の任期は4年ですので、統一地方選挙とは異なる時期に選挙が行われた地域の場合は、選挙の時期が統一地方選挙のタイミングからずれることになります。
 例えば、東京都知事選挙。2011年の東京都知事選挙は、他の道府県知事選挙と同じく統一地方選挙の前半戦で選挙が行われました。しかし、2011年の東京都知事選挙で当選した石原慎太郎氏が翌年に知事を辞職したため、2012年に都知事選挙が実施され、猪瀬直樹氏が当選しました。その猪瀬氏も辞職し、2014年に再び東京都知事選挙が実施され、舛添要一氏が当選しました。舛添氏も辞職し、2016年の東京都知事選挙で、現在の小池百合子知事が誕生します。このように辞職等により、選挙の時期がずれることが往々にしてあります。
 夏には参議院選挙が実施されます。参議院議員の任期は6年ですが、3年毎に選挙が行われます。今回は、2013年の参議院選挙で当選した議員の任期が今年の7月28日に満了するので、選挙となります。2016年の参議院選挙で当選した議員の任期は、3年ほど残っていますので、今回は改選期にはあたりません。
 そして、いま永田町では「解散風」が吹き始めているようです。衆議院と参議院の選挙が同日に行われることを「W選挙」と呼びます。過去にも「W選挙」が行われたことはありますが、現在の選挙制度の下では初めての経験となります。もし「W選挙」が行われたら、1投票所あたり5つの投票箱が必要になります。何が起きるかわからないのが「亥年の選挙イヤー」。「W選挙」となるかどうか見所です。

(執筆:矢尾板俊平)