日々是総合政策No.193

Stay-at-home考(2)

 人々はなぜ自粛して、家にとどまろうとするのか。政府が呼びかけるからか。恐らくそういう人も一部にはいるだろう。しかし、圧倒的多数の人にとってはそれは、感染症に関する様々な不安、つまり自分や周りの者が感染して隔離され、死亡したり、後遺症を患ったり、あるいは感染した事実が周りに知れて差別されたり、職や収入を失ったりすることを避けたいからであろう。
 では不安の払しょくは可能だろうか。不安が完全に払しょくされるには感染症が完全に消え去ること、つまり終息する以外にはない。また、不安がある程度軽減されるには感染症の拡大が収まり、低い水準にとどまること、つまり収束することである。
 人々ができる限りの自粛やstay-at-homeを続けた結果、感染症が収束に向かったとしよう。そうすると恐らく、政府は自分たちの呼びかけ、つまり自粛要請、時短(営業時間短縮)要請が成功したからであると考えるに違いない。しかし、実際には人々の強い不安が自粛やstay-at-homeを招いたのであり、政府が呼びかけたからではない。
 菅首相は、11月26日の会見で、マスクを着用せずに、「是非ともマスクの着用、手洗い、そして3密の回避という、感染拡大防止の基本的な対策に是非御協力いただきたいと思います」(https://www.kantei.go.jp/jp/99_suga/statement/2020/1126kaiken.html)と語った。
 街を歩けば、すでにほとんどの人がマスクを着用し、入室・入館時に消毒液で手を洗い、3密を避けるように行動している。中には二重マスク着用の人もいる。こうした状況で、首相の呼びかけは、すでに個人がやっていることを続けてくださいと言っているだけで不安の払しょくとは無縁のメッセージである。
 それどころか、感染症の第3波が到来し、4日間で1万人の感染者が発生しているにもかかわらず、移動や会食を増加させようというGoToキャンペーンを続けている。一方では自粛やstay-at-homeを求めながら、他方では自粛やstay-at-homeを否定するような策を講じている。
 そもそもGoToキャンペーンは、感染症が収束し、人々の不安が大幅に軽減された状況ではじめて検討の余地があるものであり、感染症拡大の不安が増大している状況で実施すべきものでは断じてない。
 GoToキャンペーンは、人々の不安を増大させるばかりで、人々をますます自粛やstay-at-homeに追いやり、宿泊・飲食業の支援にはほとんど貢献しない。現在のGoToキャンペーンは、矛盾した政策で効果は乏しく、危険で恥ずべき愚策であるとしか言いようがない。

(執筆:谷口洋志)

日々是総合政策No.192

いま、何を語るか

“And so, my fellow Americans: ask not what your country can do for you–ask what you can do for your country.” (注1)

 これは、アメリカ合衆国第35代大統領ジョン・F・ケネディが大統領就任演説(1961年1月20日)で語った一節です。アメリカンセンターJAPANの仮翻訳では、「だからこそ、米国民の同胞の皆さん、あなたの国があなたのために何ができるかを問わないでほしい。あなたがあなたの国のために何ができるかを問うてほしい。」となっています。(注2)
 この一節については、色々な含意が議論できます。「あなたの国」の部分の「country」を「community」や「friend」や「family」に代えてみると、「あなた」と「あなたの国」との関係から、「あなた」と「あなたの共同社会」・「あなたの友人」・「あなたの家族」との関係になります。「あなた」と「あなたの国・共同社会・友人・家族」との関係は、どのような関係なのでしょうか。広くは互恵関係と考えられますが、「あなた」の方が「あなたの国・共同社会・友人・家族」からより多くの恵みを得ているのでしょうか、あるいは逆に「あなたの国・共同社会・友人・家族」の方が「あなた」からより多くの恵みを得ているのでしょうか。
 また、上記の就任演説で「何ができるか」と問われたとき、「何について」かを考えた人もいたでしょう。いまなら、まさに「コロナ感染症対策について」、「あなた」が「あなたの国・共同社会・友人・家族」のために「何ができるか」を問うてほしい、となるでしょう。その一方で、「あなたの国・共同社会・友人・家族」が「あなた」のために「何ができるか」を問うことも必要になるかもしれません。
 加えて、「何ができるか」の部分の「can」を「should」に代えてみましょう。すると、「何ができるか」ではなく「何をなすべきか」になり、「コロナ感染症対策について」、「あなた」が「あなたの国・共同社会・友人・家族」のために「何をなすべきか」を問うてほしい、となるでしょう。他方、「あなたの国・共同社会・友人・家族」が「あなた」のために「何をなすべきか」を問うことはできるのでしょうか。

(注1)出所: https://www.jfklibrary.org/archives/other-resources/john-f-kennedy-speeches/inaugural-address-19610120 <最終閲覧:2020.11.9>
(注2)出所: https://americancenterjapan.com/aboutusa/translations/2372/<最終閲覧:2020.11.28>

(執筆:横山彰)

日々是総合政策No.191

結婚と離婚、そして緊急事態宣言(上)

 結婚と離婚。
 数ある決定の中でも、カップルにとって最も重大な決定と言ってよいだろう。COVID-19感染症の広がりは、人生にとって大事なこれらの決定に対しても影響を与えている。
厚生労働省「人口動態調査」によれば、結婚と離婚の届出件数は緊急事態宣言が出た時期に双方とも低下した。多くのカップルが、先の見通せない、まさに緊急事態の発生に結婚と離婚を踏みとどまった(あるいは先延ばしにした)のだ。
 このことをデータで確認してみよう。2020年4月7日に東京都を含む7都府県に対して新型インフルエンザ等特別措置法に基づく緊急事態宣言が行われた。その後、5月25日に宣言が解除されるまで東京を含む13都道府県が「特定警戒都道府県」に指定され、接触8割・出勤7割削減を目標にするなど、特に重点的に感染拡大防止の取り組みを進めていく地域とされてきた。
 そこで、これら13都道府県とそれ以外の地域に分けて、緊急事態宣言が出された2020年4月以降の6か月間の婚姻届出件数が、前年の同期間(2019年4月~9月)に比べて変化した割合を図にしてみた。あわせて、緊急事態宣言の影響を相対的に見るために、緊急事態宣言が出されていない2019年10月から2020年3月までの婚姻の届出件数の変化率を前年同期(2018年10月~2019年3月)と比べて示している。

図 婚姻届出件数の変化率(%)         
出所:厚生労働省『人口動態統計(人口動態調査(速報・月次))』

 これをみると、緊急事態宣言が出される前の半年、すなわち、2019年10月~2020年3月の婚姻件数は、いわゆる「令和婚」の影響もあり、前年同期に比べて特別警戒都道府県で9.5%、それ以外の地域で6.3%増えていた。それが、緊急事態宣言が出されて以降、一気に落ち込んだ。特定警戒都道府県において前年同期比で27.1%減、それ以外の地域でも24.5%減となった。(注)
 いかに多くのカップルが緊急事態宣言の影響を受けたかがわかるだろう。

(注)比較対象にしている2019年は改元の年にあたり、特に2019年5月にいわゆる「令和婚」現象が起きて婚姻届出件数を押し上げた。この点を考慮して、比較対象期間を2018年4月~9月にした場合も、特定警戒都道府県の方において減少幅が2%ポイント程度大きかったという点は変わらない。婚姻届出件数の変化率は、特定警戒都道府県で22.6%減、それ以外の地域で20.7%減少であった。

(執筆:小川光)

日々是総合政策No.190

スウェーデンのコロナ禍対策(7)

 今回は、スウェーデンにおける新型コロナ感染者数の急増を確認し、政府の対策について紹介します。
 表は7月以降の累積感染者数を示します(注1)。7月から11月はその月初め(一日)時点での数です。11月1日から現在(11月19日)までの急増が目立ちます。11月1日での133327人から19日には208295人になり、感染者が74968人増加しました。19日間の平均で見て一日あたり3945人の増加です。ちなみに、日本の11月22日での新規感染者は2168人でした(注2)。なお、スウェーデンでの死亡者数は11月1日の6023名(累積)から19日の6394名と371名増加しました(注1より算出)。

表 累積感染者数の動向(人)
*各月の月初めでの累積感染者数を示す。現在は11月19日。
(出所)注1に基づき筆者作成。

 スウェーデン政府は最近、二つの新たな対策を発表しました。
 第一は、バーやレストラン、ナイトクラブなどでのアルコール販売を22時から翌日の11時まで禁止する措置です(注3)。スウェーデン全土でこの種の店が約15700あり、その多くが夜にオープンし、翌朝5時ぐらいまで営業するとのことです。この措置は11月11日に発表され、11月20日から2021年2月1日まで実施の予定です。実施期間の長さが注目されます。なお、注3には、禁止措置による当該店の損失を補償する措置は示されていません。ただこの点は、他の文書で発表されている可能性があります。
 第二は、「集会」参加の人数上限を50人から8人にするものです(注4)。ここでの集会とは、コンサート・展覧会・サークルの会合・スポーツ観戦等を指します。ただこれまでと同様、着席して見るイベント(スポーツなど)については、観客同士が1メートル以上離れていれば300人まで可能です。しかし、これまで認めていた、レストランを使用しての集会の例外扱い-感染予防対策の実施を条件にしての例外-は廃止されました。
 この措置は11月16日に発表され11月24日より実施されます。実施期間は「当面4週間を最長としたい」とのことです。きわめて短期間であるのは、社会的コンタクトの制限策は必要最小限にしたいこと、さらに、短期化により、憲法における集会の自由、発表の自由の保障に合致するからと述べています。
 なお、高齢者への訪問を禁ずる措置など検討中の対策もあり、今後の動向が注目されます。

(注)
1.スウェーデン公衆衛生庁 URL
 FOHM Covid-19 (desktop) (arcgis.com)
2.NHK URL
新型コロナウイルス 日本国内の感染者数・死者数・重症者数データ|NHK特設サイト
3.スウェーデン政府 URL
https://www.regeringen.se/4abc0c/contentassets/7cf53b1760ce422a987f59eb9cb77bd0/forslag-till-forordning-om-tillfalligt-forbud-mot-servering-av-alkohol.pdf
4.スウェーデン政府 URL
https://www.regeringen.se/4ac71c/contentassets/0bd9b64752314859b1847328f7eb9b4a/forbud-mot-att-halla-allmanna-sammankomster-och-offentliga-tillstallningar-med-fler-an-atta-deltagare.pdf

URLの最終アクセスいずれも 2020年11月24日。

(執筆:馬場 義久)

日々是総合政策No.189

ユーザー視点の行政デジタル革命

 いま、皆さんの身近な社会やコミュニティで、皆さん自身が何らかの政策づくりに関わることになったと思います。その時、皆さんは、どのような視点で政策を考えますか。この問いに対して、「自分が良いと思う政策を考える」と答える方もいらっしゃるかもしれません。または、「みんなが良いと思う政策を考える」と答える方もいらっしゃるかもしれません。答えは、どれも正しいと思いますが、皆さんの中で「ユーザー(利用者)の視点で考える」と思った方はいらっしゃいますか。
 例えば、このようなことを考えてみてください。いま、あなたは「住民票」が必要になったとします。そこで、市役所の窓口に行きました。そこには、案内係の人がいて、番号札を渡してくれて、申請書の書き方を親切に教えてくれました。ただ、番号札を見てみると、自分の前に10人ほど待っていることもわかりました。
 このとき、皆さんはどのように思うでしょうか。5分待っても呼び出されず、10分待っても、まだ自分の前に、あと数人。「今日は、この後、用事があるのに」、「もっと早く手続きが済めばいいのに」。このとき、ユーザー視点で考えれば、皆さんが最も求めるサービスは、早く住民票を発行してもらうこと、すなわち「時間」だったかもしれません。
 ユーザー視点で考えれば、行政サービスの提供において、「時間」はとても重要な要素だと思います。利用者満足度の観点から「どれだけ時間がかかったか」ということ、時間というコストをかけてしまったかということに、もっと注目していくべきだと思います。
 そこで必要なことは何か。これが行政のデジタル化(DX:デジタルトランスフォーメーション)です。AI、IoT等のデジタル技術を導入し、業務の効率化や業務改善を進めることは、住民が負担する「時間」というコストを軽減することにつながります。
 「脱ハンコ」は、行政のデジタル化の大きな象徴だと思います。しかし、行政のデジタル化は印鑑を無くすことではありません。行政サービスの利便性を高め、住民が支払った時間のコストを戻すことなのです。「行政のデジタル革命を政策ユーザーの視点で」。この視点が欠かせません。

(執筆:矢尾板俊平)

日々是総合政策No.188

Stay-at-home考(1)

 新型コロナウイルス感染症問題が社会経済問題となってから、「自宅にとどまる」機会が圧倒的に増えたに違いない。また、移動の際にはなるべく公共交通機関を避けて自家用車、自転車や徒歩に頼る機会も増えたに違いない。
 私の場合には、公共交通機関に乗る回数、したがって交通カードを使う回数が激減した。自家用車に乗る機会は減少していないが、走行距離が絶対的に減少した。自家用車を使うのは、利用者が少ない時間帯を狙ってスポーツジムに行くときか、2週間に1回程度のシニア・ソフトボールの練習に行くときぐらいだ。ハイブリッド車なので燃費効率がもともと良い上に走行距離の絶対的減少が重なったために、ガソリンがなかなか減らず、給油回数は1か月に1回あるかどうかだ。
 こうした個人行動の変化が消費の中身を変え、様々な業種や企業に影響を及ぼすことになる。10月1日に発表された日本銀行の「全国企業短期観測調査(短観)」によると、9月の調査時点ではほとんどの業種において現在の状況(「業況」と呼ばれる)が非常に悪いという結果が出ている。特に深刻なのは、製造業では鉄鋼、繊維、非鉄金属、輸送用機械(自動車)、非製造業では宿泊・飲食サービス、対個人サービスである。
 宿泊・飲食サービスや対個人サービスの状況が非常に悪いのは、人の移動や人が集まる機会が減少し、人と人の接触を避けていることが背景にある。これらの業種は典型的な接触集約型(contact intensive)であり、stay-at-homeやsocial distancingの影響をまともに受ける。しかも、ここ数年は東京オリンピックの開催に向けて宿泊施設の増強・拡大が進行していただけに、コロナ禍の影響は極めて深刻だ。
 政府が推進するGo Toキャンペーンの対象には、宿泊・飲食サービス業が含まれ、そのお蔭で一部にプラスの影響が出始めている。しかし、それは当該業種すべての企業に広く行き渡るものでなく、期間限定の一時的効果でしかない。しかも、social distancingのもとでのキャンペーンであり、急ブレーキを踏みながらアクセルを強く踏むような措置である。
 感染症拡大の第3波が到来しつつある中で、こうした一部の企業や個人を対象とした消費刺激策の効果と問題点の分析が早急に必要とされる。

(執筆:谷口洋志)

日々是総合政策No.187

新型コロナウイルス感染症の発生状況を調べてみよう

 新型コロナウイルス感染症の発生状況については、2020年11月2日現在の国内での新型コロナウイルス感染症の感染者は101,813例、死亡者は1,774名となりました(注1)。年齢階層別の陽性者数・死亡数・重症者割合・死亡率の最新データは、表の通りです。

表:年齢階級別の陽性者数・死亡数(2020年10月28日18時時点)
出所:厚生労働省「新型コロナウイルス感染症の国内発生動向」(https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000689607.pdf)に基づき筆者作成。
備考:(1)チャーター機、クルーズ船案件は除く。医療機関からの届出情報との突合前、(2)合計には、「不明・調査中・非公表」の人数を含まない。(3)陽性者数は累計陽性者数で、死亡率は年齢階級別にみた死亡者数の陽性者数に対する割合、重症者割合は年齢階級別にみた重症者数の入院治療等を要する者に対する割合である。各自治体がウェブサイトで公表している数等を積み上げた陽性者数・死亡者数・重症者数とは一致しない。

 この表からは、(1)陽性者数の年齢階級別構成比をみると、感染者の年齢層が明白に分かります。20代が全感染者数の27.4%にも達し、20代30代40代の3年齢階級で全感染者数の59.0%を占めているの対し、60代以上の高齢の感染者数は全感染者数の20.6%でしかないのです。(2)死亡数の年齢階級別構成比をみると、60代以上の高齢の死亡者は全死亡数の95.2%にもなっています。(3)さらに死亡率をみると、70代で7.1%そして80代以上で17.0%ですので、高齢の年齢層が感染したとき死亡するリスクは若い年齢層に比して高いのです。
 こうした数値で示されていることは、いまや常識で、種々の情報源から特にインターネットを通じて若い人びとも知っています。ただ、陽性者数や死亡数の年齢階級別構成比は自分で調べてみないと正確には分からないのです。自分で調べてみることが、大切だと思います。
 表中の「重症者割合」の数値は、出所で示した厚生労働省のWebsite 内の数値をそのまま引用しています。「重症者割合は年齢階級別にみた重症者数の入院治療等を要する者に対する割合である」と記述されていましたが、重症者数の「重症者」はどのような症状の感染なのでしょうか、また「入院治療等を要する者」とは、どのような感染者なのでしょうか。
 これらについて、厚生労働省・診療の手引き検討委員会「新型コロナウイルス感染症(COVID-19) 診療の手引き 第3版」(https://www.mhlw.go.jp/content/000668291.pdf)も参考に、ご自分で調べてみてください。
 新型コロナだけではなく、ご自分で興味をもったことがあれば何事も自分で調べてみてください。そして、何が分かり、何が分からなかったのかを明らかにして、分からなかった事柄を調べた年月日と調べた資料や URLなどと一緒にメモ書きしておくと、後で役立つことがあると思います。

(注1)厚生労働省「国内の発生状況」
https://www.mhlw.go.jp/stf/covid-19/kokunainohasseijoukyou.html
 本文・注のURLの最終アクセスは、すべて2020年11月2日。

(執筆:横山彰)

日々是総合政策No.186

オンライン診療(アメリカの動向整理)

 前回(No.163)は、COVID-19の感染者、基礎疾患等の患者それぞれの受診方法として、オンライン診療(遠隔診療)の基本的内容を整理しました。今回は、アメリカの事例を取り上げる予定でしたが、この前にオンライン診療の動向と主な課題を見ておくことにします。
 各メディアにおいて報じられているように、アメリカではCOVID-19の感染者が急増しており、CDC(Centers for Disease Control and Prevention)の調査によれば、2020年10月21日時点での感染者、死亡者がそれぞれ約810万人、22万人となっています(注1)。これらの対応の一つとして、COVID-19の感染予防と在宅診療、基礎疾患患者の受診機会の確保、それぞれを基本目的にオンライン診療が導入され、利用者が増加しています。図1は、こうした動向を示す一例です。

図1 オンライン診療の利用状況
*)調査の対象者は225,742名(18歳以上、無作為抽出)。
出所)CivicScience「Telemedicine Adoption Stagnant for First Time During Pandemic in August」より作成。https://civicscience.com/telemedicine-adoption-stagnant-for-first-time-during-
pandemic-in-august/(2020年10月20日最終確認)。

 COVID-19の感染者が拡大する前の2020年1~2月には、オンライン診療の利用者割合は11%程度でしたが、感染者が大きく増加した3月以降これが上昇して、8月には36%になっています(注2)。
 オンライン診療の増加に伴って(あるいはその促進策として)、いくつかの対応が検討・導入されています。一例として連邦政府は、医師-患者間でのアクセスを容易にする上で、HIPAA(Health Insurance Portability and Accountability Act)の罰則規定を一時的に緩和しました。これにより、無料・低負担の通話ツール(Google、Zoom、Skype等)でのオンライン診療の利用機会が拡大されることになりました(注3)。
 多くの保険団体では、COVID-19の検査に要する自己負担の引き下げや無料化を進めており、オンライン診療の報酬を設定・加算するケースも見られます(注4)。また、アメリカ医師会は、オンライン診療の利用者増加に対応する上で、医師用のマニュアルを作成・開示しています(注5)。
 アメリカでは、COVID-19の感染者拡大がオンライン診療の導入・拡充の大きな起点になっていますが、そのシステムは検討・構想の過程にあると考えられます。次回は、いくつかの保険団体の事例(システム)を取り上げる予定です。

(注1)Centers for Disease Control and Prevention「CDC COVID Data Tracker」より。https://
covid.cdc.gov/covid-data-tracker/#cases_casesper100klast7days
(2020年10月21日最終確認)。
(注2)オンライン診療は、慢性疾患やメンタルヘルスの健康相談、服薬指導と緊急時の対応、在宅診療の促進それぞれにおいても有用とされます(図1の「利用した/利用している」には、こうした患者も含まれます)。なお、患者の一定割合は、オンライン診療の有効性・安全性について懐疑的とされ、図1の「関心がない/考えたことがない」とする理由の一つは、これにあるとされます。
(注3)U.S. Department of Health & Human Services「HIPAA and COVID-19」https://www.
translatetheweb.com/?from=en&to=ja&ref=SERP&refd=www.bing.com&dl=ja&rr=UC&a=http
s%3a%2f%2fwww.hhs.gov%2fcoronavirus
(2020年10月20日最終確認)。これについては、プライバシー保護に関係する課題が指摘されています。
(注4)各保険団体の対応として、BlueCross BlueShield、Kaiser Permanente、UnitedHealth Group、Humana、Aetna等のウェブサイトが参考になると思います。それぞれの「保険団体名、COVID-19」を入力・検索すれば、概要を見ることができます。なお、医療機関においてもオンライン診療が導入されていますが、対応方法は異なっているようです。
(注5)American Medical Association「AMA COVID-19 Guides」https://www.ama-assn.
org/topics/ama-covid-19-guides
(2020年10月19日最終確認)。

(執筆:安部雅仁)

日々是総合政策No.185

菅政権のアベノミクスが目指すもの

 「瑞穂の国の資本主義」。この言葉は、安倍晋三前首相が、政権奪還後に出版した『新しい国へ‐美しい国へ 完全版』(文春新書)で触れられる一節です。「自立自助を基本とし、不幸にして誰かが病で倒れれば、村の人たちみんなでこれを助ける。これが日本古来の社会保障であり、日本人のDNAに組み込まれている」と述べ、瑞穂の国にふさわしい資本主義、市場主義の形、経済のあり方を考えていきたいと読者に語りかけています。
 第2次安倍政権発足後、ただちにデフレ脱却を目指し、アベノミクスと呼ばれる経済再生の政策を実行していきます。しかし、そのアベノミクスも2015年には、「一億総活躍社会」という新しい看板を掲げて、変容をしていきます。また、安倍政権では、「政労使」という枠組みを通じて、賃上げに政府が「慎みを持った関与」を行ったこともありました。本来、賃金は労使交渉を通じて、民間で決めることです。ここに政府が関与することは、異例であると言えるでしょう。これは「成長と分配の好循環」を創り出すためのアプローチと、単に片付けられない安倍前首相の「政策観」や「国家観」があったのではないかと推測します。
 安倍前首相が、祖父である岸信介元首相をつなぐもの。これは「憲法改正」だけではなく、実は、社会保障や労働・雇用の政策でも、2つの政権はつながります。
 岸政権では、国民年金法を制定するとともに、国民健康法を改正することで、国民皆保険制度を創設しました。また「最低賃金法」を制定したのも岸政権でした。安倍政権では、全世代型社会保障改革に取り組み、最低賃金の引き上げに取り組んできました。安倍政権のアベノミクスは、成長と分配の2つの側面を併せ持ち、政府が市場経済に積極的に関与していくことを「是」とする「瑞穂の国の経済政策」であったと言えるかもしれません。
 菅義偉首相は、所信表明演説において、自身の社会像を「自助、共助、公助、そして絆」であると述べました。規制改革と社会のデジタル化を政権の一丁目一番地とする政権の姿は、新自由主義的なアプローチの側面が色濃く描かれるようにも思います。
菅政権のアベノミクスは、引き続き、「瑞穂の国」を目指すものなのか、小泉政権時代の「新自由主義」的な政府像を目指していくのか、目が離せません。

引用文献
安倍晋三(2013)『新しい国へ‐美しい国へ 完全版』、文春新書

(執筆:矢尾板俊平)

日々是総合政策No.184

大阪都構想住民投票と憲法の首長直接公選制保障

 大阪都構想は、11月1日に大都市域特別区設置法に基づき、2度目となる住民投票に付される。大阪都構想は、「大阪市」を廃止し、大都市地域特別区設置法に基づき四特別区に再編することを主な内容とするが、新設四特別区は、憲法の「地方自治の制度的保障」の対象となる地方公共団体なのかは不明だ。大日本帝国憲法になく、日本国憲法で新たな章立てとして加わったのは、第2章の「戦争の放棄」と第8章の「地方自治」だ。その意義は、地方自治関係者が胸に刻むべきことだろう。
 地方自治の章がなかった大日本帝国憲法下においては、1943年に最も大きな自治体であった東京市が市会の反対にも関わらず、国の立法によって一夜にして消滅した。 それでは、憲法で地方自治について保障していることは何か。ここで議論するのは、その中の首長直接公選制保障だ。憲法93条2項は「地方公共団体の長・・・は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する」と規定する。1963年に最高裁は、東京都の特別区は憲法93条2項の地方公共団体と認めることはできず、特別区長公選制を廃止したことは、立法政策の問題で憲法93条2項の地方公共団体の首長の直接公選制保障規定に反しないと判断した。 
 この63年最高裁判決は、憲法上の「地方公共団体といい得るためには、単に法律で地方公共団体として取り扱われているということだけでは足らず」、「事実上住民が経済的文化的に密接な共同生活を営み、共同体意識をもつているという社会的基盤が存在」することや、その沿革も検討し、東京都の特別区に首長直接公選制保障は及ばないと判断した。新設される大阪府の四特別区それぞれが、憲法上の「地方公共団体」と判断されるのかは難しいのではないか。 
 63年の最高裁判決上、現在の大阪市は多分憲法93条2項の地方公共団体だろうから、憲法上市長公選は保障されている。しかし、今回の住民投票で大阪市が四特別区に再編されれば、63年の最高裁判決に照らせば、大阪市民にとって、今回の住民投票は、自らが属する最も身近な基礎的な地方公共団体の首長公選制の憲法保障を、自らの投票で放棄し、離脱するかを選択する投票なのだろう。

(注)1963年の最高裁判決については、https://www.cc.kyoto-su.ac.jp/~suga/hanrei/93-3.html (最終アクセス:2020.10.1) を参照されたい。

(執筆:平嶋彰英)