日々是総合政策No.88

代議制民主主義:投票と棄権

 代議制民主主義の基礎は選挙における有権者の投票にありますが、すべての有権者が投票するわけではありません。選挙で投票せず棄権する有権者もいます。そもそも、有権者はなぜ投票するのでしょうか。
 有権者は、自分が棄権せず投票することから得られる期待便益が正であれば投票すると考えられます。これは、合理的投票者の仮説で、次のような式で表されます。
         pB – C + D > 0
 ここで、p は自分の投票が自分の望む選挙結果になるかどうかを左右することになると思える主観的確率、Bは自分が望んだ選挙結果になったときに得られる便益、Cは投票費用、Dは投票行為それ自体から得られる便益を示しています。
 不等式の左辺の第1項(pB)は、選挙結果に影響を及ぼす手段としての投票がもたらす便益で、投票の「手段としての便益」といわれます。これに対し、左辺の第3項(D)は、選挙結果に関係なく、選好する候補者や政党への支持表明をする満足や、市民としての義務の履行や民主主義システムの維持への貢献から得られる満足から生ずる主観的便益で、投票の「表現としての便益」といわれています。また、投票費用(C)は、投票に行くために犠牲にしなければならない費用で、投票に行くための交通費だけではなく、投票に行くために仕事や音楽鑑賞やスポーツなどで得られたであろう便益を犠牲にすることによる機会費用を含みます。
 有権者にとっては、自分の1票が選挙結果を左右して1票を投ずることで自分の望む選挙結果になるような状況は皆無だったり(p≈0)、どの候補者や政党でもほとんど違いがなかったり(B≈0)するので、「手段としての投票便益」は皆無になるのが普通です(pB≈0)。そこで、有権者は、投票行為それ自体から得られる便益が投票費用を上回る(D>C)ならば投票しますが、逆ならば棄権します。ここに棄権の原因があるのですが、棄権することは良くないことですか。考えてみてください。
 もし棄権が良くないことだとしたら、皆さんは、どうすれば棄権を減らすことができると思いますか。例えば、インターネット投票の導入や、棄権した人にペナルティーを科すことはどうでしょうか。あるいは、選挙の大切さを訴える社会教育を行うことはどうでしょうか。考えてみてください。

(執筆:横山彰)

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