日々是総合政策 No.8

ハエ取りコンクール

 30年余り農林水産省で勤務したが、その間に政策づくりに携わったことも多かった。現状と目標との間のギャップという問題の解決策が政策で、色々な手段で人々を誘導する。手段には、法律で規制する、勧告する、情報を提供する、補助金や利子の安い融資を与える、税金を重くする・軽くするなど様々である。

ハエ取コンクールの記事
出典:広報まつど昭和32年4月15日

 そんな中に、私の小学生時代には、一定期間内に殺して集めたハエの死体数を競い、市町村から賞品が貰える「ハエ取りコンクール」があった。ハエが多く不衛生(現状)なので、ハエを少なくする(目標)という政策である。学校や役所から茶封筒と割り箸を貰い、放課後自宅からハエ叩きを持って魚屋などの店先に行ってハエを取りまくる。大人は昼間働いているから子供の活躍の場だが、近所に戦争で夫を亡くされた無職の方がいて、子供の授業中もハエを取るからいつも賞を取っていた記憶がある。戦前も戦後も各地で行われていたらしく、鹿児島市では2週間で211万匹強という記録もある(インターネット-軍政部の功績: 鹿児島ぶら歩き-より)。賞品代など僅かの予算で衛生環境の向上に絶大な効果のある事業であった。

 そこで、ミャンマーの日本大使館に勤務していた時に、自信満々に「ミャンマーの衛生環境の向上のため、大使館が賞品を出してハエ取りコンクールをやってはどうか」と会議で提案した。その時、老練な大使は、「戦前の中国では日本が提案してハエ取りコンクールをやったが、ハエを大量に人工的に繁殖させて受賞する者が出てきた」と話され、提案はあえなく退けられた。現状も目的も明確で、とても効率的に見えるのだが、政策を受け取る人々の反応を見まちがえると、ハエが増えてしまうといったとんでもないことが起きる。
 人々の反応は国や地域の文化にも関係する。政策づくりはハエを取るように簡単ではない。でも、そこに政策作りの面白さもある。

(執筆:元杉昭男)