新型コロナと国の政策(2)
アメリカはヨーロッパの福祉国家と逆の立場にあるような自由主義に基づく、経済成長を重視してきた国です。医療技術が世界一となるアメリカで新型コロナが急速に流行した背景には、何が考えられるでしょうか。その理由は税を徴収する公共部門の役割を少なくして、必要最低限な医療サービスをも民営化したからです。アメリカでは多くの人々が公的な医療に入ることが出来ず、民間が提供する医療保険に入る仕組みになっています。場合によっては、民間の医療保険にも入れないような貧困者が多数存在しており、貧困者が病気になった場合は高額の医療費が請求されます。実社会で満足に医療を受けられない低所得者と裕福な高所得者が一緒に共存する訳です。これでは低所得者の感染したコロナウイルスが高所得者にも感染する状況は避けられません。全ての住民が自宅待機を余儀なくされた結果、アメリカ経済がストップしました。
クルーグマンのマクロ経済学に基づき、通常の右下がり、右上がりの総需要AD、総供給AS曲線を想定しましょう。今回のコロナ騒動で生産に重要となる原材料の輸入が困難となり、総供給曲線が左にシフトすることで、一時的に物価上昇と国内総生産の減少が起こるでしょう。さらに、民間消費や民間投資が落ち込むことで、今度は総需要曲線が左にシフトする結果、物価は徐々に低下しながら国内総生産はもっと落ち込みます(注1)。
トランプ政権は新型コロナの流行に対して、様々な経済政策を打ち立てています。失業者の大幅な増加を考慮して、緊急の特別予算を組む必要があります。外出禁止条例の出された状況では議会の召集が出来ないため、弾力的な予算編成は難しくなるでしょう(注2)。
仮に低所得者に対する一時的な支援を行ったとしても、雇用の創出をしなければ不況による税収減と政府支出の拡大により財政が不健全化してしまいます。今後は感染症対策という新たな制約条件を加えながら、経済成長を考えなければならないと言う世界に突入したと言えるでしょう。
(注1)クルーグマンのマクロ経済学の解説などは、下記のURL(最終アクセス2020年4月26日)を参照した。
https://twitter.com/paulkrugman/status/1241689422090944513
https://www.nri.com/jp/keyword/proposal/20200401
(注2)この点については、安井明彦「コロナ禍の米国で政治の機能不全危機、注目浴びる「対策を止めない仕掛け」とは」、下記のURL(最終アクセス2020年4月17日)を参照した。
https://diamond.jp/articles/-/235008/
(執筆:田代昌孝)