日々是総合政策No.245

家事労働を考える(1)-家事労働の特徴

 高齢化・生産年齢人口の減少を背景に、多くの先進国で労働供給増大策が求められています。これから数回、一国の労働参加率および労働供給量に大きな影響を与える家事労働について考えます。今回は、家事労働と市場労働を比較します。
 ここでの市場労働とは勤労者を典型として、企業に雇われ、労働サービスの対価として賃金を受取る労働を指します。勤労者は企業の製品の生産に貢献することにより、賃金を得るわけです。
 なお、伝統的なミクロ経済学では市場労働自体は不効用を生むと考えられています。労働時間を増やすと趣味などのレジャーにあてる時間を減らさなければなりません。たとえ、労働が何がしかの楽しさを生んだとしても、レジャーの楽しさには遠く及ばないという把握です。
 他方、家事労働はどうでしょうか?いまAさんが、清掃という家事労働を行うとしましょう。おかげで家族は清潔な家で暮らせます。しかし、Aさんには労働サービスの対価としての賃金は支払われません。
 つまり、家事労働の第一の特徴は、賃金なき「無償労働」という点です。ただ、Aさんの労働が、家計の支出を減らしていることは事実です。Aさんの労働がなければ、清掃を業者に依頼し料金を支払わなければなりませんから。
 第二の特徴は、殆どの家計-家事の一切を「お手伝いさん」に任せる超富裕家計を除く家計-にとって、家事労働が日々欠かせないという点です。家事サービスが、衣食住にとって必要不可欠であるからでしょう。そのため、家事労働は家計単位で見ると、ほぼ生涯の全期間にわたって必要となります。公的介護システムにより家事サービスが給付される時まで、家族の誰かが家事労働を担わなければなりません。
 もちろん、家事労働が効用を生む場合もあります。庭木の手入れは、それを趣味にしている人にとってはレジャーと同じです。しかし、家事労働全般を視野に入れると、筆者は多くの経済学者(注)と同様、家事労働はレジャーではなく不効用を生むと考えます。この点では、家事労働は市場労働と同じです。

(注)たとえば、Sandmo,A[1990]“ Tax Distortions and Household Production ”Oxford Economic Papers 42,pp.80-81を参照。

(執筆:馬場義久)