日々是総合政策No.257

ウクライナ問題(3)

 国連総会決議案の賛否状況をまとめた下記の表より、賛成国と反対国の特徴を見てみよう。
(1) NATO(北大西洋条約機構)加盟30か国、EU(欧州連合)加盟27か国、G7(主要7か国)はすべて賛成した。EU加盟国のうち、21か国はNATOに、G7のうち日本を除く6か国はNATOに、日米加を除く4か国はEUにそれぞれ加盟している。これらの純計37か国は、96の共同提案国の一員として総会では賛成投票した。
(2) SCO(上海協力機構)、RIC(ロシア・インド・中国)、EAEU(ユーラシア経済連合)の加盟国・構成国の中では、賛成率はゼロであった。
 以下、補足説明する。
・NATO(北大西洋条約機構)の目的は、「政治的および軍事的手段を通して加盟国の自由と安全保障を保証すること」である(注)。2022年2月24日に始まったロシアによるウクライナ侵略の理由の一つとして、NATOの東方拡大阻止、ウクライナのNATO加盟阻止があった。NATOによると、「本条約の諸原則を追求し、北大西洋地域での安全保障に寄与しうる立場にある欧州の国家であればどの国にも」加盟への道が開かれている。
・SCO(上海条約機構)は、ロシア、中国、カザフスタン、キルギス、ウズベキスタン、タジキスタン、インド、パキスタンが加盟する協力機構として2003年から活動を始め、政治・経済・貿易・エネルギー・環境保護・文化・教育等での協力、地域の平和・安全保障・安定、非欧米型の新国際政治経済秩序の推進を目指している。最近も防衛大臣会合(3月8日)、環境保護大臣会合向け専門家会合(3月14日)のほか、ツーリズム協力協定(3月8日)や「長期的な良き隣人・友好・協力に関するSCO条約」(3月14日)に向けた会合を開催し、ロシアとの結束を誇示した。
・EAEU(ユーラシア経済連合)には、ロシア、アルメニア、カザフスタン、キルギス、ベラルーシが加盟している。これらの国にはすべてロシア軍が駐留し、NATOとは距離を置いている。近年、インドとの間で自由貿易協定(FTA)の話が進行中である。

(注)https://www.nato.int/nato-welcome/index.html
・URLへのアクセスはすべて2022年3月20日

(執筆:谷口洋志)

日々是総合政策No.256

ウクライナ問題(2)

 2022年2月25日の国連安全保障理事会において、「ロシアによるウクライナ攻撃の即時停止とロシア全軍の撤退」を求める決議案が、ロシアの拒否権発動により採択されなかった。
 理事会構成国15か国のうち、11か国が賛成し、中国、インド、UAE(アラブ首長国連邦)は棄権した。2014年3月の安保理決議案と同じく、常任理事国のロシアの反対が安保理否決を決定した。
 再び安保理では否決されたものの、2022年3月2日の国連総会では、96か国共同提案の「ロシアによるウクライナへの攻撃停止」を求める決議案が採択された。ただし、法的拘束力はない。この決議案は、「ウクライナの主権、独立と領土保全」を再確認するもので、「国際的に承認された境界内でのウクライナの領土から」ロシアが「その軍事力すべてを即時、完全、無条件に撤退する」ことを求める。
 193加盟国のうち141か国が賛成。反対は、ベラルーシ、北朝鮮、エリトリア、ロシア、シリアの5か国。中国、インド、ベトナム、モンゴル、パキスタン、南アフリカ、南スーダン(これらの国は前回も棄権)など35か国が棄権し、アゼルバイジャン、トルクメニスタン、ウズベキスタン、ベネズエラなど12か国が無投票だった。
 安保理で棄権したUAEは賛成に回った。2014年3月の採決で反対した11か国のうち、6か国が棄権し、1か国(ベネズエラ)が無投票だった。2014年に棄権したエリトリアは、2022年には反対に回った(注)。
 ここで注意すべきは、以下の点である。
アフリカの小国エリトリアはなぜ反対したのか(前回は棄権)
中国、インド、ベトナム、モンゴル、パキスタン、南アフリカ、南スーダンなどの国々が毎回棄権し、ロシア非難に賛成しないのはなぜか
特に、インドが2014年の国連総会、2022年の国連安保理(インドは非常任理事国)と国連総会と立て続けに棄権したのはなぜか
反対・棄権・無投票を選択した国々に共通点はあるか
反対・棄権・無投票は、意識的または意図的に賛成しなかったことを意味する。特に、棄権は「中立」を意味するよりも、実質的な反対を意味すると考えてよいか
 これらの問題に全部答えることは私の能力を超えているが、若干について考えてみたい。

(注)決議内容と投票結果は、以下の国連ニュースに基づく。
https://news.un.org/en/story/2022/02/1112802(安保理決議内容)
https://digitallibrary.un.org/record/3959039(国連総会投票結果)
・URLへのアクセスはすべて2022年3月20日

(執筆:谷口洋志)

日々是総合政策No.255

ウクライナ問題(1)

 2014年3月15日の国際連合安全保障理事会(国連安保理)において、翌3月16日実施の「クリミア自治共和国とセヴァストポリ市のロシア併合に関する住民投票」結果を無効とし、ウクライナの「主権、独立、統合、領土保全」を再確認するという決議案が否決された。理事会構成国15か国(常任5、非常任10)のうち、13か国が賛成、ロシアが反対、中国は棄権した。常任理事国であるロシアの拒否権発動によって、決議案が否決された(注)。
 安保理決議案は、国連総会での決議案とは違って法的拘束力を持つため、可決については厳しい条件がある。第1に、5つの常任理事国(中、仏、独、露、米)のうちの1国でも反対したら成立しない。つまり、どの常任理事国も拒否権(veto)を持つ。第2に、9か国以上の賛成が必要である。15か国中の9か国の賛成、つまり最低でも6割の賛成を必要とする。単純多数決の過半数(15の場合は8以上)と比べ、より厳しい条件を課している。
 なお、常任理事国の5か国はいつも変わらず、非常任理事国の10か国は任期が2年で、毎年半数の5か国が入れ替わる。再選できないので、非常任理事国になっても2年後には必ず外れる。日本は過去11回選ばれ、最新は2016~2017年の2年間。2022年の非常任理事国選挙に立候補し、選ばれれば2023~2024年の2年間その座に就く。 
 安保理では否決されたものの、2014·年3月27日の国連総会では、47か国共同提案の「住民投票の無効とウクライナの領土保全を支持する」決議案が採択された。加盟193か国のうち賛成は100か国。ただし、安保理決議とは違って法的拘束力はない。反対は、アルメニア、ベラルーシ、ボリビア、キューバ、北朝鮮、ニカラグア、ロシア、スーダン、シリア、ベネズエラ、ジンバブエの11か国で、中国、インド、ベトナム、モンゴル、パキスタン、南アフリカ、南スーダンなど58か国が棄権し、コンゴ、イラン、イスラエルなど24か国が無投票であった。
 ここでは、反対した国以上に、棄権した国や無投票の国の名前を記憶してほしい。棄権や無投票の背後にはどのような国際関係があるかを知るために。

(注)決議内容と投票結果は、以下の国連ニュースに基づく。
https://news.un.org/en/story/2014/03/464002-un-security-council-action-crimea-referendum-blocked(安保理決議内容)
https://digitallibrary.un.org/record/767565(国連総会投票結果)
・URLへのアクセスはすべて2022年3月20日

(執筆:谷口洋志)

日々是総合政策No.254

家事労働を考える(4)-男女分担の改善策

 今回は家事労働の男女分担の改善策を考えましょう。下の表は本コラムNo. 251で紹介した表から日本の部分を抽出したものです。結婚や子供の有無を区別しない15~64歳の男女全体が対象です。無償労働の中心は家事労働(育児・介護等を含む)です。有償労働はおおむね市場労働を指し通勤時間を含みます。時間の測り方は一週間の曜日ごとの平均の和(月曜の平均+・・・+日曜の平均)を7で割った、週全体平均の一日あたり時間です。日曜を含むことに留意しましょう。男女比=女性の時間÷男性の時間です。

労働の男女分担(日本) 分
(出所)注1より。原資料はOECD][2020] Balancing paid work, unpaid work and leisure.

 男性と女性の総労働時間はおおむね等しく490分台となっています。ところが男性の有償労働(以下、労働と記す)の長さと無償労働(以下、家事と記す)の短さが目立ちます。また労働の男女比-女性の低さ-も気になります。
 そこで男性の労働を減らして家事を増やし、それにより女性の家事を減らし、女性の労働を増やすという方策が考えられます。
 しかし、この方策は家計の収入を減らす可能性があります。それは男女間の賃金ギャップが存在するからです。注2によると、日本女性の賃金は男性の賃金を100とすると、77.5%に過ぎません(男女ともフルタイマーの賃金)。つまり、賃金ギャップが22.5%です。この値は、男性賃金の中央値と女性賃金の中央値の差です。中央値はデータ(賃金)を高い順番に並べたとき、ちょうど真ん中に位置する値です。日本の22.5%はOECD諸国の3位です。ちなみに1位は韓国で31.5%、OECD平均は11.6%です。
 さて、以上から、男性の時間当り賃金X円>女性の時間当り賃金Y円が成立ちます。ここで男性が家事を増やすため1時間労働を減らすと収入がX円減り、女性が家事を減らして1時間労働を増やし収入がY円増加しても、家計の収入は(X-Y)円減ってしまいます。
 そこで、賃金収入を減らすことなく労働時間を削減して、家事の男女分担を改善する意欲を高めることが重要です。たとえば、テレワークや業務情報のデジタル化の推進が考えられます。とくに、テレワークは通勤時間を減らしつつ、対面方式での会議や取引を減らす効果があります。


1.内閣府男女共同参画局URL 
https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r02/zentai/html/column/clm_01.html 図表1[CSV形式:2KB]より。
2.OECD URL
https://data.oecd.org/earnwage/gender-wage-gap.htm

(執筆:馬場義久)