日々是総合政策No.263

再考:純資産税 (1)

 今回から純資産税(Net Wealth Tax)をとりあげます。この税は、個人や家計の純資産、すなわち、金融資産(預金や株式)や不動産(住宅や土地)等の資産合計から、負債(住宅ローン等)を差し引いた金額に課税します。純資産税は、資産が生み出した収益(利子や配当)に課税する資産所得税と異なり、資産価値そのものに課税します。なお、純資産税は富裕者への課税強化を目指すことが多いので、富裕税とも呼ばれます。
 最近、同税に対する期待が高まっています。たとえば、先の米国大統領選挙では、民主党の候補者の一人であったSander氏が、8%の純資産税導入を唱えました(注1,p.209より)。
 純資産税に対する期待の背景には、富裕者への著しい資産集中があります。下の表は純資産を所有している家計を、純資産額の多い順に並べ、その上位1%又は10%に属する家計が、国全体の純資産の何%を所有しているかを示します。OECDの27カ国を調査したものです。なかでも米国は、その上位1%の家計が米国の全資産の41%を保有しています。米国の二つの値は27カ国中のトップです。なお、米国は純資産税の経験がありません。ちなみに、日本の値はともに26位です。

表 富裕家計の資産シェア(%)
日米は2019年、ノルウェーは2018年、英独仏は2017年の値。
(出所)注2より作成。

 他方で、欧州では1990年には12カ国が純資産税を採用していましたが、現在(2018年以降)は、ノルウェーとスイス、スペインだけです。つまり、ドイツ、スウェーデン、オランダ、フランス、など計9カ国が純資産税を廃止したわけです(注1,p.213,表1より)。
 資産分布の格差是正を図る上で、純資産税は税制の中で最も適切な手段なのか?-この問を念頭において、次回から純資産税の特徴と実態の一端を紹介します。


1.Scheuer,F,andJ.Slemlod[2021],”Taxing Our Wealth” Journal of Economic Perspectives,Vol.35,pp.207–230.
2.OECD URL
https://stats.oecd.org/Index.aspx?DatasetCode=IDD
(最終アクセス 2022年5月23日)

(執筆:馬場義久)

日々是総合政策No.262

男と女はなおつらい

 元部下の女性の結婚式に招待された。コロナ禍といい、ウクライナ情勢といい、世界史的な事件が続く時代に、この若いカップルはどんな生活を送り、どんな生き方をするのだろうか。披露宴の最中、何故か、役所勤めを始めた頃にテレビで流行っていた“必殺シリーズ”の小林旭が歌う主題歌「夢ん中」をふと思い出した。「男もつらいし、女もつらい、男と女はなおつらい」。素直に読めば心情的によく分かる歌詞だが、分析的に考えると何か変だ。
 人にとって辛いことと幸せな(楽しい)ことがあって、マイナスとプラスで表すとしよう。仮に「男も辛い」を(-2)、同様に女も(-2)としよう。「男と女」が足し算で得られるとすれば、(-2)+(-2)=-4となる。そうか、マイナスを単に持ち寄れば一人の辛さよりももっと辛くなる。例えば、同じ屋根の下で、男が会社でパワハラを受け、女は姑からいびられていて、愚痴を言い合い夫婦けんかに発展する。でも、そうなら「男と女」を解消して男だけ女だけにすれば(-2)のままでより良いのではないか。
 これを掛け算に置換えると、(-2)×(-2)=+4となって、大きな幸せに発展する。マイナス×マイナス=プラスの証明を数学の授業で習ったが、どうもしっくり来ない。先の例なら、お互いに慰め合ったり励まし合ったりするとプラスになることか。もっとも、結婚などの同じテーマで、男が何らかの理由で女と結婚できず、女も同様にできないとすると、男と女は昔なら心中か駆け落ちしないとプラスにならない。今の時代なら何とでもなるようにも思える。
 ところで、彼女の出身地である千葉県成田市にある新勝寺に初詣に行くと、沢山の老若男女が辛い事や願い事を持って手を合わせている。そんな人々の背中を思い出しながら、人々のマイナスを積み重ねると、足し算しても膨大だし、掛け算でもプラスになったりマイナスになったり不安定だ。人々の心の揺らぎがどのように社会全体に反映されるのだろうか。国などの政策はそこまで背負いきれるだろうか。
 そうこう思い浮かべていると披露宴も終わりに近づいた。「それでいいのさ それでいいんだよ 逢うも別れも 夢ん中」 阿久悠の歌詞は夢の中で終わる。

(執筆:元杉昭男)