日々是総合政策No.275

中国のクラウドファンディングに学ぶこと、学べないこと

 中国は、質の高い経済社会の発展と小康社会の実現を目指しています。そのため、中小企業・小規模事業などのコミュニティビジネス向けの資金供給が重視されています。ところが、これらの事業は国有商業銀行などフォーマル金融機関から資金調達するのが困難であったため、インフォーマル金融に依存するケースが目立っていました注1)。
 この状況下、2011年にクラウドファンディングが導入され、インフォーマル金融とフォーマル金融を結ぶ役割を担うようになりました。すなわち、合会注2)のようにコミュニティを基盤とするインフォーマルな組織が形成されていたので、クラウドファンディングとの間で、補完・代替関係が生じました。同様な関係が、改革が遅れ気味なフォーマル金融との間でも生じました。
 ところで、クラウドファンディング導入当時は、寄付型と購入型が主でしたので、規模も小さく政府の政策にそれほど関与することはありませんでした。しかし、その後、長期的な投資を目的とする株式型クラウドファンディングが伸長することになりました。さらに、インターネット市場の発展につれて代表的な社会メディアWeChatを活用するWeChatクラウドファンディングが、さらにEコマース(電子商)を活用するEコマースクラウドファンディングが創設され、2025年には世界の半分に相当する500億ドル以上の規模に到達するほどの拡大が予想されています注3)。それに伴って、中央政府の支援と規制が強化されるようになりました。  
 日本は、中国の急速なクラウドファンディングの発展を学ぶことができますが、学ばない方が良いことも含まれています。政府の干渉が中小企業・小規模事業、スタートアップ企業、ベンチャービジネスの参入を妨げないように、市場競争を重視した公正な政策を実施する必要性は、両国に共通しています。しかし、地域の人々の活力を最大限に生かすシステムについては疑問が生じます。とりわけ、個人が安心してクラウドファンディング投資に加わるためには、個人情報の保護が必須と思われます。携帯インターネットの普及がクラウドファンディングを推進していますが注4)、日本においても携帯インターネットの利用が増すものと思われるだけに、規律を前提とした自由な個人行動が望まれます。

注1)インフォーマル金融は、組織が整備されていないことを意味するのではなく、公的当局によって規制された制度に従っていないことを示しています。なお、2008年当時の温州市の場合、インフォーマル金融が中小企業の資金調達の70%を占めていました。陳玉雄(2010)『中国のインフォーマル金融と市場化』麗澤大学出版会、29-34頁によります。
注2)合会とは、数十名程度のメンバーが定期的に集まって、継続的に一定の資金を払い込む一方、すべてのメンバ-がプールされたすべての資金を順番に受け取るしくみです。透明な会合・契約、相互信頼のもとで成り立つ組織が特徴です。陳玉雄、前掲書、68-76頁および83-94頁、またFunk, A.S.(2018)Crowdfunding in China, Switzerland:Springer, pp.39-48を参照下さい。
注3)クラウドファンディング、WeChatクラウドファンディング、Eコマースクラウドファンディングの発展については、Funk, A.S.op.cit., p.1およびpp.165-175を参照下さい。
注4)WeChatクラウドファンディングの基盤となる携帯インターネット利用者数は、2012年の4億1,997万人から2017年の7億5,265万人に急増しています。江駿(2020)「中国のクラウドファンディングの成長要因に関する考察」地域政策科学研究(鹿児島大学リポジトリ),http://hdl.handle.net/10232/00031086 (2022年10月6日 最終アクセス)によります。

(執筆:岸 真清)