日々是総合政策No.296

スウェーデンの地方税(7)-所得再分配

 これまで「税の地域間偏在度の少なさ」を基準にして、スウェーデンの地方勤労所得税(以下、地方税Sと略記)の優位性を示しました。地方税Sの変動係数は、同国の累進的勤労所得税・資産所得税や日本の地方税及び個人住民税より低かったですね(本コラムNo.292,N0.293を参照)。
 その理由は地方税Sが資産所得に課税せず、かつ、比例税率の勤労所得税であるからです。勤労所得に比べ資産所得は富裕層がより多く得るので、資産所得税は富裕地域に偏在します。累進的勤労所得税は高所得ほど高税率を課すため、比例的勤労所得税に比べ高所得層の多い地域に集中します。
 ここで「地方税には所得再分配機能は不要なのか?」と、思われるかもしれません。もっともな疑問です。しかし、標準的な地方税原則論によれば、「地方政府は所得再分配を目的にしない」とされます(持田のテキスト-注より)。
 いま、地方政府Aが、低所得層に課税せず、中所得層に30%の税率、高所得層に50%の税率を課す累進的勤労所得税を導入し、かつ、高所得層からの税収を給付金(負の税)として低所得層に交付するとします。なお、他の地方の勤労所得税は全所得階層に30%課します。この場合、Aの高所得層が他の地方へ移動し、逆に、Aには給付金目当ての低所得層が流入しかねません。国内での移動は、外国への移動より数段容易です。地域間移動が生じるとAの所得再分配政策は実現しませんね。
 同様の事態は、Aだけが、全所得階層に税率30%を適用する勤労所得税に加え30%の資産所得税を導入し、資産所得税収を低所得層に給付するケースにも生じるでしょう。
 しかし、税制による所得再分配政策を国が実施すれば、国内での地域間移動は生じません。高所得層はどこに住んでも重い課税を強いられ、低所得層はどの地域でも給付金を得るからです。以上から、地方政府は所得再分配政策を行わない方が良く、それが必要なら国が行うべき、とされます。
 スウェーデンは、1991年の税制改革以来、全所得税のうち国税として累進的勤労所得税と資産所得税を、地方税として比例的勤労所得税を割当てています。所得税体系における国と地方の役割分担に関して、標準的な地方税原則論に従っているわけです。
 地方税Sは、「所得再分配を目的としない」という地方税原則に照らしても、他の所得税より優れています。


持田 信樹(2013)『地方財政論』東京大学出版会、166頁。

(執筆:馬場 義久)