再考:純資産税 (3)-資産所得税との比較
今回は純資産税と資産所得税を比較します。資産所得税には二つのタイプがあります。まず、実際の資産収益(利子・配当など)に課税する方式です。この実際タイプは日本など多くの国で採用されています。もう一つは、政府が定めた、みなし収益率(国債等の安全資産の収益率)に資産価値を乗じた「みなし収益」に課税します。その例としてオランダの税制ボックス3が有名です(注1を参照)。 以下、このタイプを、みなし資産所得税と記します。
注1と注2が述べるように、純資産税は、みなし資産所得税の一種です。負債控除後の資産価値をW、みなし収益率をr、資産所得税率をtk、純資産税率をtw とし、また、税率はWに関して一定とします。投資家の税負担は
みなし資産所得税=tk ×r×W
純資産税 =tw×W
なので、tw= tk ×r であれば両税の負担額が等しくなります。つまり、税率twの純資産税は、税率tk=tw/rの、みなし資産所得税に他なりません。
みなし資産所得税は政府が収益率を設定し、それをすべての投資家に適用する税制です。よって、純資産税も、各投資家が得た実際の収益とは関わりなく課税します。結局、Wの等しい投資家であれば、すべて同額の税負担(twW)となります。
しかし、同額のWでも、株式保有者と定期預金保有者とでは、実際の資産収益が異なるでしょう。純資産税では実際に高い収益を得る投資家ほど、その収益に占める税負担の割合が低くなります。つまり、実際の収益に関して逆進的となります。
他方、日本などで採用されている実際タイプの資産所得税では、実際の収益率をrとすると、
実際タイプの資産所得税=tk×r×W
となります。rが投資家によって異なることに注意して下さい。この税制では、実際の収益額r×Wに対する税負担割合は、どの投資家にとってもtk となりますね。
注
1.Cnossen, S.and L.Bovenverg [2000] “Fundamental Tax Reform in the
Netherlands”,CESifo Working Paper,No.342,pp.1-19.
2.Scheuer,F,and J.Slemlod [2021]“Taxing Our Wealth” Journal of Economic Perspectives,Vol.35,pp.207–230.
(執筆:馬場義久)