憲法第53条の運用について考える
11月15日の朝日新聞に「20日以内の召集、自民が反対意向『違憲の可能性』指摘」という記事(注1)がありました。
憲法第53条は「内閣は、国会の臨時会の召集を決定することができる。いづれかの議院の総議員の四分の一以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない。」と定めています(注2)。これを歴代の内閣が、期限が規定されていないことをいいことに、実質的に無視してきたことはご案内のとおりです。その件については那覇地裁が「違憲と評価される余地はある」と判示した(注3)。
自民党の憲法改正草案でも「20日以内」と規定する案が示されていることは、記事のとおり(注4)。しかし、これは、憲法改正のハードルが高い場合、国会法の改正でもできるのではないかと私は考えていました。いろいろな人に話してはいたのですが、また、東京弁護士会からも同旨の意見があります(注5)。そうしたところ、今国会で、立憲民主党と維新がそういう国会法改正案を提出したというので、その成立を期待していたら、この新聞記事では、自民党の議運委員長は「内閣の召集権の侵害になる恐れがある、」と発言し、「違憲となる可能性があると指摘したという。」しかし、自民党のこの発言は、憲法上内閣に国会召集については全面的に内閣の裁量に委ねられており、それを制限することは許されないとする解釈なのだろうか。法律は往々にして、内閣に義務づけを行うものが多く、また「国会」は国権の最高機関であるのだが・・・。この解釈に従えば、国会法第2条の「常会は、毎年一月中に召集するのを常例とする」も、同第2条の3の「衆議院議員の任期満了による総選挙が行われたときは、その任期が始まる日から三十日以内に臨時会を召集しなければならない。」という規定も違憲となると思われるのだが、見解を聞いてみたいものだ。各党の協議による実現を期待したい。
(注1) https://digital.asahi.com/articles/DA3S15475067.html?iref=pc_ss_date_article
(注2) 私の恩師伊藤正巳元最高裁判事の『憲法第三版』(1962年3月弘文堂)によると「この臨時国会召集要求件は、召集を行政部にのみ委ねるのではなく、国会の立場を配慮しているようであるが、議院内閣制のもとでは、実際上は、国会における少数派の権利を認めたものである。この要求があったときは、要求される期間に常会または特別会が召集されるため明らかに臨時会の必要がないと認められるときのほかは、内閣は相当の期間内に速やかに召集を決定しなければならず、緊急の必要性がないとか、内閣側の準備がととのわないなど不都合があるという理由で召集をおくらせることは許されない。要求に期限や期日を指定することが多い。これはそのまま内閣を拘束するものではない。しかし、この国会側の意思を尊重しつつ社会通念上相当と判断される期間内に召集すべき義務を負うのでありその期間をすぎた臨時会の招集は要求に応じたものではなく、内閣の職権に基づく臨時会の召集とみられるただ、臨時会召集の要求に対する召集義務に違反しても、履行を強制する法的方法はなく内閣の政治的責任を追及するほかない。」とされる(p.452)。
(注3)「憲法53条後段に基づく内閣による臨時会の召集の決定については,憲法が採用する三権分立の原理に由来する司法権の憲法上の本質に内在する制約として,裁判所の司法審査権は及ばないと解すべ きである。」としつつ、「憲法53条後段に基づく臨時会の召集要求に対して,内閣は臨時会を召集するべき憲法上の義務があるものと認められ,かつ当該義務は単なる政治的義務にとどまるものではなく,法的義務であると解されることから,同条後段に基づく召集要求に対する内閣の臨時会の召集決定が同条に違反するものとして違憲と評価される余地はあるといえる」 https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/566/089566_hanrei.pdf
(注4) https://jimin.jp-east-2.storage.api.nifcloud.com/pdf/news/policy/130250_1.pdf
(注5)「憲法第53条後段に基づき、速やかな臨時国会の召集を強く求める会長声明」(2021年09月09日東京弁護士会 会長 矢吹公敏)https://www.toben.or.jp/message/seimei/post-629.html
(以上のURLの閲覧日は、すべて2022年11月25日である)
(執筆:平嶋彰英)