トランプ大統領の公約と財政面から見た真実(上)
トランプ氏ほど公約にこだわる大統領も珍しい。彼は、2020年11月の大統領再選を目指し、「米国第一」のための公約実現こそが有権者の信認を得る一番の近道だと考え、そう行動してきた。では、16年の大統領選挙で掲げた主な公約はどの程度守られているのか。
通商政策では、北米自由貿易協定からの脱退を公約したが、再交渉により米国に有利な米国・メキシコ・カナダ協定に合意させ、批准に向け動いている。環太平洋パートナーシップ(TPP)協定については、公約通り離脱を表明した。関税を使って米国に有利に二国間貿易交渉を進めるために、関税ゼロを目指すTPPを離脱したのである。そして、高関税化等で対中国貿易赤字の解消を公約していたが、実際に対中貿易交渉で、18年7月以来第1弾~第4弾の制裁関税を課そうとし、中国もこれに反撃の制裁関税を発動する動きになって、米中貿易戦争にまで発展している。
環境政策では、地球温暖化対策の国際的枠組である「パリ協定」からの離脱を公約していたが、実際に離脱を表明した。エネルギー政策では、資源開発に対する規制緩和を公約していたが、天然ガスや原油などエネルギーを運ぶパイプラインの建設を促進する大統領令に署名している。金融政策では、2007-09年金融危機の再発防止を目的とした2010年金融規制改革法の廃棄を公約していたが、18年に中小銀行に対する規制緩和などの部分緩和の同法改正を実現している。
移民政策では、メキシコ国境に壁建の建設を公約したが、その財源を下院民主党の反対で直接予算化できないので、非常事態宣言をして国防予算から捻出する方針である。
医療政策としては、医療保険への加入を義務付けた2010年医療費適正化法(オバマケア)の完全廃止と別制度の導入を公約したが、2017年減税・雇用法においてオバマケア罰則金の撤廃を実現できただけである。財政政策の公約(減税政策)は、次稿で詳しく述べる。
トランプ大統領は、上述のように公約を守ろうとしている点で「立派」に見えるかもしれないが、公約そのものが時代に逆行していたり、それを独りよがりに国際ルールや民主主義を無視して推進しようとするなど、国内外から批判を受け、望ましくない結果も生じている。
(執筆:片桐正俊)