感染性疾患の医療経済学(下)
前回(No.137)は、感染性疾患の一つとして新型コロナウイルス(以下、COVID-19)を取り上げ、基本的課題を概観しました。日本では、経済や医療への影響を最小化する上でいくつかの対策がとられていますが、今回は、オンライン診療(遠隔診療)について検討します。
オンライン診療は、「遠隔医療のうち、医師—患者間において情報通信機器を通して、患者の診察及び診断を行い診断結果の伝達や処方等の診療行為を、リアルタイムにより行う行為」(注1)とされます。COVID-19感染者の受診機会として、4月13日以降、時限的・特例的にオンライン診療が可能になりました(注2)。基本目的は、感染拡大の抑制、医療提供体制の維持にあり、これは、院内感染の抑止に限らず、経済への悪影響の長期化を回避する上で有用とされます。
一方、基礎疾患等の患者がCOVID-19への感染を憂慮して通院を控え、これに伴う症状の悪化、重症化が懸念されています。オンライン診療は、こうした患者の受診機会を確保する方法の一つとしても重要性が増しています。
本来、オンライン診療においては、かかりつけ医の役割と診療・服薬歴の把握が重要になります。一般に、医師と患者間でのテレビ電話(パーソナル・コンピュータ、携帯端末等)の活用が基本になりますが、初診の際にこうした情報が確認できない場合には、医師の適切な判断・処置が困難になるケースがあるとされます。また、再診以降、医師は診療・服薬歴を確認することができる一方、患者はこうした情報が手元にない状態でオンライン診療や対面診療を継続することになります。
筆者は、かかりつけ医の役割に限らず、IT(ICT)が普及する中では、患者が健康と医療の情報を確認・活用できるシステムが重要と考えています。一例として、患者は自分の健康状態や治療・服薬歴を確認してセルフケアに取り組み、かかりつけ医の指導による健康維持・管理(緊急時の対応を含む)が可能になる体制が望ましいと思われます(注3)。
これまで日本では「フリーアクセスの対面診療」が基本とされ、こうしたシステムは必ずしも重視されませんでした。次回は、COVID-19の感染者が特に多いアメリカにおいて、オンライン診療が通常の医療として実践される事例を取り上げます。
(注1)厚生労働省「オンライン診療の適切な実施に関する指針」
(https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000201789
pdf#search)p.5。
(注2)厚生労働省「新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱い」(https://www.mhlw.go.jp/content/000620995.pdf#search)等を参照してください
(注3)日本医師会では、「新しい生活様式」の一つとして、これに類似する「提言」がなされています(日本医師会「日医ニュース」2020年6月20日,No.1411を参照)。こうした方向でのIT(ICT)化を進める場合には、運用・管理システムの他に、診療報酬等の制度対応の検討が必要になります。
(執筆:安部雅仁)