再考:純資産税(4)-超過利潤の課税
本コラムNo.266で述べたように、純資産税は投資家が実際に得た資産収益に課税せず、投資家全体に共通の「みなし収益率」に基づいて課税する資産所得税の一種です。
いま、市場利子率4%(国債等安全資産の収益率)のもとで、税率1%の純資産税を採用したとします。Wを負債控除後の純資産とすると
純資産税負担=0.01×W=(0.01/0.04)×0.04×W
より、この純資産税は, 資産所得税率を25%、みなし収益率を4%とする、みなし資産所得税と等価です。
いま、殆どの投資家が実際に4%の収益をあげ、他方で7%の収益を得た投資家もいると想定しましょう。この場合でも純資産税は、7%のうち4%分しか課税しません。
7%-4%=3%分を超過利潤と呼びます(超過利潤について詳しくは注1,36頁を参照)。金融資産の超過利潤とは、市場利子率という事前の期待収益率を上回る収益のことです。他方、市場利子率4%分を、事前の期待どおりの収益という意味で正常利潤と呼びます。つまり、純資産税は正常利潤のみに課税します。
超過利潤を生む代表例はキャピタルゲインです。キャピタルゲインは資産(株や土地等)の値上り益(=売却額-購入額)のことです。たとえば、斬新な技術革新を行った企業の株価は、市場利子率を上回る上昇を示します。
ちなみに2016年において、全米で所得が1000万ドル(約13億円)超の富裕者-所得基準のスーパーリッチ-が得たキャピタルゲインは、彼らの全所得の46%を占めます(注2,194頁)。富裕者ほど豊富な情報に基づいて株式投資を行えるので、多くの超過利潤を取得したことでしょう。もちろん超過利潤は消費機会を増やしますので、課税の公平の見地からは課税すべきです。
しかし、純資産税はこの超過利潤を課税しません。スーパーリッチが他階層より多額の超過利潤を得る場合、所得格差是正の観点からは、キャピタルゲインによる超過利潤の課税強化が求められます。この点からすれば、純資産税には限界があります。
注
1.八田 達夫 [1996]「所得税と支出税の収束」、木下和夫編著『租税構造の理論と課題』税務経理協会、25-58頁。
2.Scheuer,F,andJ.Slemlod [2020]“Taxation and Superrich”,Annual Reviews of Eonomics,vol.12,pp.189-211.
(執筆:馬場義久)