再考:純資産税(5)-スイスの純資産税
今回はスイスの純資産税の仕組みを紹介します。その税収は、2020年に対GDP比1.1%を占め、欧州の他の純資産税採用国であるノルウェーの0.5%、スペインの0.2%を上回っています(注1より)。
スイスの純資産税の特徴は、第一に、州と市町村の税として課税される点です。26の州が自主的に税率・課税最低限を決定し、2300の市町村は当該州の税の一定率の税収を得ます。純資産は基本的に納税者の居住地で課税され、住宅などの不動産のみがその所在地で課税されます。(注2,pp.5-6より)。低い税負担地域への納税者の移動を起こしかねません。
第二に、2018年の課税最低限は、夫婦の家計で最低の州が5.5万ドル(743万円)で最高の州が25万ドル(3375万円)の値です。この額を超えた純資産額に課税されます。州と市町村を合わせた税率は0.1%から1.1%に分布しています(注3,p.211より)。ちなみに、米国民主党のサンダー議員が提案した純資産税は、課税最低限が3200万ドル(43.2億円)、最高限界税率8%です(注3,p.212,表1より)。
課税最低限と税率が低いスイスの純資産税は累進度の低いタイプです。また、課税対象者に富裕層に加え中間層を含めています。
さらに、スイスには、株式等の金融資産のキャピタルゲイン税がありません (注2,p.6より)。つまり、純資産税はキャピタルゲイン税の部分的な代理を担っています。部分的とは、金融資産のキャピタルゲインの正常利潤のみに課税するという意味です。
以上のようなスイスの純資産税の仕組みは、富裕層との格差是正(再分配)機能を限界づけることでしょう。
注
1.OECD URL [2022]
https://stats.oecd.org/viewhtml.aspx?datasetcode=REV&lang=en
2.Brülhart,M, J,Gruber,M,Krapf,and K,Schmidheiny [2019]“Behavioral Responses to Wealth Taxes: Evidence from Switzerland.” CESifo Working Papers 7908.
3.Scheuer,F,and J.Slemlod [2021]“Taxing Our Wealth” Journal of Economic Perspectives,Vol.35,pp.207–230.
(執筆:馬場義久)