日々是総合政策No.50

経済成長(続き)

 こんにちは、ふたたび池上です。前回は、生産関数の収穫低減、経済成長における人口と一人あたり消費のトレード・オフのお話でした。前回予告した、技術革新が起きる場合の経済成長の話は次回に延期し、今回は絶対収束、条件付き収束のお話です。
 生産関数が収穫低減の場合、資本蓄積、人口増加が進むにつれて、追加的な資本の増加、人口の増加がもたらす生産へのリターンは低減し、経済成長のスピードは遅くなります。話を簡単にするために、資本、人口の2つの変数を、資本を人口で割った一人あたり資本という1つの変数にして、話を進めます。生産関数が収穫低減の場合、一人あたりの資本の蓄積が進んだ先進国の経済成長率は、途上国の経済成長率より小さいのです。やがて、途上国の経済は先進国の経済に追いつきます、つまり、各国間の一人あたり資本および所得における経済格差はなくなるのです。世界の一人あたり資本および所得が同じ値に収束するので、絶対収束と呼びます。
 実際の経済データを用いて、この絶対収束が成立しないこと、途上国が先進国に追いついているとは言えないことがわかっています。なぜでしょうか?実は、前々回お話した、生産物のうち、どれだけ消費せずに貯蓄するかという貯蓄率が異なると、一人あたり所得が収束する値が異なるのです。また、人口成長率が異なると、一人あたり所得が収束する値が異なります。これらの貯蓄率、人口成長率の差異を考慮するという条件つきならば、一人あたり資本の小さい国は、大きい国に追いつき、一人あたり資本、所得が同じ値に収束する、というのが条件付き収束です。実際の経済データを用いた研究は、貯蓄率や人口成長率だけでなく、貿易政策などの違いも考慮して、条件付き収束が成立することを示しています。たとえば、アメリカの各州の間における、一人あたり資本、所得以外の変数の違いは、世界各国のそれらの変数の違いより小さいことが推測できます。この違いの小ささを利用し、アメリカの各州の間では条件付き収束が成立することがわかっています。
 次回は、生産関数が変化しないという仮定を外し、技術革新が起きる場合の経済成長のお話です。

(執筆:池上宗信)

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