地方創生の現場から(下)
前回のコラムでは、第2期の総合戦略の策定作業が、現在進行中であることを説明しました。今回は「地方版人口ビジョン」に絞って、課題を述べたいと思います。
長期的な人口増減は、出産可能な年齢の女性数に大きく影響を受けます。仮に出生率が高くても若年女性が地域外へ流出してしまえば、地域内で生まれてくる子どもは減少するからです。日本創生会議が2014年に発表した「消滅可能性都市」とは、今後30年間で20-39歳女性人口が半分以上減少する自治体のことです(注1)。20-39歳女性が注目される理由は、実際に95%程度の子どもがこの年齢の女性から生まれているからです。出生率が1.4と低く、20-39歳になる頃までに3割程度の人口が地域外に流出すれば、20-39歳の女性人口は親世代の半分程度になります。消滅可能性都市とは、まさにこのような自治体が想定されており、全自治体の「半分」が該当するとされたのです。
第1期の「地方人口ビジョン」に示された人口の「将来展望」をみると、将来の総人口をより高く維持することが重視されたことがわかります。一方で、一部の先進的な自治体を除いて、将来の若年女性人口は完全にブラックボックスになっています。
各自治体が将来人口を推計する場合には、将来の出生率と社会増減数の前提を自ら置く必要があります。将来の総人口を高く維持しようとすれば、必ず無理な前提が置かれ、そのしわ寄せが特定の年齢層の人口に不自然な形で及びます。無理な前提で、自治体の将来人口を実際に推計してみると、「将来展望」が実現した場合、現状よりも将来のほうが若年女性数も出生数も多くなります。このことから、多くの自治体の「将来展望」が実態からかけ離れたまま見過ごされ、形骸化していることが容易に想像できます。
人口対策は、今日それを担う人たちの多くが2040年には責任を負う立場にないため、後回しにされがちです。2040年に責任ある立場にいる今日の若者の多くが、政治にも地域の未来にも関心がないことがこれに拍車をかけていると感じます。地域の現場で抱く懸念は、このように地域の人々によって人口対策が形骸化されてしまうと、地域で芽吹いた新しい動きまで台無しにされるのではないか、ということです。今日の行動が地域の将来を決めます。若い人たちにも将来への投資を期待したいと思います。
(注1)日本創生会議「ストップ少子化・地方元気戦略」(閲覧日:2019年10月31日)
(執筆:鷲見英司)