広がる低学齢期の教育格差
日本において、教育の利用や選択をめぐる機会均等を論じる際、その経済的な下支えである家計の教育費、具体的には税金で賄われない学校外教育費に注目し、その家計毎の支出実態を検証することが重要です。なぜならば、小学校から大学に至るまでの教育費に占める私費負担の割合は、2015年でOECD平均が16%に対し日本は28%と、私費への依存度が高いからです(Education at a Glance 2018(OECD))。日本では、憲法第26条に規定されている「教育を受ける権利」を確保するため、義務教育は無償で提供されています。ただし、塾や習い事、家庭教師や予備校といった有償の学校外教育が、学校教育と並行して実施されるのが常となっているため、教育の私費負担が増し、家計の経済状況の差が教育機会の格差に結びつきやすいと考えられます。
筆者は、Kakwani (1977) で提唱された所得や支出の格差を検証する代表的指標の1つである「カクワニ係数」を改良した「修正カクワニ係数」をもとに、学校外教育費の典型である補習教育(塾、予備校、家庭教師代等)について、家計毎の支出格差がどれくらいあるかを、「家計調査年報」(総務省統計局)のデータを用いて、実証分析してみました。修正カクワニ係数とは、調べたい消費額(ここでは補習教育)の家計間の偏り(補習教育集中度係数)と、全ての消費額の世帯間の偏り(全消費集中度係数)の差を調べ、その差が大きければ、全消費額の偏りに比べて調べたい消費額の家計間の偏りが大きい、すなわち家計間の支出格差が大きいと判断するものです。分析の結果、補習教育全体の修正カクワニ係数は、2000年以降上昇トレンドにあって、その傾向は、幼・小学校段階の補習教育において顕著であることが確かめられました。
高校生への授業料補助や大学生向けの給付型奨学金の拡充など、近年、教育への新たな税金投入の動きは始まっていますが、その中心は依然として学校教育費で、家計の経済状況に左右される学校外教育費は含まれていません。修正カクワニ係数を用いた実証分析は、家計の経済状況によって、教育の機会均等が阻まれていないかを注視しつつ、低所得家計の幼・小学校段階の学校外教育費(塾代や家庭教師代等)に税金を投入することの是非について、議論が必要であることを示唆するものと考えます。
(参考文献)
Kakwani,N.C. (1977), “Measurement of Tax Progressivity : An International Comparison,” Economic Journal, vol.87, pp.71-80.
(執筆:田中宏樹)