公共政策における文脈
文脈とは条件、背景、意味の関係性を指す。公共政策を構造的に理解するためには、文脈の理解が欠かせない。EPA(Economic Partnership Agreement:経済連携協定)、日米貿易交渉、1938年電力管理法制定の3つの例を挙げて説明しよう。
第1に、EPAではフイリピン、ベトナム、インドネシアから候補者を受け入れ、国家試験合格の後に日本で介護士や看護師として働くことが想定されている。日本は医療・介護での人材不足を補い、外国は人材派遣による外貨獲得が可能となる。また、自動車などの関税引き下げをこれらの国と協定として結んでいる。日本は安い値段で商品を輸出でき、外国は日本の商品を安く購入できる。この一見関係ないように見える2つの政策が1つの文脈で結びつき、日本における医療・介護の人材供給不足の解消という政策と、アジア諸国への貿易輸出の拡大という政策とが連結している。
第2に、日米貿易交渉でも文脈は重要である。日本の自動車や半導体の輸出に対してアメリカからは輸出枠の割り当てが示され、アメリカから日本への農産物の輸入割り当てが交換条件とされることが多い。さらには日米安全保障などの国防政策と連結し、日本とアメリカの経済貿易交渉が決定されることもある。つまり、米軍の基地負担を日本政府に上乗せされたり、国防でのアメリカの順守を約束する代わりに、自動車関税の引き下げを保証したりすることが行われてきた。まさしく国内政治と国際政治は連結し、農業政策と経済政策が関係し、国防政策と貿易政策とが連結しているのである。
第3に、このような政策連結は過去にも例があった。1938年の第1次近衛文麿内閣は盧溝橋事件に伴う対中国外交に苦慮していた。また緊急勅令による選挙法改正を行い、近衛新党によって総選挙を行う噂が衆議院で流布された。既存政党が崩壊する危機に立憲民政党や立憲政友会は動揺し、貴族院も対中国外交の重要性を認識し、近衛文麿内閣の崩壊を危惧した。その結果、電力管理法は背景の異なる対中国外交や内閣総辞職・衆議院解散と結びつき、R.パットナムが言う二層ゲームを形成しながら衆議院や貴族院で法案が通過したのである。
(執筆:武智秀之)