日々是総合政策No.79

人口減少のインパクト(6):合計特殊出生率(1)

 人口動態に大きな影響を与える要素の1つとして,出生が挙げられます。現在の人口減少社会の要因は,結局のところ,出生数が継続的に低下してきていることにあります。
出生の動向を把握する指標として,「合計特殊出生率」(Total Fertility Rate:TFR)が挙げられます。皆さんがよく聞く「出生率」は,合計特殊出生率を指していると考えて良いでしょう。今回のコラムでは,この合計特殊出生率について解説していきます。
 合計特殊出生率をざっくりと説明すると,「一人の女性が一生の間に産む子ども数の平均値」となります。もう少し踏み込んで説明をしましょう。まず,女性の出産可能年齢を15歳から49歳とします。もちろん,この年齢以外でも出産をすることは可能ですし,実際に出産をしている人もいますが,国際的な定義として15歳から49歳と設定されています。
 次に,ある年に生まれた女性の,年齢別の出生率を把握します。例えば,1977年生まれの女性の15歳時点での出生率は,1977年生まれの女性が15歳になったときの,集団全体における出産した女性の割合となります。これを16歳時点での出生率,17歳時点での出生率…という形で算出し,最終的に15歳から49歳までの年齢別出生率を積み上げたものが,1977年生まれの女性の合計特殊出生率となります。
 以上の話を整理すると,1977年生まれ女性の合計特殊出生率とは,「1997年生まれ女性の,15歳から49歳までの年齢別出生率を足し合わせたものである」と定義できます。この合計特殊出生率を「コーホート合計特殊出生率」と呼びます。コーホートとは,同一年に生まれた集団を意味します。
 さて,合計特殊出生率の定義を踏まえると,コーホート合計特殊出生率を利用していくべき,となるかと思います。しかし,コーホート合計特殊出生率には大きな弱点があります。それは,「1977年生まれの女性の合計特殊出生率はまだ算出できない」ということです。なぜなら,1977年生まれの女性はまだ49歳になっていないからです。コーホート合計特殊出生率を算出するためには,対象となる集団が49歳を越えないといけないのです。2019年現在,コーホート合計特殊出生率を算出できるのは1969年以前生まれの集団に限られます。それでは不便なので,コーホート合計特殊出生率に代わる合計特殊出生率が用いられるようになっています。次回はその点について説明します。

(執筆:中澤克佳)