日々是総合政策No.268

ブルー・マンデー

 新聞の論説に目が留まった。「米政治学者のフランシス・フクヤマ氏は1989年の冷戦終結を『歴史の終わり』と評した。世界は民主主義と自由経済の勝利に沸き、もはや取って代わるものはないように見えた。それが『歴史の休日』(米評論家のチャールズ・クラウトハマー氏)にすぎなかったのは、既存の秩序に挑む中国やロシアの蛮行が示す通りだ。」(注1) 
 冷戦後の世界に咲き誇ったグローバリズムの下で、自由経済は一国の内部でも国家間でも格差をもたらした。米国内の政治不安の一因となり国会議事堂襲撃事件を目の当たりにした。社会主義から脱却したロシアは西側諸国との格差に不満を持ち、“愛国心”を煽る権威主義が蔓延し、領土や自然資源を求めてウクライナを侵攻する。民主主義下の政策はグローバリズムと自由経済の弱点是正に十分に機能しなかったのか。
 「冷戦後」に築き上げた国際的な秩序は葬り去られ、国家安全保障が重視される。防衛費増額だけでなく、エネルギー・食料・半導体の安定的確保などが重視される。シンガポールですらフードセキュリティー政策を打ち出した(注2)。自国の都合で輸出を止める食料輸出国や海上輸送の不安を前提に、備蓄・輸入先多様化・食料自給向上が重視される。無限定な比較優位でなく地政学的リスクを踏まえた政策が求められる。
 戦火のウクライナの人々が身を隠すシェルターが日本にはない。旧都市計画法“(1919年)では「都市計画とは、交通、衛生、保安、防空、経済等に関し、永久に安泰を維持し又は福利を増進するため」とある。現都市計画法は「健康で文化的な都市生活及び 機能的な都市活動を確保」と謳っている。もし、防空が目的に入れれば、一定規模以上の建築物には防空用地下室の設置が義務付けられ、都市計画税は引き上げられるかもしれない。
 民主主義を発展させる総合政策への期待は大きいものの、分断化と高コスト化への不安と不満が渦巻くだろう。休日は終わった。翌日はBlue Monday(ブルー・マンデー:憂鬱な月曜日)である。

(注1)小竹洋之「インフレの先は日本化か」、日本経済新聞朝刊「Opinion」、2022年7月26日
(注2)元杉昭男「コロナ禍のシンガポール的選択」、日々是総合政策No.235、2021年9月3日

(執筆:元杉昭男)