日々是総合政策No.56

正規雇用の定着には総合的な政策で

 人は産まれた年を選ぶことはできませんが、いつ誕生したかは、およそ20年後の就職活動の時期に大きな影響を受けます。
 今年の終戦の日、日本経済新聞の一面記事は、「『氷河期』100万人就職支援」というものでした。政府は、就職氷河期と呼ばれる1993年から2004年にかけて就職した人たちを対象にした就職支援を検討するということです。具体的には、支援対象者が正規雇用として半年定着した場合、対象者に職業研修を施した事業者に対して成功報酬型の助成金を支給するというものです。
 就職氷河期と呼ばれたころの日本経済は、バブル経済の崩壊、アジア通貨危機、不良債権処理の失敗による大手金融機関の破綻、アメリカのITバブル崩壊といった事象が続き、景気低迷が続きました。これらの事象は当時の新卒学生の就職活動に多大な影響を与えました。多くの学生は何十社も会社訪問を行わなければ内定を得ることはできませんでした。それでも多くの学生は内定を得ることができず、正規雇用を諦めて非正規雇用者となっていきました。現在、この世代の人たちは30歳代半ばから40歳台半ばにさしかかっています。近年、この世代の引きこもり者による事件が世間を賑わせていますが、事件を起こした者の多くは、就職がうまくいかずに引きこもったということです。
 この世代の人たちが非正規雇用者から正規雇用者になるということは、今後の労働力、社会保障の担い手になるということに加え、社会の安全といった点からも重要になるでしょう。ただ、仕事を続けるということは、個人の性格といった心理的な要因や会社の風土にも影響を受けます。いくら研修を受けて仕事上のスキルを身につけたとしても、本人が仕事を継続できるのか、正規雇用を与えてくれた会社の風土に合うのかが問題になるのです。それらの点を考慮しなければ、いくら金銭的な支援があったとしても正規雇用の定着は進まないでしょう。その意味でも、この政策は金銭的なものだけでなく、心理的な側面も取り込んだ総合的な政策が求められるのです。

(執筆:矢口和宏)

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