オンライン診療(アメリカの動向整理)
前回(No.163)は、COVID-19の感染者、基礎疾患等の患者それぞれの受診方法として、オンライン診療(遠隔診療)の基本的内容を整理しました。今回は、アメリカの事例を取り上げる予定でしたが、この前にオンライン診療の動向と主な課題を見ておくことにします。
各メディアにおいて報じられているように、アメリカではCOVID-19の感染者が急増しており、CDC(Centers for Disease Control and Prevention)の調査によれば、2020年10月21日時点での感染者、死亡者がそれぞれ約810万人、22万人となっています(注1)。これらの対応の一つとして、COVID-19の感染予防と在宅診療、基礎疾患患者の受診機会の確保、それぞれを基本目的にオンライン診療が導入され、利用者が増加しています。図1は、こうした動向を示す一例です。
図1 オンライン診療の利用状況
COVID-19の感染者が拡大する前の2020年1~2月には、オンライン診療の利用者割合は11%程度でしたが、感染者が大きく増加した3月以降これが上昇して、8月には36%になっています(注2)。
オンライン診療の増加に伴って(あるいはその促進策として)、いくつかの対応が検討・導入されています。一例として連邦政府は、医師-患者間でのアクセスを容易にする上で、HIPAA(Health Insurance Portability and Accountability Act)の罰則規定を一時的に緩和しました。これにより、無料・低負担の通話ツール(Google、Zoom、Skype等)でのオンライン診療の利用機会が拡大されることになりました(注3)。
多くの保険団体では、COVID-19の検査に要する自己負担の引き下げや無料化を進めており、オンライン診療の報酬を設定・加算するケースも見られます(注4)。また、アメリカ医師会は、オンライン診療の利用者増加に対応する上で、医師用のマニュアルを作成・開示しています(注5)。
アメリカでは、COVID-19の感染者拡大がオンライン診療の導入・拡充の大きな起点になっていますが、そのシステムは検討・構想の過程にあると考えられます。次回は、いくつかの保険団体の事例(システム)を取り上げる予定です。
(注1)Centers for Disease Control and Prevention「CDC COVID Data Tracker」より。https://
covid.cdc.gov/covid-data-tracker/#cases_casesper100klast7days(2020年10月21日最終確認)。
(注2)オンライン診療は、慢性疾患やメンタルヘルスの健康相談、服薬指導と緊急時の対応、在宅診療の促進それぞれにおいても有用とされます(図1の「利用した/利用している」には、こうした患者も含まれます)。なお、患者の一定割合は、オンライン診療の有効性・安全性について懐疑的とされ、図1の「関心がない/考えたことがない」とする理由の一つは、これにあるとされます。
(注3)U.S. Department of Health & Human Services「HIPAA and COVID-19」https://www.
translatetheweb.com/?from=en&to=ja&ref=SERP&refd=www.bing.com&dl=ja&rr=UC&a=http
s%3a%2f%2fwww.hhs.gov%2fcoronavirus(2020年10月20日最終確認)。これについては、プライバシー保護に関係する課題が指摘されています。
(注4)各保険団体の対応として、BlueCross BlueShield、Kaiser Permanente、UnitedHealth Group、Humana、Aetna等のウェブサイトが参考になると思います。それぞれの「保険団体名、COVID-19」を入力・検索すれば、概要を見ることができます。なお、医療機関においてもオンライン診療が導入されていますが、対応方法は異なっているようです。
(注5)American Medical Association「AMA COVID-19 Guides」https://www.ama-assn.
org/topics/ama-covid-19-guides(2020年10月19日最終確認)。
(執筆:安部雅仁)