日々是総合政策No.58

位置づけ・意味づけ・秩序づけ

 前回(No.45)述べたように、ある社会の政策決定は、時間を越えて、その社会の将来世代に色々な影響を及ぼします。例えば、1937年7月の盧溝橋事件に始まる日中戦争や1941年12月の真珠湾攻撃に始まる太平洋戦争(大東亜戦争)について、当時の日本政府が下した政策決定は、日中戦争や太平洋戦争に全く関与していない戦後生まれの日本国籍の人々にも負の遺産をもたらしています。
 これは、前回考察した地球温暖化対策が有する外部性と同じく、将来世代への政策の外部性の一事例で、「政策の通時的外部性」といえるものです。
 政策を総合的に研究するとき重要になるのは、時間軸と空間軸から構成される時空の中で、社会や文化や歴史や社会問題や政策や人間を、どのように位置づけ・意味づけ・秩序づけるかです。いまの日本で日本国籍をもつ一人の人間として、各日本人が日中戦争や太平洋戦争という歴史的事柄をどのように位置づけ・意味づけ・秩序づけるかで、いまの日本を「より良い社会」に変えようとする人間の営みも違ってきます。すべての日本人が、これらの戦争について十分な情報をもっているわけではありません。追加的な情報を獲得することの便益と費用を比較考量して費用の方が便益よりも大きければ、それ以上の情報を獲得せず情報欠如になります。この状態は、政治過程を経済学的に分析する公共選択論では「合理的無知(rational ignorance)」といわれています。
 合理的無知の状況にある人々に、日本国内外の歴史専門家や政府や学校やメディアなどが日中戦争や太平洋戦争の情報を提供しています。しかし、その情報は情報提供する主体の独自の窓から取捨選択された情報になります。そうした情報を基に、各人は日中戦争や太平洋戦争を位置づけ・意味づけ・秩序づけます。戦争だけでなく考察の対象にする事柄に関する、位置づけ・意味づけ・秩序づけとは、次の通り定義できます。
 位置づけとは、その事柄を類型化した範疇の中で特定化しその位置関係を同定することである。意味づけとは、その事柄に特定の視座から物語としての意味を与えることである。秩序づけとは、その事柄の位置づけと意味づけに基づき、その事柄について取り組むべき活動の優先順位を決めることである。

(執筆:横山彰)

(注)本随筆は、横山彰(2009)「総合政策の新たな地平」中央大学総合政策学部編『新たな「政策と文化の融合」:総合政策の挑戦』6頁(中央大学出版部)の一部について加筆修正を加えたものである。

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