日々是総合政策No.126

民主主義のソーシャルデザイン:リスクとクライシスのマネジメント(1)

 2020年2月20日時点での厚生労働省の発表によると、日本国内における新型コロナウイルス感染症の患者さん(有症状者)は70名(うちチャーター便で帰国された方が10名)となっています。これまでも世界ではSARSやMERSなどの感染症に対応してきた経験があります。約10年前には、鳥インフルエンザの脅威もありました。ここで、リスクマネジメントや危機管理(クライシスマネジメント)について考えておくことにしましょう。
 まず、「リスク」とはどのように考えれば良いのでしょうか。
 自転車に乗った時に歩行者とぶつかってしまったというケースを想像してみてください。相手も自分も怪我をしたり、自分の自転車が壊れたりと、いろいろな損害が発生すると思います。こうした損害を発生させないようにするためには、どうすれば良いでしょうか。答えはシンプルで、事故を発生させなければ良いということになります。ただ不可抗力的な事故もありますから、完全に事故を発生させないというのは困難です。そこで、自転車に乗っている人も、歩行者も、できるだけ「事故が発生させないようにする」、つまり「事故の発生率」を小さくするように安全運転をしたり、注意しながら歩いたりすることでしょう。つまり、リスクとは「事故が起きたときの損害の大きさ」に「事故の発生確率」を掛け合わせた「実際に起こり得る損害の大きさ」であると言えます。リスク管理で行うことは、「事故の発生確率」をできるだけ小さくすることであると言えます。
 人為的な事故や事件、さらには戦争や紛争などは、発生確率を小さくするというリスク管理を行うことは可能です。しかし、今回の感染症や災害など、どうしても人為的にコントロールすることができないリスクや予見が困難なリスクもあります。この「予見可能性」は損害賠償責任の有無の判定に大きな影響を与えます。つまり、「予見できていたのに損害発生を避けるための努力をしていなかった」のか、「そもそも予見できていなかった」のかということは、同じ「損害発生」を避けられなかった状態であっても意味が違うのです。

(執筆:矢尾板俊平)