日々是総合政策No.326

国庫補助事業の話(2):三段組版
 農村整備事業の計画打合せで出張した市の会議室に入ったら、制服を着た20人ばかりの消防職員の方が集まっていた。市街地から外れた農村での消火活動に農業用水路を利用した40か所以上の防火水槽を作りたいとのことでもあった。確かに井戸や簡易水道では初期消火もままならないのだ。しかし、農業用水路は土地改良財産で土地改良法の他目的使用の許可が必要で、農業用水路にも防火水槽にも技術基準がありその調整もある。農村の総合的な整備のモデルを目指す立場から色々な事業を組み合わせた計画が望ましいと思っていたので考え込んでしまった。
 農村整備事業は前回(本コラムNo.325)説明したように農業用と生活用インフラの結合供給を狙った事業だが、兼用のインフラ整備に必要な制度的・技術的調整は簡単ではない。「何でもできる」という総合事業には、市町村から都道府県・地方農政局を経由して様々な要望が本省に上がってくる。そこで、全国7つの地方農政局の担当者を、道路関係は○○局、公園関係は××局、防災施設は△△局といった形で分担して、どの局の担当者も道路関係で問題があれば○○局担当者と相談するようにした。私の労力軽減にもなったが、効率的・専門的に調整でき地方局担当者の意欲向上にもなった。
 数か月が経ち、群馬県の伊香保温泉に全地方局担当者を集め2泊3日で調整会議を開催した。温泉で休養を取るどころでなく、朝9時から夜の遅くまで、3日間を旅館の地下会議室で過ごした。私は理由の付く限り地元の意向(要望)を大切にしたかった(本コラムNo. 33「サーベル行政」No. 80「美しい誤解」を参照)。技術基準の調整方法や補助対象の可否などを話し合った。山頂にある集落の神社へ行く山道の舗装は途中の果樹園にも利用されれば補助対象になるといった具合に議論を進めた。
 国庫補助事業の要綱やその解釈を記した要領は抽象的に書かれていので、細かい運用は担当者に委ねられる。そこで、ページの一番左に要綱、その右に関連要領、一番右に伊香保会議の成果(採択事例とその理由など)を記したガリ版刷りの「三段組版」を都道府県に配布した。ところが各地の会計検査院の検査で三段組版が使われ私が問われる立場になった。次年度には抽象的な表現に改めた改訂版を配付したが旧版の海賊版が広く流通した。印刷物の怖さを知ったが、国庫補助事業は廃止されても公金を使う以上何らかの基準は必要である。それを多忙な市町村職員の方に任せることも酷なように思える。

(執筆:元杉昭男)

日々是総合政策No.325

国庫補助事業の話(1):国の理念と市町村の実務

 1970年代に入り、農業基本法の目指す農工間格差是正は政策米価引上げ運動に偏り、過剰米も発生した。農水省は農家の目線を米価から農村の生活インフラの改善に向けてもらおうと農村整備事業を立ち上げた。農村の生活環境は劣悪だった。市町村が当時の国土庁の指導・助成で農村総合計画を策定し、それを受けて農水省は50%の国庫補助金で選別したインフラを数年かけて整備する。農村のインフラは農業用の道水路が骨格を為し、農地の区画整理は都市の土地区画整理の役割も果たすので、農業インフラと一体的に生活インフラを整備(結合供給)するのが合理的である。農林水産省は集落毎の意見を反映した農村計画をつくると意気込んでいた。
 いつの間にか「欲しいものは何でも50%の補助の対象になる」と言われるようになってしまった。しかし、整備対象は公共性が必要だし農業政策の一環だから農業振興にも寄与する必要がある。もちろん様々な技術基準は守る必要がある。事業制度創設後5年程過ぎて、20歳代の私は毎年100地区程の計画審査を担当した。限られた予算の中で助成対象の事業を決めるのは難しかった。
 計画審査のために山間部の村に行った。熱心に事業の必要性を説く村長の話を聞いた後、計画策定の作業場に行った。老朽化した木造の庁舎とは別のプレハブ小屋だった。山間とはいえ真夏で冷房もなく、3人の職員が膨大な資料作りと正に格闘していた。計画に使える十分な図面すらなく、パソコンはまだ普及していない。そんな中で農振法などの土地計画・公共施設・農業施設はもとより、村中の水道・道路・水路・河川・防災施設・公園などの状況を調べ上げる。トラック1台分の資料が必要と言われた。国土庁の抽象的な総合計画を具体的に現状把握して計画を策定するのだが、東京に戻って補助対象にしない事業の詳細な資料を大幅に削減した。
 何でも使える交付金にして、使い方は市町村に任せれば良いではないかと言った意見が当時もあった。でも、「誰でも住んでみたい村に」という理念の下で、農地転用規制と農業生産基盤の助成を超えて、美しくて快適な農村のモデルを作り全国に広めたかった。全国の市町村を歩き回り話合ったことは、私にとって行政に携わる上で大きな財産になったが、国レベルの理念に基づく政策実現には、執行する市町村等の実務への配慮が必要なことが身に染みて分かった。

(執筆:元杉昭男)

日々是総合政策No.324

日本の税を考える-消費税再考(3)全世代型課税

 今回は、消費税の長所の一つである全世代型課税を取り上げます。消費税が現役世代だけでなく退職後の高齢世代にも課税する点です。  

表 年齢階層別消費税負担 2024年(人、円/月)

(注記)注より。消費税は注に基づき筆者算出。

 表は世帯主(総世帯)の年齢別に、各世帯の消費税負担額(月当り)を算出したものです。消費支出を課税消費と非課税消費に分け、また、課税消費は10%分と8%分を区別しました。
 世帯主の年齢のうち、29歳以下から70歳以上の6つの年齢階層に注目します。60~69歳、および70歳以上の世帯員数は2.11人と1.78人で、多い方から数えて4番目と5番目です。消費支出の順序は、それぞれ、3番目と5番目で、消費税負担では、2番目と5番目です。
 次に、表の年齢階層における右端に記した、59歳以下全体(世帯主の年齢が29歳以下から59歳までの世帯全体)と60歳以上全体・65歳以上全体とを比較します。消費税負担額は、それぞれ、1万8632円・1万6863円・1万6232円です。6つの年齢区分による消費税負担額に比べて、この3区分の方が均一な分布です。それは、3区分の方が年齢階層を広く取っているからでしょう。
 65歳以上全体の消費税負担は、59歳以下全体の87%(16232÷18632)を占めます。対現役比において、世帯員数の少ない高齢者世帯もかなりの消費税を負担しているわけです。
 消費税は基幹税として財政を支えるだけではありません。退職世代の金融資産保有者にも課税できます。金融資産の利子・配当やキャピタル・ゲインによる消費、資産の取り崩しによる消費にも課税できるからです。しかも、二人以上の高齢者世帯の平均貯蓄残高は2462万円で、二人以上の全世帯(高齢者世帯を含む)の平均貯蓄残高1904万円を上回っています(本コラムNo.321を参照)。
 他方で、高齢者が加入している後期高齢者保険制度等へ、現役世代の健康保険から支援金等の「仕送り」が為されています(本コラムNo.320を参照)。高齢世帯の消費税負担は、この「仕送り」による利益を減らします。消費税が過剰な世代間移転を緩和するわけです。負担者の殆どが現役層となる勤労所得税ではこの緩和は不可能です。     

総務省 https://www.stat.go.jp/data/kakei/2024np/index.html の総世帯をクリックして下さい。
最終アクセス 2026年7月18日。                            

(執筆 馬場 義久)